第二回いしかわ生物多様性カフェ記録

第二回 いしかわ生物多様性カフェ記録

開催日時:2023年11月17日(金)18:30〜20:30

開催場所:石川県立図書館研修室

話題提供者:高田知紀さん(兵庫県立大学 准教授/兵庫県立 人と自然の博物館 主任研究員)

テーマ:妖怪から生物多様性を考える−自然という恵みと災い

参加者数:約50名(一般参加者42名+スタッフ・関係者10名程度)

 

前回の会場はちょっと狭くてぎゅうぎゅう詰めだったので、広い会場に変更(ちょっと広すぎだったかなあ、と独り言)。

 

【趣旨説明】

いしかわ生物多様性カフェとは、人の暮らしと生物多様性について、コーヒーなどを飲みながら、市民と専門家が「対話」する場です。

「対話」を通して、生物多様性を活かした石川の未来を考える機会、生物多様性がテーマのネットワークをつくりたいと考えています。

 

当面は、2ヶ月に一度程度の間隔で開催します。

 

対話はのルールは以下の三つです。

・誰でも参加できること

・誰でも発言できること

・発言を否定しないこと

 

 

 

 

【話題提供】

高田さんは、合意形成、市民プロジェクトのマネジメント、風土を活かした計画論の研究している中堅の研究者。伝統的地域社会において,人びとは不可解な事象に対する説明装置として妖怪(本来的妖怪)を語ってきましたが、思考の合理化によって、キャラクターとしての妖怪が広まってきたといいます。

 

妖怪伝承の多くはある一定の場所性をもって語られています。山には山の、川には川の、海には海の、里には里の、屋敷には屋敷の、それぞれの妖怪が存在しています。妖怪は、それぞれの場所のリスクとわからないことを納得するための伝承と考えることができます。こうした多様性は、たとえばキリスト教圏などでは見られないともいいます。妖怪は自然とのかかわり方の多様性を表しているといえそうです。

高田さんは、自然災害に関する妖怪文化に注目し、妖怪を活用した地域防災を提唱しています。その手法が妖怪ワークショップです。地域のリスクを洗い出し、リスクをシンボル化し、そのエッセンスを表現し、対処の方法検討し、それらを伝承していきます。子どもたちが色々な妖怪を考えた事例も紹介していただきました。みんなでつくる21世紀の妖怪ですね。高田さんは、現代社会で妖怪を語ることの意義として、人間を取り巻く現実の世界は「わかっていること」以上に「わからないこと」で溢れていて、生きていくうえでは「わからないこと」とも付き合っていかなければならない。「妖怪をみるということは,みえないものを無理やりにみようとすること」(水木しげる)を挙げました。

 

ブレイクタイムでは、周りの人と5分ほど雑談。自己紹介や妖怪の話で、各テーブルは盛り上がっていたようでした。

いよいよ対話開始。私の学生が作成した記録をもとに、対話の様子をお伝えします。

 

【対話】

Aさん(大学生):哲学を専攻していて形而上学も学んでいる。妖怪などのよく分からないことを考えることは哲学的で面白い。

 

高田さん:水木しげる先生の「妖怪を見ることは、見えないものを無理やりにみようとすること」という言葉がとても大事。分かること以上に分からないことの方が多い。分かっていることだけで、防災のことを考えるのはリスクがある。生きるときには、分かっていることと分からないことを知って、意思決定することが大事。分かっていることだけで合意形成すると、いい結論にならない。

 

Bさん(行政職員):子どもに分かりやすく防災を教えるツールとしての妖怪。危険回避のゲームを使って学ぶのは面白そう。例えば、電気柵が妖怪 電気柵転がし。

 

菊地:獣とどう付き合っていくかということやリスクを認識するのに妖怪が有用かもしれない。

 

Cさん:なぜ江戸時代に妖怪を信じなくなったのでしょうか?なぜ、現在では科学的ではないものを信じないのでしょうか?

