第二回 のと里山里海カフェ(1/10)報告

開催日時:2025年1月10日(金)18:30〜20:30

 

開催場所:石川県立図書館研修室

 

話題提供者:宇都宮 大輔さん(珠洲市自然共生室)

 

テーマ:里山里海が核となる地域を目指して−珠洲市の取り組み

 

参加者数:41名(一般参加者32名+スタッフ・関係者9名)

 

 

 

【話題提供】

 

話題提供者である宇都宮大輔さんは、金沢大学で花と昆虫の関係をテーマに博士号を取得したのち、金沢大学の人材育成プログラムの教員スタッフとして珠洲市に赴任しました。2015年から珠洲市自然共生研究員を務めています。

 

宇都宮さんを招き、「里山里海が核となる地域を目指して−珠洲市の取り組み」というタイトルでお話ししていただきました。宇都宮さんからは、珠洲市における里山里海の現状、里山里海を活用しながら保全していく取り組み、市民参加型の調査、地震と豪雨災害の現状と地域の知恵などについて話題提供していただきました。

 

以下、宇都宮さんの話題提供の要約です。

 

里山里海からの恵み

 里山里海は人の生活にどうしても必要な「自然の恵み」が得られる場所であると考えています。里山里海をどうやって守っていくのか、どうやって維持していくのか、こういったことがとても大事であると考えています。

 では、みなさんが感じる「自然の恵み」とはどのようなものでしょうか。たぶん、多くの人は物質的な恵みがすぐ思い浮かぶと思います。食べるもの、水、木材などなど、もともとは里山里海からもらっていたものを使って作ったりしています。もう一つは精神的な恵みと思っています。きれいな景色を見たり、海水浴をしたり、ホタルを見に行って癒やされたりリラックスしたり、楽しむ場所もかなり提供しています。

 いろいろな恵みをもたらしてくれる里山里海は、生活に必要な物を得るために重要な場所ですが、ただ得るだけではなく管理しながら利用してきた場所だと考えています。利用方法や管理方法の違いによって、多様な場所、環境が混ざり合っている景観です。

 

里山里海の維持管理

 たとえば森林の利用と里山林の形成について考えてみましょう。ほとんど手が入ってない森は照葉樹林が多いです。それを利用し始めると木を切って、次にナラ類が優占していきます。二次林という言い方をしています。10年から30年の周期で伐採して、うまくサイクルを回していけば維持管理できますが、過剰利用するとはげ山になっていきます。林の生産能力以上に人がものをとっているということです。何もとれなくなって、置いておくとマツが生えてきて、アカマツ林になってきます。マツタケが採れると思うかもしれません。実際、珠洲でもつい最近までは、マツタケが非常にたくさん採れています。アカマツ林を経て、そのまま置いておくとナラの二次林に戻っていきます。このように人がどのように使うかによって、どういう状態になるのかが決まる。これが里山里海の特徴だと思います。

 歴史的に考えると、さまざまな産業とのかかわりが非常に大きいです。珠洲の場合は瓦の産業がつい近年まで行われていました。塩づくりもあります。共通するのはどちらも大量の薪が必要だということです。

 人が使うことが、里山里海にとっては非常に大事ですが、人間の活動だけでは里山里海は維持できません。もう一つ主役が生きものです。いろんな種類の生きものがたくさんいると自然の恵みをもたらす仕組みが維持されやすくなると考えられています。人間の活動と生物多様性の二本柱で里山里海が支えられているのです。

 現在、人間の活動の話は大きく変化しています。たとえばエネルギーは、薪や炭、天然の油を使っていましたが、石油由来のものになってきていますね。その場でとれていたものを使わなくなっています。人の生活が変わっていくと、里山里海とのかかわり方も変わってきます。それによって能登の里山里海は良くなるのでしょうか、悪くなるのでしょうか。

