第三回 のと里山里海カフェ(2/26)報告

開催日時:2025年2月26日(水)18:30〜20:40

 

開催場所:石川県立図書館研修室

 

話題提供者:豊田 光世さん(新潟大学佐渡自然共生科学センター)

 

テーマ:地域の未来を描く−佐渡と能登の交流を通して

 

参加者数:23名(一般参加者19名+スタッフ・関係者4名)

 

 

 

【話題提供】

 

 話題提供者である豊田光世さんは、佐渡島在住の環境哲学や合意形成学、子どもの哲学を専門とする研究者です。学生時代から佐渡島に通い、佐渡めぐりトキ移動談義所や佐渡島加茂湖水系再生研究所などの運営など実践的な取り組みから、多様な人びとが共に創るプロセスの設計を進めてきました。

 豊田さんを招き、「地域の未来を描く−佐渡と能登の交流を通して」というタイトルでお話ししていただきました。豊田さんからは、珠洲市における里山里海の現状、里山里海を活用しながら保全していく取り組み、市民参加型の調査、地震と豪雨災害の現状と地域の知恵などについて話題提供していただきました。

 

以下、豊田さんの話題提供の要約です。

 

自己紹介

 菊地さんのサイエンスカフェを引き受けたのですが、イベントのタイトルが「のと里山里海カフェ」。自分が何もできてないことへの反省のような感じになってしまうと思います。ただ、能登は佐渡にとってとてもつながりが深く大切な地域です。

 私は、環境哲学、合意形成学とか、子どもの哲学を専門にしています。社会にはいろいろな人がいますよね。共感できることもあれば、少し理解しかねる意見もあると思います。それが社会のありのままの姿であると思います。社会の中で、地域のなかで何かを成し遂げようとしたとき、考え方の違いを逆に力に変えて一緒に意思決定をしていく。何かをつくっていく。地域の重要な課題について、いろいろな人たちと話し合って意思決定を行っていくプロセスをデザインすることをしています。多様な声を力に変えていける社会になっていきたいと思っています。

 

 

コミュニティ・デザイン

 私の研究フィールドは新潟県の佐渡市です。佐渡島に、新潟大学の佐渡自然共生科学センターという研究所があります。2019年4月にスタートし、2020年1月から「コミュニティデザイン室」が設置されました。目指しているのは、大学のさまざまな知見を活かして地域の課題を解決していくことです。地域に専門家が入って、何か専門的な知識があれば地域の課題が解決されるかというと、そういうわけではないんです。いろいろな立場の人たちが、一緒に議論しながら取り組んでいくことが必要です。つながるしくみを構築し、学びの場も創り、そして課題へ挑戦していく。地域の人たちが自分たちで地域を前に進めていくことができるという「コミュニティエンパワーメント」。こうした主体的な力が高まっていく地域づくりのプロセスをデザインすることをしています。

 私の研究の風景は、みんなで話し合うというものです。トキが最近増えてきて、改めてトキとの共生について考えましょうといった話し合いや、海の保全とか集落の活性化について話し合ったりします。小学生から90代の方まで一緒になって話をすることもあります。

 ただ、話し合いだけで終わったら、地域はなかなかよくならないんです。話し合った結果や出てきたアイデアを形にしていくことをしています。地域の人たちと一緒にさまざまな団体を立ち上げてきました。たとえば加茂湖という汽水湖の保全であったり、防災とか福祉、子育てなど、いろいろな地域課題にチャレンジしていく、その伴走支援をしています。

 

 

佐渡と能登は姉妹のような地域

 今日のテーマである佐渡と能登。奥能登は大体1周300キロ。佐渡島1周280キロ。面積は奥能登が1,130㎢で、佐渡島は856㎢。人口も奥能登は約5万人、佐渡島は4.8万人。奥能登と佐渡は大体同じようなサイズ感といえばいいのでしょうか。大きな違いとしては、佐渡には広い平野が真ん中にあるのに対して、能登は山が中心で広い平野がないことです。ただ、すごく風景も似ていると思います。能登を走っていると佐渡を走っているのと同じような感覚、錯覚を受けます。姉妹のような2つの地域と思っています。

 

 

トキ

 実際共通することが多くあります。一つはトキです。能登は本州最後のトキの生息地。佐渡は日本最後のトキの生息地でした。トキはかつて日本のさまざまな地域で普通に見ることができた鳥でした。明治時代に入って鳥獣保護の規制が解かれていくと乱獲されるようになってしまいました。1908年、トキは保護鳥に指定されています。1934年に天然記念物に指定されています。1938年の調査報告書のなかで、佐渡に20から30羽、能登に5羽から10羽生息していると記録されています。佐渡と能登、この二つの地域にトキが残ったということですね。地域の人たちが動き始めました。能登では「羽咋トキ保護会」が結成され、佐渡では「佐渡朱鷺(とき)愛護会」が結成されました。お互い交流をしながら、市民レベルのトキの保護が進んでいたのです。

 1970年、能登にとっては大きな転換点だったと思います。最後に残った1羽のトキ、能里(のり)を佐渡に移送して、佐渡のトキとペアリングを試みました。ただ、次の年に亡くなってしまいました。その後、なかなか日本のトキを保護していく、増やしていく取り組みがうまくいきませんでした。現在、佐渡にいるトキは中国から借り入れたトキから生まれてきた子孫です。

 佐渡の最後のトキが「キン」です。2003年、キンが死んでしまい、日本生まれのトキはすべて亡くなってしまいました。ただ、キンが死ぬ直前、飼育下でのトキのペアリングが成果を生み出すようになり、飼育下で繁殖したトキを野外に放鳥するビジョンが出てきます。そして2008年に放鳥されました。2026年、能登でトキを放鳥することが実現しそうですね。トキ一つとっても、ずっと佐渡と能登はつながり合っていた地域だと思います。