 

高田さん:江戸時代の人はそれより前の時代の人に比べて思考が合理的。そのため、前時代的な妖怪などを信じなくなった。江戸時代以前とは、思考の体系が大きく変わっている。

 

Dさん(大学教員):分からない現象についてリスクを管理する意味で、防災の意味の妖怪もいるように、病に関する妖怪もいるだろう。タイにもおばけがいて、原因を説明できない「風邪」はお化けのせい。エイズは原因が分かったので、おばけではない。説明できない病は呪いやお祓いで対処。人が病の時は術を使う人が解決することができるが、災害の場合は、人々が語り、共有することによって、防災につながると思う。

 

高田さん:神様と妖怪を区別できない。表裏一体。目に見えない事象の原因を何にするかで、対処の方法が変わってくる。神様を原因だとすると、神社のお祓いで対応する。

 

Eさん(大学教員):妖怪ウォッチブームで妖怪に対する関心は変わらないのか?

 

高田さん:子どもたちはずっと妖怪が好き。

菊地:世代間で妖怪に対する興味の差はあるのか?

高田さん:妖怪ワークショップでは親と子が一緒に考えるのが一番面白い。大人はカッコつけて考えてしまう。あるいは理屈で考えてしまう。子どもの方が、ゴミを拾ったり、人に優しくしたりといった、普段の行いや徳を積むことが妖怪に関係すると話す。

 

Fさん(高校生):帰る時間になると学校の電球がチカチカする「イチゴちゃんが来た」。

 

Gさん(研究者):真実と知っていることの間が妖怪。研究の出発点になることが妖怪などの「よくわからない」ということ。人間にとっては大事なもの。真実に迫るには、妖怪が重要。多様性を理解するためには、自由な発想が重要。

 

菊地:わかることもあるし、分からないものもある、その間にあるのが妖怪

高田さん:現実はとても複雑であり、元々未分化の現実を自分の都合で理解している。

菊地:科学のアプローチもあるけど、真実に到達する一つの方法として妖怪からのアプローチもある。

 

Hさん(自然関係者):白山比咩神社の近くでキャンプ場の仕事。天気に左右される仕事、親子の合意形成の話。大人は雨になったら屋内で、子供は雨でも外のテントで寝たい。

てるてる坊主は何の儀式。天気の子の映画のような生贄なのか。妖怪と天気との関連は?

 

高田さん:人間がコントロールできないもの、超越的な何かが私達にもたらしてくれるものが天気。妖怪と雨乞いの話。池の底に龍のお気に入りの鐘があって、鐘に悪戯したら龍が怒って雨を降らせるため、雨が降らないときは、池に潜って龍を怒らせようとしていた。

人間はコントロールできないものに対して、諦めずに努力をしてきた。その努力の結晶が、祈り、祭りや儀式。

 

菊地:日本では八百万の神というようにあらゆるところに神様が存在している。一神教の世界では、ローカル中身を排除してきた歴史がある。たとえば、ヨーロッパには妖怪がいるのか?

高田さん:国や地域によっては、悪魔や妖精などがいるが、ローカル生が乏しい。一個一個に名前を付けるのが日本人の特徴。河童でもローカル性がある。微妙な差によって、名前も違う。

菊地:妖怪の多様性があるということ。

 

Iさん(自然インストラクター)女性:里山の公園で働いている。物の妖怪について詳しく教えてほしい。

 

高田さん:万物に魂が宿るというのが、ベースとしてある。人が信じなくなっても、人と物との付き合い方は日本人の精神性が現れている。

 

Jさん(農家)男:夢の中に妖怪は存在しますか?日本とアメリカの間に綱があってそれを渡る夢。

 

高田さん:夢の妖怪は多い。枕返し:単にいたずらだけではなく、枕を返されると、異世界に行く。夢を見て、起きた時に不安がある。不安感が妖怪形成につながる。

 

Kさん(大学生):「妖怪のせいなのね」とりあえず見えないものを妖怪にしている。

 

高田さん:妖怪ウォッチのレベルで妖怪を認識していても、しめ縄まいた木を切れない。キャラクター化されても、妖怪にはリアリティがある。

菊地:妖怪は科学的ではないと言われることもあるが、自然へのアプローチの一つとして重要。

 

 

アンケートを読む限り、概ね好評。

いまいち妖怪と生物多様性の関係がわからなかったというご指摘もありました。

 

これからも、「ゆるく繋がりながら、大事なことを話し合っていきたい」と思います。

 

関係者のみなさん、参加者のみなさん、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

翌日予定していた妖怪ワークショップは、悪天候のため中止としました。

春に再企画します。

 

石川県立図書館に所蔵された高田さんのご著書や妖怪関係の本

 

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