 社会的な変化もあります。だんだん里山里海と人が分断化されつつあると考えています。一番分かりやすいのは、一次産業に携わる人が減っていることです。かつて小さい田んぼがたくさんあったのですが、それを整理して1枚の大きい田んぼを作る整備事業が進んでいます。これによって農業を続けたい人に農地が集約されて規模も拡大しやすくなっていますし、農作業の効率化も進んでいます。排水路もしっかりと作って田んぼを乾きやすくする取り組みも進んでいます。その結果、2メートル以上の深さがあるような場所に水路が結構できてきます。そうすると、もともと田んぼと水路を行き来していた生きものがなかなか生息できないという課題が出ていると思ってます。

 もう一つは、集落全体で見ると農業に携わる人が減っていきます。数人の大規模の農家さんに農地を集めて安定化させる。集約化すると、ある人にお願いという形になります。たとえば水路の維持管理は、自分にも関係があってメリットがあって、やらないといけないということでしたが、農業から離れてしまうと「私の仕事ではありません」という人も出てくるかもしれません。どんどん集落活動とかがやりにくくなったり、里山里海と人との距離ができるっていう原因の一つになりつつあると思っています。

 このような人の活動の変化に対応していく必要があると思っています。人と里山里海を継ぐ」、継承するためには人を育てて、いろんな人と情報や知識を共有しながら何かをしないといけない。やりっ放しではなくて、確認と考察が大事になると思っています。こういう視点を持って地域でできることをやると、里山里海の状態も良くなっていくと思っています。

 

珠洲市の里山里海について

 珠洲市の面積も高齢化率も世帯数も人口も数字を挙げれません。実は地震の後、今書ける数字がないんです。行政で持っている数字はありますが、暮らして生活していると、世帯数にしろ人口にしろ高齢化率にしろ、数字と実感とはだいぶ差があります。人口は私の住んでいる地区で残っている人が6割ぐらいです。高齢化率は52%らしいんですが、これもかなり上がっているのが現実と思っています。

 半島なので海に囲まれています。海と山が近いです。高い山がありません。大きな川もありません。平地も少ないです。このような特徴のなか、人々がお米を作ったりいろんな工夫をして生活をしてきたというのが能登の能登半島にある里山里海の姿だと思います。

 縄文時代の遺跡も残っているように、ここでは人がずっと暮らしをしてきました。塩づくりとか、山の中にはたたら場の跡があったりします。今も珠洲焼もありますが、焼き物も作られてきました。色々なものを作りながら、山を利用しながら今まで生きてきた。海のほうも干物を朝廷へ送っていたという記録があります。

 大きな川がなくて狭い平野でも、何とか米を作りたい。そのためのため池をたくさんつくってきました。珠洲だけで218、小さいのも含めると800は超えるという話も聞いております。こういったものを維持するための共同活動を営んできたわけです。

 

珠洲市での取り組み

このように人が手を加え続けてきたことで残ってきた環境には、希少な生き物も残っています。トキとかコウノトリが飛来する環境が能登には残っています。能登・珠洲の里山里海は、色々と評価されてきました。能登半島国定公園や世界農業遺産などがあります。まだまだ維持することで精一杯という状況なので、認定されて劇的に良くなったわけではないのですが、これは大事にしたいという人が少しずつ増えてきていると思います。

 里山里海を保全していくために珠洲市が取り組んできたことを年表にしたものです。2007年に金沢大学の人材育成プログラムがスタート、2011年に世界農業遺産に認定、私の所属する珠洲市自然共生室は2013年に設置されてます。自然共生室ができてから、さまざまな計画を作ったり条例を作ったりしています。珠洲市としては里山里海を次の世代へ引き継ぐために、珠洲市生物多様性基本条例を制定しました。条例とセットで活動計画を作っています。この活動計画は里山里海がベースです。里山里海を保全することが生物多様性の保全につながるということで、里山里海をしっかりと利活用することを計画で立てております。