 佐渡市が作った『佐渡島環境大全』に出ている図です。佐渡、能登でトキがどの辺りに分布していたのかを示す地図です。佐渡も能登も、比較的山がちの場所が最後の生息地でした。トキの放鳥を検討し始めたとき、専門家は「トキは山の中に生息をする鳥である。田んぼで餌を取るが、山際の田んぼを行ったり来たりしながら生息するだろう。そのための環境整備が必要だ」という考え方でした。

 ただ、実際に放鳥してみると違っていました。山以外の部分、いろいろな場所に生息している状況になっています。最初、10羽放鳥しました。メス4羽が島外に飛んで行きました。また帰ってきました。大きなスケールで生息している鳥だということが分かりました。私の家の中からトキが飛んでいる姿が見えますし、毎朝職場に行く時もトキと出会います。トキがいる風景が日常になり、定着していると感じています。

 では、能登で放鳥した場合、どうなっていくのでしょうか。ある特定の地域に定着するというよりは、広く考えていくことが必要だと思います。石川県では能登半島全域でモデル地区をつくり、環境保全型農業の推進などをしていると聞いています。面的な広がりが、とても大切だと思います。ただ、佐渡と能登には大きな違いがあります。佐渡は1つの自治体、能登は複数の自治体から成り立っているということです。話し合いをするにも、何か制度設計をするにも、ハードルは違うと思います。佐渡の場合には生じなかったような自治体間の問題、連携、そうしたことが必要になってきます。少し難しいかもしれませんが、全域で取り組まれていることは、とても素晴らしいと思います。

 

 

世界農業遺産

 佐渡は、トキの放鳥と定着が一つきっかけになり、世界農業遺産に認定されました。2011年、日本で初めて能登と一緒に認定されました。もうどこまでも佐渡と能登は一緒という感じがしますね。フォーラムを共同開催したり、子どもたちの交流も続けています。

 佐渡は「トキと共生する佐渡の里山」、能登は「能登の里山里海」。海も含めての認定は、すごくうらやましいです。佐渡は農業にフォーカスが当たっていますが、実際は佐渡の海はとても大切な場所であり、生業があります。能登は、私たちにとっていいモデルになっています。

 では、世界農業遺産になってどう地域が変わるのか。なかなか難しいですが、やはり次世代の育成ということで、能登の人たちや国連大学の人たちと「里山未来ユースサミット」を企画しました。佐渡と能登の高校生が一緒になって、他の地域の事例を学びながら自分たちの世界農業遺産の特徴を再認識したり、意見交換を通して共通の課題について考えていきました。自分たちの地域のなかだけで閉じた議論をしていると、自分たちのことも見えないし他のことも分からない。外に出て他の地域の方たちと交流していくことが重要だと思います。ただ認定から時間がたっていくと、世界農業遺産を授業でも取り上げなくなったりしていることは残念です。

 世界農業遺産を契機にした国際交流。金沢大学と新潟大学とフィリピンのイフガオ州立大学。イフガオも世界農業遺産認定地です。こうした地域がつながって、定期的に勉強会をしていました。またこういう場はつくっていきたいです。

 

 

能登半島地震

 能登半島地震が起きたとき、私は佐渡にいました。とても大きな横揺れだったので、ここが震源地じゃなく、どこか遠くで大きな地震が起きたと感じました。急いでテレビをつけ、能登の様子を見たとき、やはり佐渡と能登はつながっていることを再認識しました。姉妹のような存在の能登が大変な状況のなかで、これから私たちどうなっていくんだろう。大きな不安もありました。ずっと共に歩んできた能登という地域に対して、私たちはいったい何ができるのか。もっと考えていきたいと思っていますが、まだうまくできていません。それでも、少しだけも取り組んできたことを紹介します。

 地震直前の2023年11月まで、七尾市の田んぼの圃場整備を巡る合意形成的な件で調査に行っていました。この地震が起きてから七尾には1回行かせていただきました。輪島にも行ったんです。すごいことが起きたと改めて実感しました。

 震災で海が大きな影響を受けて、海女漁ができなくなっていました。そのなかで、未来を見据えて海藻が定着しやすい海の底を保全活動しようと、海の保全をしている人たちが輪島に行くことになりました。佐渡で一緒に海の仕事をしているメンバーだったので、「私も連れてってください」「かばん持ちします」ということで一緒についていきました。

 地震で海岸が隆起しました。4メートル隆起したところもあります。佐渡島の一番南に小木という地域があります。能登と一番近い所ですね。そこの宿根木という地域は北前船の寄港地だったんですね。かつて小木地震という地震があり、1メートルぐらい隆起してしまい、もう港として使えなくなったという説明書きがあります。それを見たとき、文字面で「隆起により港が使えなくなる」と分かっただけだったと思います。でも、輪島の風景を見たとき、こういうことなのかと思い知りました。

 私が輪島に行ったのは2024年9月30日から10月1日にかけてです。水害の直後で、たくさん土砂崩れの跡がありました。私たちを呼んでくれていた方の家がまさに洪水に飲み込まれそうになっている写真を見て、「これは行っている場合ではない」と思いました。ただ、現地の方から、「いや、むしろ来てほしい」「何が起きているのか、ちゃんとみんなに見てほしい」といわれました。私が行ったときに見たのは、流れてきた流木が橋でブロックされて、堆積しているような風景でした。

