ふたたびエコツーリズム(データサイエンスとのコラボに向けて?)

「これまでにない文理医融合の学際的アプローチと国際的な共同研究、そして地域との協働によって、観光に関連する行動、移動、サービス、政策・制度について科学的に研究することを目的に設置されました。科学的な成果によって、観光による未来変革を先導し、観光の促進と地域の持続的な発展に寄与することを目指しています」(先端観光科学研究センターニューズレター2号)

 

所属先である金沢大学先端観光科学研究所の目的です。

ベタベタな質的な環境研究に取り組んできた私もデータサイエンス系とのコラボした観光研究を求められるようになりました。

 

大学院博士課程で環境社会学をひとり学び始めたとき、エコツーリズムを研究していました。たまたま本屋で見つけた『里地からの変革』(時事通信社)で紹介されていた高知県大方町(現在は黒潮町)の砂浜美術館の活動に興味を持ち、エコツーリズムとしてとらえて見ようとしたのです。日本でエコツーリズムが注目され始めたばかりでした。研究者としての本格的なキャリアはツーリズム研究からはじまったのです(以下のような論文を書きました)。

 

菊地直樹,1999,「エコ・ツーリズムの分析視角に向けて」『環境社会学研究』5

菊地直樹,1999,「『地域づくり』の装置としてのエコ・ツーリズム:高知県大方町砂浜美術館の実践から」『観光研究』10(2)

 

その後、就職した兵庫県立コウノトリの郷公園(姫路工業大学)において、コウノトリの野生復帰に参加することになり、エコツーリズムの研究からは遠ざかっていました。

 

とはいうものの、北海道知床半島のシマフクロウの観光利用、ジオパークにおけるジオツーリズム、エコミュージアム体験ツアーというように、細々ではありますがエコツーリズムのような研究にもかかわっていました。

また、2023年発刊の環境社会学会編『環境社会学事典』(丸善書店)では、「エコツーリズム」を担当しました。20年も前に少し研究していただけなので、とても意外な依頼でした(以下、関連する論文です)。

 

淺野敏久・清水則雄・菊地直樹,2023,「エコミュージアム・ツアーの意義と課題:東広島エコミュージアムにおける試行から」『エコミュージアム研究』28

菊地直樹,2022,「北海道知床半島のシマフクロウを『見せて守る』ための実践的課題」『保全生態学研究』(早期公開)

菊地直樹・山﨑由貴子・大谷竜・斉藤清一,2022,「ジオパークにおけるガイドの活動実態と意識に関する調査』『ジオパークと地域資源』5

淺野敏久・清水則雄・佐藤大規・菊地直樹,2020,「東広島市におけるエコミュージアム見学ツアーの需要」『広島大学総合博物館研究報告』12

 

これらは、地べたを這いずり回るベタベタ系のツーリズム研究とでもいうものです。「キラキラ」したデータサイエンス系とのコラボではないので、必ずしも所属先の研究所が期待しているものではないのでしょうね。なかなかムズカシイ・・・

 

最近、改めてエコツーリズムは、自然の保全と利用のサイクルを形成する重要な活動だと思うようになりました。この保全と利用のサイクルを可能とする社会の仕組みづくりという視点から、研究プロジェクトを立ち上げています(絶滅危惧種の「利用と保全」の順応的ガバナンス構築に向けた学際的研究」科学研究費補助金 基盤研究B)。

 

2023年3月、研究プロジェクトの仲間(生態学、造園学、環境哲学、環境法)とともに奄美大島を訪問。レジデント型研究者の調査で何度も足を運んだ奄美大島。今回の目的は、世界自然遺産登録されたなか、アマミノクロウサギをはじめとした野生動物観光の現状と課題を把握することです。

 

アマミノクロウサギなどを対象とした野生動物観光(ナイトツアー)は、生きものを守りながら自然の楽しむために、以下の利用ルールを設けて実施しています(実施主体:奄美大島三太郎線周辺における夜間利用適正化連絡会議)。

 

・WEBでの事前予約制

・野生動物観察ルールの順守

・エコツアーガイドの利用(有料)の推薦

 

参加したナイトツアーではクロウサギやアマミイシカワガエルといった固有種を観察することができました。ルールはある程度機能していると思いましたが、今回の調査では十分評価することはできません。ツアーガイドさんや観光客、地域住民の方々などからお話をお聞きする必要があると思います。今後の課題です。

 

少し気になったのは、ナイトツアーでは、アマミノクロウサギといった特定の動物に焦点があたり、それらの生態や生息環境、生態系といったものまで、なかなか視野が及ばないのではないかということです。よかれあしかれアマミノクロウサギが見れるかどうかに集中してしまうのです。

そこで、ナイトツアーで使用した道路を、生態学を専門とする方とともに昼間通ってみることにしました。アマミノクロウサギが道路に降りてくる道や糞を見ることができました。明るい昼間で姿は見えなくても(アマミノクロウサギは夜行性の動物)、その存在を感じることができたのです。姿が見えなくても、エコツーリズムなんでしょう(お金にはなりにくいかもしれませんが)。

夜見た場所を、昼も見てみる。昼と夜をセットにしたら、行動や生態を複合的に学べる環境教育的なプログラムになる気がしました。

ただ、昼も夜も行くのは、なかなか難しいと思います。そこで最新技術を使って、夜に昼の環境を、昼に夜に出没するクロウサギをバーチャルに体験できれば、自然にあまり負荷をかけずに、楽しく生態系を学ぶことができるかもしれないなと感じました。

 

アプリを使ったガイドさんによるモニタリングシステムなどもできたら、ガイドさんの活動が保全に活用され、保全されることにより、安定的な利用につながっていくかもしれません。利用と保全が循環する仕組みづくりです。

 

データサイエンス系とコラボするエコツーリズム

 

こういうことを考えても面白いかもしれません。

しかし、ただの思いつきのアイデアというか妄想にすぎません。

地域の人たちの関心や価値、課題とは何か?それらを把握することなしに提案することは、とても荒いやり方です。地域と協働する研究は、信頼関係なしに進めることはできないでしょう。だからこれは、ひとりごとです。

 

 

現場を歩くと、いろいろと刺激を受けますね。一人ではなく、異分野の人となら、なおさらです。

このことをあらためて確かめた奄美大島でした。

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