 他にも個別の活動で取り組んでいることがあります。人材育成プログラムは、能登里山里海SDGsマイスタープログラムという名前で続いています。能登の里山里海を今後活かしてPRしていける人を育てることが大きな目的です。17年ぐらいやって、修了生241名います。能登だけではなくて東京から通った人とか金沢から毎週通った人もいます。能登とつながりながら能登のために何ができるかを考えたりしています。外から支援してもらって里山里海を使う方法を一緒に考える機会もあります。珠洲市内の廃校となった小学校の校舎が拠点になっております。珠洲市も運営費を半分出して大学と折半しています。

 この人材育成プログラムは大人の人向けですが、より下の世代の人材育成も大事です。珠洲市では、小学校の3年生の時に必ず「珠洲の里山生きもの観察会」を経験しています。10年以上この事業をやっていますので、今年の新成人ぐらいからは経験あると思います。早いうちに田んぼとか里山へ行って自然と触れ合う機会をつくることが狙いです。学校の授業の中に入れてもらって、野外に子どもたちを連れていって、2時間ほど外で生きものを捕って、こんな生き物がいたんだっていうのを見る機会をつくっています。

 観察して終わりではなく、まとめ授業を1回行ってます。何が見れた、田んぼと川ではどんな違いがあるのか。整理した上で自分たちが気付いたこととか、興味を持ったこと、考えたことを小学校3年生のクラスを集めて年末に報告会をしています。2013年から行っていますが、確認される種類が増えています。300種類に届きそうなぐらいの生きものが田んぼや田んぼの周りの環境で見つかっていますし、49種類はレッドデータに載っているものになってます。そういうことにも小学生に気付いてもらえる機会になってます。

 地区や集落で里山里海をどのように保全していけるかについて検討しています。自然の恵みを持続的に得て、集落の活性化を図ることを目指しながら、地域にどんな資源があるんだろうか、どんな情報をお年寄りたちが持っているのか、そういったことを地図に落としたりして見えるようにして、集落の人で共有しながら、次にすることを考える機会をつくり始めています。

 トキの生息環境を整えたいという地区もあります。2010年頃、佐渡からトキが飛来しました。その地区に、熱烈なファンが生まれまして、その人が引っ張って活動が進んでいます。ただトキっていうことだけにこだわって、おトキさまになっては困るので、あくまでトキは地域の生物多様性の豊かさを象徴する種類の一つという位置付けで活動を続けています。地元の地域づくり団体だったり、近くにあるNPO、里山里海保全に取り組んでいるNPOなどと一緒に相談しながら活動をしています。環境整備だけではなかなか続かないので、田んぼでできたお米を高く売ろうという取り組みも始めていいます。

 石川県のほうでは、トキの放鳥を目指した取り組みが進んでいます。モデル地区を設定しています。モデル地区での活動を紹介します。

たとえば魚道を付けてトキが生息しやすい田んぼにする。餌であるドジョウが増えるような環境づくりをやっています。その結果を調査して確認しています。難しいのは畔に除草剤を使用しないことです。農家さんが嫌がっています。草刈りは誰がするんだと。今までやってきた経緯もあるので頑張るけれども、お米を売って稼ぐような形で還元していかないと、現実問題として続かないと思っています。

 モデル地区での生きもの調査ですが、決まり事を相談しながら決めて、田んぼ1枚をこのように調査しましょうねっていう形でやっています。水路で定点的に調査をしています。地元の人が続けられるような形で調査をすることが大事だと考えています。

 2023年5月5日にも珠洲は地震がありました。その後調査したらドジョウはしっかり捕れたんですね。2024年に地震が起きて、最近調査した時はドジョウ1匹しか捕れなかったんです。何が理由かっていうのは分からないのですが、ずっと続けていると何か異常があったとか、そういうことに気付きやすくなると思っています。そこから次何をしようかと考えるきっかけにもなります。調査は地元の人とやることが大事と思って今も続けています。

 