 港の再生計画があったのですが、今度は洪水による土砂流入でまたまた埋まってしまった。再生の計画、復旧計画をもう一回立て直すことになったと伺いました。想像を絶するというか、地球ってこんなに壊れてしまうんだと思うぐらい、ものすごい威力だと感じました。

 

 

里海の再生

 私が輪島に行くきっかけをつくってくださったのが、この二人の方です。一人は正司正さん。佐渡で潜水会社をやっている方です。ダイバーさんです。一緒に海の保全活動をやっています。私たちは、カキの養殖をしている加茂湖という汽水湖で保全活動をしているのですが、ヨシを植えたり、藻場を再生することをしています。アマモを海に再生することもしています。

 私が佐渡にかかわり始めた15年以上前、減ってきてはいましたが、藻場はまだありました。でも、ほとんどなくなってしまいました。かつて生えてた場所に移植をしても定着しないんです。全部腐ってしまいます。いろいろな専門家のアドバイスももらいながら、10年以上この再生事業をやってきましたが、なかなかうまくいきません。それで、今度は正司さんから石川竜子さんに声を掛けてもらいました。

 石川さんは、元々新潟県の職員で、佐渡の海藻の調査などをされていました。新潟県を辞められて環境コンサルとして働いていたのですが、地震が起きる直前に輪島に引っ越しました。輪島海藻ラボを立ち上げて、「海の保全を海女さんと一緒にやろうと思っているんです」というお話をされていました。そうしたら、この地震があったんですね。それでもやはり輪島の海が好きだし、輪島で漁をしている人たちが大好きということです。佐渡にも1~2カ月に1回ぐらい足を運んでいただいています。

 このお二人がタッグを組んで、佐渡と能登の海の保全を進めています。今どのように再生事業をしているのか。正司さんのFacebookの動画を見ていただきたいと思います。

 舳倉島の近くです。カジメという海藻が定着するように作業をしています。多くのさまざまな土砂が残っているところを、このようにタワシでこすりながら、カジメの生息場を再生させていくことを取り組み始めています。10月2日か3日の映像ですが、すごく透明で美しい海ですね。細かい土砂が上に降り積もっているのを磨いて、海藻が定着しやすいように岩の肌を出しています。佐渡のダイバーさんがアドバイスに行って、一緒に海に潜りながら、こういう作業をしています。

 

海の未来を語る 佐渡と輪島のダイアローグ

 こうした取り組みがきっかけになって、12月に「海の未来を語る 佐渡と輪島のダイアローグ」というイベントを企画しました。佐渡の中で起きている海の変化、能登で起きてしまった海の変化。このときは、南三陸から高校生が来てくれました。南三陸も東日本大震災で非常に大きな被害を受けましたが、今はこのように再生できているから、絶対大丈夫ですというエールを高校生が送ってくれました。

 先ほど、アマモ場がなかなか再生できないという話をしました。大きな理由の一つは高水温なんですね。アマモは28度を超えると生息が厳しいです。30度を超えている時期が1週間以上続くことがあります。なかなか定着しない。あとは、シルト質の土壌、農業濁水の流入とかも影響している可能性があると考えています。農業濁水は、工夫すればどうにか改善できますが、高水温はなかなか難しいですよね。高水温でも生息可能な海藻を移植することに切り替えていくしかなくなります。

 試行錯誤で能登の海をこれから再生していく。海女さんたちの願いとしては、震災前のきれいな海でまた海女漁をしたいよっていうことと、震災前よりももっといい魚場にしたいということが語られていました。同じ海には戻せないけれども、そこでさまざまな生産活動ができて海の恵みを受けられる、そういう海にしたい。5年かかるかもしれないし、10年かかるかもしれない。だけど、その5年、10年が持つかな、いうところにすごく苦しまれています。このときは、佐渡と能登は海藻文化も似ているけど違うということもありました。ツルモっていう海藻でも、佐渡での加工の仕方と能登での加工の仕方が違うし、調理の仕方も違うことが、この交流で分かってきました。お互いの海藻料理を食べ比べしようという、そういう交流会を開きました。

 この時に、もう一つ海女さんたちがおっしゃっていたのが、お米が買えないっていうことだったんですね。新米が出て1~2カ月だったのですが、水害でやっと耕作した田んぼも駄目になってしまいました。ほとんど取れてないのでお米がないと。今まで、スーパーで買うことはなく、縁故米が多かったと思います。スーパーでも買えないし手に入らないので、すごく困っているとお聞きしました。

 世界農業遺産の姉妹都市として何ができるのか。Facebookで「能登のみなさんに佐渡からお米を送りたいと思うので、協力してくれませんか」と呼びかけました。また農家さん同士のつながりで声を掛けていただき、11名の農家さんが計660キロお米を寄付してくださいました。100人以上海女さんがいるので、一瞬でなくなったそうですが、少しでも貢献ができたのではないかと思います。

 

 

これからの交流

 これからの佐渡と能登の連携を考えていく時、やはりトキはとても大きい存在です。石川県の創造的復興のリーディングプロジェクトの一つに「トキが舞う能登の実現」があります。トキが暮らせる環境づくりと、トキをシンボルとしたブランド化があがっていますが、とても難しいことでもあります。先ほど指摘したように、1つの自治体で完結する話ではないので広域連携が必要です。広域で環境整備する必要があると思います。

 佐渡には「トキ認証米」というブランド米があります。2008年にスタートしました。その前年に、農家さん、JAの関係者のみなさんが兵庫県豊岡市に行き、「コウノトリ育む農法」を学びました。豊岡の場合、有機栽培に近い形で精鋭たちがやっている農業という感じでした。佐渡の場合、他の事情もあり面的に広げていく必要があったので、農薬と化学肥料を5割減らすという特別栽培米の基準ですすめました。加えて、「生きものを育む農法」をすることで「トキ認証米」としました。現在、佐渡の水田面積の20%が「トキ認証米」になっています。

