自然保護官研修(環境省)
11月7日と8日、環境省の自然保護官(いわゆるレンジャー)研修に講師として参加してきました。場所は所沢市にある環境調査研修所。テーマは「合意形成」。じつはこの研修、講師として参加するのは3回目。
最初は2017年1月でテーマは自然保護の社会経済アプローチ(だったかな)。
2回目は2018年1月でテーマは合意形成。一般財団法人コ・クリエーションデザインの平田裕之さんと北海道大学の宮内泰介さんと僕が講師。
この2回は特設といって、40歳前後のベテランが対象の研修。
今回は30歳前後の若手。入省1年目とか2年目に、いきなり(単身で)現場に放り込まれて、いろいろと悩むことがあったり、戸惑うことがある人たちだと思います。今回も前回に続いて平田さんと宮内さんとのトリオでの参加。
8日の午後、僕が中心となって開発中の「環境活動の「見える化」ツール」を使ったワークショップ。
前半戦:テーマ設定と質問文の作成(チェックシートの作成)
テーマ設定
19人が4つのグループに分かれました。それぞれのグループで合意形成や協働にかかわるテーマを決めていきます。みなさん、同じ職種ですが、現場はバラバラだし、抱えている案件も人それぞれ。大学時代の専門分野も違います。それぞれの経験を語り合いながら、テーマを決めていきます。
質問文の作成
テーマが決まれば、それぞれのグループで、テーマに関連する質問文(自問するチェックリスト)を作成します。
ここでのコツは、なるべく簡潔にすること、やや曖昧な表現を入れて、個人によって解釈が分かれるようにすることです。
曖昧な表現とは、たとえば「積極的」とか「多様性」といった感じです。
「行政が活動に参加していますか?」よりも「行政が積極的に活動に参加していますか?」と表現します。「専門家は何人参加していますか?」ではなく「専門家の多様性は確保されていますか?」というように表現します。
よく、「積極的」って曖昧だから、よく分からないじゃかいか!と怒られます。専門家の多様性と聞かれても分からない!とも怒られます!でも曖昧だからいいんです。積極的の意味を自問自答していくことが大事であるからです。自分にとっての多様性を自問し、それを語り合うことが大事なんです。自分なりの解釈を暗黙的に使用していることが多い言葉や概念にまつわる主観を話し合うことが大事だと考えているからです。
1時間ほどで4つのグループでテーマと質問文も決まってきました。
「レンジャーバランスシート」
「地域とレンジャーの関係性」
「現場と中央の架け橋」
「協働得意レンジャー」
それぞれのテーマに沿った質問文は30から40ぐらい。
一部紹介しましょう。
「国の目線に立っていますか?」
「地元目線に立っていますか?」
「地元愛はありますか?」
「永住できますか?」
「積極的に色んな地域に入っていますか?」
「環境大臣何代さかのぼれますか?」
「地域の代弁者になれていますか?」
「地域と積極的に意見交換できていますか?」
「ライフワークバランスはとれていますか?」
「地域の子どもに名前を覚えられていますか?」
「地域の飲み会は楽しいですか?」
「気軽に相談に来てもらえますか?」
「相手の話をきちんと聞いていますか?」
「すべての人が発言しやすい雰囲気作りをしていますか?」
「引き継ぎをちゃんとしていますか?」
「心から謝ったことがありますか?」
うーん。おもしろい!
若い人の感性も入っているし、自然保護官ならではの悩みも入っている!
さすがだ!
とうなってしまいました。
後半戦:作成したチェックシートを使ったワークショップ
「ふむふむ(自己を振り返る効果)」
グループで作った質問文にしたがって、それぞれが○×をつけていきます。実は○×はそれほど重要ではありません。自分の考えとその理由を整理するためにつけていくものです。だから○であればよいというわけではありません。各自がつけた○×をもとにいろいろと議論し、よりより協働のあり方、よりよいレンジャーのあり方を各自が考えることが重要だと考えています。
「どれどれ(他者を知る効果)」
次に、その結果を持ちよっての対話です。多くの質問文の中から、自分たちが話し合いたいことを選んでいきます。今回は時間が短かったので7つ選んでいただきました(1つの質問文で5分話したら35分です)。40ある中から、どういう基準で選ぶのか。そこにも創造性があります。
「わいわい(お互いを認める効果)」
みんなでつくった質問文。結果をみてみると、かなり違っています。なぜ違うのだろう?その理由をお互いが聞き、話し合います。そうすると「えー、そんなこと考えていたの?」とか「意外と一緒だ」といったように、自然とコミュニケーションが促されていきます。具体的な話がどんどん出てきて、各自の体験が響き合い、対話が進みます。いろいろなところから、聞こえてくる笑い声。
「わくわく(活動のヒントを見つける効果)」
最後に全体共有です。4つのグループでの対話を報告してもらいます。
「現場の声の方が腑に落ちた」
「どちらかというと地域より」
「レンジャーが頑張りすぎると、地域の主体性が落ちる?」
「現場に対する思いがまだ見えない」
「まだ自信が持てない」
「公平に接することが本当に正しいのか?」
「国の代弁者となりえているか?」
といった問いが次々と生まれてきたことがわかりました。
時間がなく、全体共有を通して議論を進めたかったのですが、時間切れでした。
後日、参加者アンケートが送られてきました。
「同じグループでも考え方が異なる。色々な考えがあると思ったし、違いを認識して対話をしていこうと思った」
「レンジャー像について思っていることが見える化が出来てよかった」
「実際の会議でも活かせる手法を学べた」
「実際にリスト作成をするのは楽しかった。またリスト作成を通して、その問題点、本質的なものを見つめ直すこともできた」
「ワークシートをグループで作る作業が楽しく、他のメンバーの考えを知りながら作成できてよかった」
「設問に対する意見の違いから、新たな発見があり、面白かった。様々な場面で取り入れられる手法だと感じたので、業務チェック等に活かして行きたい」
「ワークシートを使って、質問を考えることは参考になりました。問いをたてていきたいと思いました」
おおむね好評だったようです。
この手法は、対話を通して、次の活動のヒントを見つけることを手助けするものです。そのような効果はあるのかもしれません。
いろいろな地域で、若い自然保護官が一人で切り盛りしている場面で出会うことがあります。若い自然保護官は、もっと頭でっかちで中央志向であると想像していたのですが、今回のワークショップを通して、現場や地域志向が強いなあと思いました。いろいろな「間」に挟まれ、若い人が担うにはちょっと無理がある仕事なのかもしれません。でもそうした「間」にあるからこと、現場と中央をつなぐことができる仕事でもあるとも思います。
これからも若くて能力もあって、やる気もある人たちの手助けができれば、とても嬉しいです。
帰りの新幹線で思ったこと。
30歳の頃の僕は何をしていたのだろう。兵庫県立コウノトリの郷公園に赴任したころだ。自然保護官と比べると随分と恵まれた環境だった。4人研究者がいたし。現場に入り込むわけでもなく、研究に突き進むわけでもなく。戸惑ってばかりだった気がします。今回の研修に来ていた人たちのような仕事はとてもできなかったなあ・・・。優秀だなぁあ。
お招きいただいた環境省の担当者、参加していただいた自然保護官、講師の平田さん、宮内さん、そして環境調査研修所の担当者に感謝します。
付録
今回のタイムスケジュール(3時間10分)
テーマ設定:15分
質問文作成:60分
休憩:15分
ワークショップ:60分
発表:全体共有:40分(各グループ10分)