市民参加型の調査

こうした市民参加型の調査として、もう一つやっていることがあります。ため池の状況を把握する調査はずっとされていませんでした。せめて登記されているため池については調べようと調査を始めています。調査を始めると、実は約3割ぐらいはたどり着けなかったんです。もう水がない状況が出てきています。管理されている状態とは、一応草刈りをしているなど、地元の人が来て何か作業をしている形跡があるかどうかをみています。十分管理されてるため池は半分以下でした。ほったらかしの池が結構増えてきています。そこで生きもの調査をすると170種ぐらいは、ため池から見つかっているんです。外来種のアメリカザリガニも新しく生息地が見つかったりして、広くやったことの意味もあると確認していますが、継続的に進めていくことに悩んでいます。

 手助けしてくれるNPOもあり、人手が欲しい時に活躍してもらっています。NPOがあるおかげで調査もできますし、保全活動という形でキノコ栽培だったりもしていますし、地引き網を作って定期的に海のほうの調査もしようとしています。こういうNPOがあるのは非常に助かっています。

 

能登半島地震と能登半島豪雨

 海岸が隆起しています。現地に行くとかなりひどいことがすぐ分かります。漁港に水が全くなかったりしています。

 ため池でも地割れが入ってます。改修が必要ですが、たくさんのため池が同じような状況なので順番待ちがあり、すぐには進んでいかない状況になってます。豪雨の後、ため池の堤のてっぺんすれすれまで水が来てました。越水して堤がえぐられたところもあります。対策をどうするかってなると、工事が間に合ってないという現状があります。

 取水、あとは用水の被害ですね。地面が動くとパイプラインは弱いです。すぐに分断されます。大規模な構造整備をしているところは、ほとんどがパイプラインだけになってます。地震が起きて分断されると、すぐに水が来なくなります。結構深刻です。ある地域では80カ所以上分断されてるのが見つかりました。確認する作業がとても大変です。元から栓を開けて、最初に吹き出したところを止めて、それでまた栓を開けて、また次吹き出したところを探すという、そういう地道な作業をずっとやって修理していく必要があります。かなり手間がかかります。

 豪雨の後の田んぼですが、田んぼだと分からないような状況ですね。ここは子どもたちが毎年生き物観察に来てた田んぼなんです。もう木と土砂で埋まってしまって、来年どうしようっていうところです。川が氾濫したところはもうほとんど一面こういう状況です。収穫目前だったんですけど、災害が起きてもう稲ごと埋まってしまったところもあります。なかなか土砂の撤去も難しい、すぐには進まなくてこういう状況になってます。

 海のほうは地形が変わったりして地震では、素潜りする人なんかは潜ったところが昔と違うという話をされたりして、漁場が全然変わってしまったという話があります。豪雨の被害はないのかというと、実は川からどんどん土砂が出ています。珠洲では冬場は海草がたくさん採れるのですが、やはり泥をかぶって商品にならないということで困ってるという話も聞いてます。いろいろな種類の海草をいろいろな食べ方をする文化があるのですが、人が流出していて、きちんと継承できるのか、今心配され始めています。

 たくましい農家さんなんかは、工事を待つんじゃなくて自分で何とかしようっていうことで、水を引いた農家さんもいます。なぜこれができたかというと、ため池と昔使ってた用水路が残っていたからです。この2つがなかったらできなかった話です。ため池にも水が残ってて、この用水に水が来るようにさえすれば、あとは工夫すればパイプで田んぼに水が引ける。これを自分たちで工事してやってしまう、そういうたくましさが能登の人にはあるとすごく感じました。でも、整備してパイプラインがあるところは、なかなかこういうことはできないっていう状況になってます。

 

まとめ

 今後に向けてですが、大きい災害ですぐに復旧とか復興はできないということは、みなさん分かっている状況です。今しかできないこともやはりあるので、それにも注目をする必要があると思います。

 一方で、今まで取り組んできたことをやめていいのかっていうと、続けることは非常に大事で、人が少なくなっても何とか、どうにか続けることができれば、それが発展して国の取り組みになっていく可能性があるなと思っています。そうやって続けたりしていくと新しい考えが入ってきたりします。外から来た人はこんなこともできるんじゃない、こんなふうにしたらどうって言ってもらえるんですね。やめて何も諦めてしないと、そういうつながりってなかなか生まれないなと思ってます。