 今、佐渡のJAは、コシヒカリはすべて「5割減減」でないと取引しません。つまり、「トキ認証米」でなくても、すべての佐渡コシヒカリが特別栽培米基準になったのです。こういうことを広域にすすめていくのは難しいのかもしれませんが、能登は世界農業遺産で連携されてきたので、連携がすすめばとても広い取り組みになり素晴らしいと思います。

 佐渡の場合、放鳥前は無関心な人も多くいました。佐渡は10市町村だったので、トキの保護をずっとやってきた地域は限られています。トキとあまり関係ない地域でワークショップをすると、「え、それって別の国の話じゃない?」、「いや、もう佐渡市になったんですよ、トキ、どこに飛んでくるか分かりませんよ」といっても、最初はなかなかピンとこなかったようです。でも、放鳥してみると、トキはいろいろな所に飛んで行くので、トキ自身が私たちの意識啓発みたいな存在になったと感じています。

 では、こういう関心をどうやって高めていくのか。トキの保護に頑張ってこられた方のほとんどは、70代以上になっています。若手がどのように引き継いでいくのか。能登の場合、七尾高校で環境のことを一生懸命やられているし、高校生が育っていると感じています。佐渡とは違う状況なのかもしれませんが、人材育成に取り組んでいけるといいですね。

 急いで戻さなきゃいけない「復旧」と、よりいい地域に向かっていく「復興」のどちらを優先させるのか、ということはなかなか難しい問題です。不謹慎かもしれないですが、以前、河川工学の先生からいわれたのは、災害時はよりいい地域をつくる機会にもなり得るということでした。急いで復旧せよというプレッシャーもありますが、現在は環境に配慮した防災・減災ということがとても重要な課題になっています。能登がそういう先進地になっていくといいなと思っています。

 そして、環境と社会と経済の好循環をどのように生み出していけばいいのか。ステークホルダーの連携促進をどのように図っていくのか。佐渡にとっても課題です。地域のなかでどのような仕組みをつくっていくのか。少し参考になる話ができたり、一緒にお手伝いができるとありがたいなと思っています。

 

 

佐渡島自然共生ラボ

最後に佐渡で私が実践していることを一つ紹介させていただきます。自然共生とか環境保全が大切だということは、多くの人が分かっていますが、なかなかまちづくりとか産業のなかに浸透していかないとも感じています。そこで、いろいろなステークホルダーがアイデアを持ち寄って、考えて実践していくしくみをつくれないかと考えました。2022年、「佐渡島自然共生ラボ」を立ち上げました。産官学民の共創で自然共生社会の実現を目指すリビングラボです。いろいろな人がつながる場をつくり、そして知識を集約していく。そういうデータスペースをデザインしていく。こういうしくみづくりです。さまざまなアイデアを実験する場ですね。新潟大学と佐渡市、NTTデータという企業の共同研究としてやっています。

佐渡の自然資源をめぐるさまざまな課題に対して、個別最適ではなく全体最適も追求できるよう、業種や分野を超えて循環型社会の可能性を探究できるしくみを育てていこうと思っています。

 さまざまなアイデアをとにかくやってみる。地域のことを学びながら、新しい技術を学びながら、地域で何ができるか構想して実践するプロジェクトをたくさん動かしていく。それを通してイノベーションを生み出したり、人材育成につなげたり、市民参加の政策デザインにつなげていきたいです。

 

 

ラボが展開するプロジェク

 たとえば、先ほど紹介した正司さんたちと「海藻の新たな可能性を探究する」プロジェクトを一緒にやっています。ブルーカーボンとか、養殖をもう一回復興させるために何ができるかとか。

 エシカル生産・消費のプロジェクト。廃棄される野菜や乳製品をうまく加工して、新しい地域の産物をつくっていくことをしています。東京で売らせていただき、佐渡の新しい特産物を生み出していく。それから竹林が繁茂していてとても大変です。竹をチップ化して道路の舗装材として使ってみる実験もしました。NTTデータが入っているので、衛星写真を使いながら、自然資源の情報を可視化していくプロジェクトも試みています。まだパイロット的に実践しており、試行錯誤しながらやっています。

 人をつないだりだとか情報集約したりといった機能を果たさないとプラットフォーマーにはなれません。そこの部分を強化していくことを考えて、最近、「自然共生のみらい会議」という取り組みをおこないました。

 

 

自然共生のみらい会議

 佐渡で行われている自然共生にかかわるプロジェクトをしている人たちが、自分の取り組みを紹介し合うイベントです。1分プレゼンをしました。「目指せ50」で募集したところ、ぴったり50集まりました。佐渡には、いろいろな人がいて活動があると思いました。ポスターセッションをしながらまずお互いのことを知って、対話をする場から、また新しいプロジェクトを生み出したいと思っています。佐渡の取り組みの層の厚さを感じましたし、市民と行政と研究者、もう関係なく話をするんです。ヒエラルキーがない感じがとてもよかったです。

 次回、少し変えたいと思っているのは子どもの参加です。一番若くて大学生だったんですね。小学生でも、ここでこんなことやっているとか、こんなことを実現したいんだ、みたいなことを語れるといいなと思っています。

 研究で佐渡に来ている大学生や大学院生たちが耕作放棄地がすすむとどのように生物相が変わるのかについて発表しました。ある女性たちは、「耕作放棄地のセイタカアワダチソウを使って入浴剤をつくった」と話したんですね。セイタカアワダチソウは外来種だし、排他的に広がっていくので存在してはならない。そういう強いイメージがあります。もちろん広げてはいけないのですが、活用して何か資源にしていく感覚が、研究者側、少なくとも大学生たちにはなかったのです。自分たちの研究と、実際に地元の人たちが求めているものとの間の乖離(かいり)も、すごく感じたといっていました。そのように感じられたことだけでも、開催してよかったと思っています。

 こういうつながりをつくり、そこでアイデアの科学反応が生まれ、社会を変えていく原動力になったらいいなと思っています。このような共創のしくみを、佐渡で立ち上げ始めているところです。ぜひ広域連携ということで、能登ともつながり、共創の輪を広げていけたらと思っています。

 

 

【対話】

 

Aさん:佐渡のように、能登でもトキが放鳥されて何十羽も育っていくために、われわれ生活者として、あるいは観光客がどういうことに気を付けたり、取り組まなきゃいけないのでしょうか。

 

豊田さん:保護という意識が強いので、観光資源として活用することは、佐渡はあまりできてないんです。車から出てはいけないとか、トキを見守るためのルールがあります。しかし、実際にトキがいると車から出たくなる人もいるし、なかなか難しいです。

 生きものが豊かな地域って、「バッタとかカエルとか、いろんな生きものが豊かな地域がいいよね」って思わないとなかなか難しいかなと思います。どうですか、石川。能登とかだと。

 

菊地: 「私、こう思います」みたいなのありませんか。

 

Aさん:能登では白鳥がすごく多いですよね。白鳥を地域の人は、能登の人はどのように扱っておられて大切にされているのか、よく分からないんですが、トキもそうなってほしいなと思っています。

 

菊地:ありがとうございます。能登は自然が元々豊かなところですが、今回の地震と水害で特に田んぼがかなりひどい状況になっています。その影響が非常に心配です。ただ、元々の力は非常にあるので、どのような活動をしていけばいいのでしょうか。地域の人がどのようにかかわる、あるいは金沢の人がどのようにかかわるのかも、大きなテーマです。みなさん、「こんなことやっていますよ」ということがあれば、ぜひお願いします。

 

Bさん:通勤で七尾に向かって車走らせていると、冬期湛水の田んぼがあります。田んぼに水を張ってそこを餌場にする。普通に白鳥がいるんですよ。「おるな、いっぱいおる」と思っています。普通にそういった鳥がいる環境です。第二回のとき、珠洲の先生がドジョウを増やせばいいという話をしました。ただ、ドジョウありきじゃないと思うんですよ。ドジョウも増える環境であるというのが、一つテーマなのかなと思っています。実際に佐渡では、餌場の確保ってどこまでされていますか。

 

豊田さん:佐渡が特別なことをしているといえば、そうでもないんです。無農薬は、ほとんどすすんでいないです。圃場整備はどんどんすすんでいます。歩いていて生きものが多いなと思うところは管理がしづらいので。佐渡市役所の周りは広い水田地帯ですが、圃場整備がされていない昔ながらの田んぼだったんです。今、かなり大規模な圃場整備をしています。そこに希少種が生息していることも分かっているので、効率的な農業と環境を両立させることも含めて取り組んでいます。もちろん認証米で田んぼのなかに少し水路をつくるとか、さまざまな取り組みあります。「ふゆみずたんぼ」もそうです。ただ、大きな環境の変化があるので、そこをどのように取り組んでいくのか。

 放棄地が増えていることがとても心配です。佐渡では、特に山際では放棄地がものすごい勢いで増えています。能登も一緒だと思うのですが。

 

Bさん:一緒です。

 

菊地:一緒だと思います。おっしゃっていたように、トキは里山里海のシンボル的な存在である。もちろん生態系のシンボルでもあるし、ブランド化するためのシンボルでもある。トキをうまく使って、農業を未来に継承していくのか。非常に大きな問題だと思います。

 佐渡のトキ認証米は、豊岡よりも少し基準を下げて、多くの農家が参加でき、面的に広げる方針で進めてきました。豊岡のコウノトリ育む農法は、基準が高く、関心がある農家さんが参加するというやり方です。トキとコウノトリ、同じような取り組みなのですが、農業の進め方は違います。能登には能登にあったやり方をつくっていくことが重要だと思います。

 お米がなくて困っている海女さんに、お米を融通した話がありましたが、トキやコウノトリのお米をなるべく優先して選択するとか、能登のお米をなるべく選んで食べる。消費を通してかかわることもできると思います。

 

豊田さん:「トキの認証米」は高く売られるので、普通にコシヒカリを栽培するよりも、認証米を栽培したほうが少しもうかる形になっています。ただ、その構図がなかなかうまくいっていないとも思います。「いや、お米は安いほうがいい」「普通の佐渡コシヒカリもおいしいから、別に認証米じゃなくていいです」と感じる消費者も多いと思うからです。こういう取り組みを支援する消費者、あるいは流通業者さんが増えることが大事ですね。

 佐渡の認証米の4割は、認証米じゃなくて佐渡コシヒカリとして出さざるを得ないのです。つまり、付加価値をつけて売ることができていません。そうすると、農家さんの収入が少なくなる事態が発生しています。能登だったら、金沢という大きな都市がすぐ隣接しているので、そういう消費地として何かできることは、たくさんあると思っています。

 

菊地:一回目の「のと里山里海カフェ」の話題提供者の伊藤浩二さんからもそういう話出たと思います。能登の里山里海はいろいろな資源がありますが、消費地があるからだという話だったと思います。炭も塩も、消費として広域的につながっているんですよね。マーケットがあるから、里山里海は維持されている面があります。

 どのようにしたら、能登のトキという「物語」がきちんと消費されるようになるのでしょうか。正当に評価してもらうために必要なことは何か。私たちがその物語に食べるという形で参加するということは、一つの方法であると思います。

 

Cさん:佐渡は一つの自治体で、能登は複数の自治体。菊地さんにも聞きたいのですが、来年の計画は単にトキを放鳥するだけなのでしょうか。圃場整備、水田の保持、管理。トキの餌場になる環境も含めての複合的な取り組みをされていると思いますが、能登での放鳥の計画は、そこまで加味した計画なのでしょうか。

もう一つ、豊田先生が取り組まれている活動で、NTTデータさんも関与されているものがありましたね。NTTデータさんは分析とか情報収集に、とっても力強いパートナーだと思います。企業としてのNTTデータさんも、「こんなアイデアあるよ」とか、「こうしていこうよ」っていうような提案を積極的にしてくださるんですか。

 

菊地:トキの放鳥について、行政の人から何かいえることはありますか。

 

Dさん:石川県庁の里山振興室です。トキの放鳥にかんしては、環境部のトキ共生室が主に担当しております。里山振興室は、どちらかというと農家。餌場を作るために農家の取り組みを支援したり、トキをシンボリックに放鳥をした上で地域振興につなげていこうとか。豊田先生からもお話ありましたが、高くお米を売って農家の所得の確保をしていきたい。農林水産部のほうでそういう施策をしています。

 トキの放鳥についは、もちろん生物多様性が保たれている必要があります。里山でしか暮らせない鳥ですので。トキも暮らせる里であるということをPRしていくときに、とてもいい手法と思っています。今は復興・復旧のシンボルとしても重要です。

 地震の前から、私たちは「令和8年のトキ放鳥を目指して頑張りましょう」とやってきました。地震と水害で、とても大きなダメージを受けたので、能登の農家のみなさんとか市町のみなさんにも、特にモデル地区などを中心にお話をお伺いしました。復旧・復興はもちろん第一番目に取り組まなきゃいけない課題ですが、トキの放鳥もそれに合わせてすすめ、私たちの地域をもっとアピールする機会にもしたい。そのようなお話を伺いました。復興のリーディングプロジェクトに掲げて取り組んでいこうとすすめております。

 

菊地:たんにトキを戻すという取り組みではなく、包括的再生だと思います。自然を再生すること、地域経済を再生すること、人のつながりをつくること、そういうことも含めて一緒にすすめていく取り組みだと思います。多目的型、いろいろな取り組みを同時多発的にすすめていくことのよさは、いろいろ入り口があることだと思います。農業から入りたい人もいれば、観光から入りたい人もいる、トキが大好きという人もいます。でも、トキだけでやるとトキが好きな人しか基本的にかかわれなくなる。だけど、経済的な関心からの人も入っていいわけですよ。いろいろ入り口があり、いろいろ目的があって、それによって総合的に地域がよくなっていく。いろいろな人がいていいのではないでしょうか。

 

豊田さん:もう一つ大切だと思っていることは、農地とか農業システムの手入れです。手間がかかる環境は、だんだん手間がかからない環境に置き換えられていきます。もう人手もいないし農家も少なくなってくるし、若い人いない。水路の普請ができないから、もうU字溝に替えて、フタをしましょうとなっていくわけですよね。

 都会の人たちとの農業体験の交流イベントではて、稲刈りと田植えはよく行われますが、それ以外の水路の泥上げとか草刈りという作業は手が足りなくなっています。私が深くかかわっているある棚田地域では、田んぼの放棄地の数が倍になりました。また倍になりそうなので、一枚でも耕作を続けるためにどうしたらいいかを考えています。田植えとか稲刈りだけのイベント的なかかわりではなくて、たとえば都会に住む人たちが第二のふるさと的に、少し日常的にかかわる。そういう少し深いかかわりができていくと、担い手が減少していく中でも、どうにか継続できていく部分もあるのかなと思っています。

 

菊地:復旧・復興でいえば、たとえばボランティアに行くのですが、観光もする。半ボランティア×半観光のようなパターンもあるのかもしれません。そんな感じのかかわり方も、非中山間地域の人手不足のなかで、必要になっているというお話でした。

 

豊田さん:2019年度から棚田地域で、小さい農業を守るためのスマート農業を考えていくプロジェクトをやっていました。そのときに痛感したのが、企業や大学が持っている技術シーズと現場の課題が合わないことでした。かゆいところに何か手が届かない感じです。だから、なかなかマッチングできなかったんです。NTTデータは「社会実験としてやっているので、ここから何か自分たちのビジネスを立ち上げるつもりはない」というスタンスで入ってくれています。なかなか難しいですね。マッチングではなく一緒に考える場をもっとつくりたいと思って、リビングラボを立ち上げました。

 イノベーションはそんな簡単に生まれるものではないので、とにかく対話と実践を続けていく。そのなかで「これだったらあれがあるよ」「ああいう技術もあるよ」ということが少しずつつながり合っていく。放棄されていく棚田地域の田んぼをどうにか使い続ける起爆剤になるかもしれない技術と出会えています。来年度から実証実験しながら、地域がよくなるのか、楽になるのか、見ていきたいなと思っています。

 

Eさん:金沢大学の学生です。僕は佐渡市出身で、金沢大学に通っています。佐渡の課題として、次世代の育成が足りない話がありました。今、私が金沢にいるなかでできることはあるでしょうか。能登と佐渡の違いって、やっぱり離島ですぐに行けないし時間もかかります。新潟市にいたり金沢市にいて、できること、次世代のためにできることがあれば教えてほしいです。

 

豊田さん:佐渡には大学がないんです。そこがすごいネックになっていて、20代の若者がいないんです。若い世代の人たちが、何らかの形でかかわってくれることはすごくうれしいことです。先ほど話したように、第二のふるさと的に、ある地域に定期的に通うみたいなことですね。何かそういうしくみを私たちもつくらなければいけないと思います。そういう関係性を構築する機会ができると地域は元気になるので、遊びに来てください。

 

Fさん:能登の先端の禄剛埼というとこから佐渡が見えるんですよね。珠洲の人たちとか能登の人たちの、あるいは観光に来た人たちが佐渡を眺めて、佐渡行きたいなと。そういうニーズはあるんですね。5~6年ほど前までだったと思いますが、珠洲から小木港で定期船が1日1往復ありました。観光客の人とか、いろんな人が乗っていたのですが、コロナで船も廃船になったように思います。でも、能登と佐渡のつながりを、何かもう一回回復できないかなと思っています。一つはやはりトキかなと思います。来年の6月に能登で放鳥されれば、トキとどのように付き合っていったらいいのか、能登の人たちにとって大きな課題になっています。

 であれば、佐渡へ行って、佐渡のみなさんがトキとどう付き合っているのか、実際に現場見に行きましょう。そういうツアーもできてくるだろう。そのときに、もう一度珠洲の先端から佐渡の小木港まで船に乗ると。

 

Gさん:チャーターしたらいいんですよ。1時間半ですよ。

 

Fさん:うん、そう。チャーター便で全然OK。30~40人で行けばそんなに大した額じゃない。日帰りでもいいんですよね。100キロぐらいですよね。ただ波が荒いと「うわー」。

そういうトキのつながりから、佐渡のトキを見に行こう、あるいは能登のトキを見に行こうっていう往来ができるといいなという勝手な思いをしてます。

 

菊地:ありがとうございます。ぜひ行きましょう。行政が企画してくれるのでしょうか。このカフェで企画してもいいですね。

 

Fさん:まさに「生物多様性カフェ」や「のと里山里海カフェ」のテーマじゃないですか。今度は佐渡でやりましょう。

 

菊地:佐渡でもやりましょう。面白そうですね。佐渡ツアー、みなさんにち声掛けますね(拍手)。

 

豊田さん:そういうときに、周りの大学生誘って。

 

Eさん:はい。

 

Hさん:佐渡と能登、石川県といわずに能登ということによって、トキというつながりが見えてきたと感じています。ただ、能登と佐渡の違いは地続きであるかどうかという点にあります。能登でトキを放鳥する。トキにとってみると石川県も能登も加賀も関係ないから飛んで行っちゃう。能登と区切ったからトキというキーワードが出てきましたが、トキを放鳥した後は、能登じゃなくて石川県って考えないといけないかもしれない。どこに飛んで行くか分からないから、富山とか福井にも岐阜にも知ってもらわないといけないのじゃないかなと感じました。

 私は金沢市に住んでいますが、職場は白山市です。白山市はジオパークに認定され、人と自然との共生がうたわれているのに、能登でトキが放鳥されることを恥ずかしながら今日初めて知りました。経済との絡みも大事とは思いますが、教育ともかかわっていかないといけないと感じました。白山市の小学校、中学校、高校でも、ジオパークがあるんだから、もしかしたらトキが飛んで来るかもしれないよ、と。加賀と能登と分けているけど、トキには関係ない。トキをシンボルとして共生についても考えるきっかけになるのかなと、ぼんやり考えていました。

 

豊田さん:白山は結構水田が広がっているので、もしかしたら飛んでいくかもしれません。佐渡で放鳥したときも、やはり遠くに飛んで行っています。だから、おおらかな気持ちにならなきゃいけないですよね。北陸全体でぐらいのスケールで考えなくてはいけないのかもしれません。でも、そのときに能登が先進地として発信していく。みんなを巻き込んでいく。佐渡も一緒にできたらいいかなと思います。

 

菊地:コウノトリの場合も定着しないと失敗したといわれる、という心配もありました。でも、鳥ですからね。いろんなとこに飛んで行くわけですよ。

 

豊田さん:豊岡市の元市長の中貝宗治さんが、コウノトリはアンバサダーだといっていました。環境の大切さを日本中に伝えていってくれていると。

 

菊地:コウノトリが全国に飛んでいくので交流が生まれるわけですよね。でも、元々は豊岡で守って豊岡で放鳥したんですよというストーリーがあればいいんですよ。それをいえるだけの実績があれば、別に何ともないんですよね。

 モデル地区に居着くことは、難しいかもしれません。でも、モデル地区をつくり環境をよくするという意味では、地域の豊かさを再発見したり向上させたりする。その結果として、トキがまた戻ってきてくれたりしたらとてもいい。

 福井県の越前市なんかまさにそうです。地域の人たちが頑張って有機農業をすすめ、放鳥したけど、なかなか定着しませんでした。しかし、しばらくすると繁殖するようになりました。トキがいろいろな地域へ飛んでいき、また帰ってきてくれたらいい。「加賀と能登をつなげるトキですよ」ぐらいでいいんじゃないでしょうか。

 

豊田さん:今日は話しませんでしたが、トキは害鳥だといわれています。最初に放鳥する時はかなり反発とか不安があったんですね。「トキ、トキ、トキ」といっているけど、他にも大切な産業あるじゃないか。水産業の人たちはすごい怒りをもっていて「トキの反対運動するぞ」と少し盛り上がっていた方たちもいたんです。そこで私たちが入り、「海の保全も大切だよね、じゃあみんなで海守りましょうよ」ということで市民研究所をつくりました。トキを放鳥したら、「反対運動するぞ」といってた男性の田んぼに飛んでいったんですよ。「豊田、トキがうちの田んぼに来たぞ」と。「俺、反対運動しなくてほんとによかったわ」と言っていました。「やだ、やだ」といってる人のところに飛んで行くかもしれない。何かそれも自然の一部になって、おおらかに見守っていけるといいのかなって思いますね。

 

Iさん:ホテルに勤めています。里山里海のお米とか、ホテル旅館組合におっしゃっていただければ、補助金とかも出ればよく使ってくださると思います。二点目は、佐渡の学校給食です。三点目が、世界農業遺産ということで、世界からはどれぐらいの観光が来ているかということをお聞きしたいんです。

 鳥を好きな人って、ものすごく高い双眼鏡を持っていますよね。10人来たら、もう2億円とか。バードウォッチャーたちがもたらす恵みというのもあるかもしれません。

 

豊田さん:給食ですが、今は「トキ認証米」になっています。子どもたちが家庭で「給食のお米おいしいんだよ」といって、消費してなかったご家庭でも話題に上がったりすることはあるようです。すごくいい影響があります。でも佐渡市が経済的な部分を負担しているので成り立っているのかなと思います。

 バードウオッチャーの人たちを取り込むことは、できてないんですよね。北海道の鶴居村とかすごいじゃないですか。もう世界中から来ていますよね。

佐渡の金山が世界遺産になったんですよ。世界農業遺産と合わせて「世界」が付くものが二つあるのですが、外国人が多く集まるのは「Earth Celebration」という鼓童のグループのコンサートです。トキとか金山のアピールは十分にできてないかもしれないです。でも、ご指摘のとおり、少人数で大きなお金が動くツーリズムを、もっと考えていかなければと思っています。能登のほうがポテンシャルは高いでしょうね。金沢とセットでそういうツアーも組めるだろうし。

 

菊地:バードウオッチャーとかカメラマンはお金に糸目をつけない人が多い印象です。600ミリのレンズだったら数百万ぐらいしますからね。鶴居村がある北海道の東部は、タンチョウとオオワシ、シマフクロウという大型の鳥を見ることができる場所なので、国内外から多くの人が訪れています。一方、豊岡の場合、基本的に温泉やカニといった観光のついでにコウノトリを見るという人が多いです。それから、コウノトリ目的で来る人はお金使わないんです。朝から晩までずっと見ていて、コンビニのおにぎり食べてそのまま帰っちゃうんですね。だから、どっちがいいかってなかなか難しい問題です。

 

Jさん:中能登町から来ました。実は放鳥モデル地区になっています。トキを放鳥するという情報は知っていますが、詳しくは知らなかったです。たまたまインスタ見ていたら出てきたので来ました。私の父親が区長になりました。父親は忙しいので、私が代わりに聞いてこようと思って来ました。

 春木地区は田んぼが多いんですね。左右に山も囲まれていて、佐渡島をちょっと小さくしたような立地になっています。そういった特徴から、モデル地区に選ばれたのかなと、今日の話を聞いていて思いました。ただ、トキが放鳥されるという情報が、そこまで浸透してないと感じました。

 私は会社員ですが、震災があって何かしないといけないっていう思いがありました。個人的に復興プロジェクトを今月ちょっと立ち上げ、セミナーで何かみんなで頑張っていこうよって少し発信している立場にあります。行政からいろいろ提案していただけるのはありがたいのですが、受け取る側の気持ちが何かそろっていないと思っています。地域への情報発信だとか、地域を挙げてやっていかないといけないと感じました。佐渡もそういったところがあったのかなと気になったところです。

 

菊地:豊田さんたちは「佐渡めぐりトキを語る移動談義所」という取り組みをしていましたよね。いろんな集落を回って話し合いをしていました。

 

豊田さん:二年半で四十二回やりました。別のワークショップもやっていました。やはり同じでした。「全然情報が来ないよ」とか「そんなの新穂でやりゃいいじゃねえか、うちは関係ねえよ」みたいなところがスタート。環境省の人が「僕たちが情報を持ってきますから」と足しげく通ったんですね。能登は環境省の事務所がないですよね。石川県が強力だと思いますが、すごく丁寧にやっていく必要があると思います。トキの放鳥式典に300人ぐらい集まったのですが、トキに影響があるのであまり人は集められない。トキの場合、保護という側面が強いので、なかなか情報がうまく伝わってなかったりすることはあるかもしれないですね。

 

菊地:のと里山里海カフェといった場を中能登町で開催することはまったく問題ないと思っています。トキのことを話し合う場をつくってもいいと思いますよね。

 

Bさん:大学生と若い人へのお願いです。石川県では農村ボランティアを募集しています。「石川、農村ボランティア」で検索してください。よければ来年度からボランティアとして参加していただきたいです。能登の人とつながる一つのきっかけになると思います。

 

Dさん:「トキめきボランティア」もあります。

 

菊地:「のと里山里海カフェ」で、佐渡に行く企画、してみたいなと思いました。もう一つ、1分間トークもいいですね。一人1分、自分が考えていることを話してもらう企画も一回やってもいいかなと感じています。私自身もさまざまなアイデアをもらいました。引き続き、石川県の生物多様性とか里山里海を活かした地域の未来について、いろいろな人と一緒に考えていきたいと思っています。今日は、どうもありがとうございました(拍手)。

 

Kさん:石川県立図書館から勝手にお知らせです。海女さんのパネル展をやっています。海も大事という話もありましたので、ご興味あればぜひ見てから帰ってください。よろしくお願いします。

 

 

石川県立図書館さんに関連する本を集めていただきました。

いつもありがとうございます。

 

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