 災害が起きるとやはりみんな下を向いて、もう何もできないって最初はなります。それをずっと思ってても仕方がないので、何とか復旧とか復興を考えるのですが、その時にやはり新しい取り組みも入れるチャンスじゃないかなと思っています。今までのやり方だと、なかなか新しいことに踏み切れなかったんですけども、何かやらないといけない、地域を残すためには何か次、手を打たないといけないっていう時には、やはりちょっと新しいことも検討する必要がある、検討できる余地があるんじゃないかと思っています。

 

 

 

【対話】

 

Aさん:石川県庁の縦割りによって、いろいろな情報が県民のところに届いてないという気がします。県民目線でやっていただきたいです。

 

Bさん:このカフェは楽しみに時々参加させていただいています。

 宇都宮先生のお話、とても素晴らしくと興味深く聞かせてもらいました。地域の方が積極的に参加する姿勢に少し驚きました。地道な活動が進んでいると思うのですが、もっと大きな力を手にされるにはどうしたらいいんでしょうか。たとえば、お金を呼び込む、経済活動を呼び込むような努力をまだまだしていかなきゃいけないんじゃないかなと感じました。どうお考えか聞かせていただけたらと思います。

 

宇都宮さん:ありがとうございます。経済活動をしていかないとどうしても人が離れやすくなるのは事実だと思ってます。

 ただ、一方で能登の人の気質として、お金もうけをし過ぎることは悪であるという感じも実はあります。助け合いながら一緒にやることは、非常に大事なところです。そこを外してお金もうけの話をしてしまうのは、人のつながりがちょっと危うくなるなと感じています。できれば経済活動、大きい活動になっていけばいいと思いますが、その土台になる部分を壊さないようにしないといけない難しさも同時にあります。したがって、PRしてお金がどんどん入ってくればマルっていうわけではないというのが正直なところです。

 そういう意味でも、やっぱりいろんな人に声をかけて、時間はかかるし、最初は小さい活動が多いんのですが、そういうところを地道にやっていくことが、特にこういう災害の後では大事と感じています。

 

Bさん:ふるさと納税の返礼品としてのお米のブランド化とか、とってもいいアイデアだと思いました。さらなる発展を祈っております。ありがとうございました。

 

宇都宮さん:ありがとうございます。ぜひ、興味があればふるさと納税の珠洲市のところをのぞいてみてください。

 

Cさん:元里山里海マイスターです。大変な貴重なご講演、ありがとうございました。

 ドジョウの養殖がトキを絡めた話になりますが、トキに食べさせるだけではなくて、人間が食べるのもいいと思います。ただ、それで一もうけやるよとなると、今の話もあったようになかなか難しい。やっぱり分かち合うっていう形、観光へ持っていくとか、いろんな形で人がつながれるような、一つの資源を分かち合えるような環境づくりはどんなものかと思ったのが一つです。

 それから、芸術といった文化的なものをこれから広めてこうという観点を持っていましたが、今はネットワーク時代ですから、大きな回線を通すぐらいでないと、発信力は落ちてしまうと思います。

 もう一つ、能登空港をどのように使っていくかもありますよね。穴水と能登空港をつなげるぐらいの勢いがあってもいいと思います。そういうとこまでしないといけないかなと思っています。どうでしょうか。

宇都宮さん:ドジョウの話は養殖をしているわけではありません。自然に増える環境をつくっていまする。ドジョウさえ増えればいい、それをトキが食べさえすればいいではなくて、ドジョウを含めて田んぼを利用する生きものが増えていく取り組みをしています。もちろん増えたらドジョウを食べようねっていう話はしてましたし、タニシもたくさんいるのでタニシも食べる文化は残ってたらしいので、そういうのもやろうねって言っていました。

 発信力については珠洲だけではなく、能登全体で少し課題かなと思っています。珠洲でも個別でやってる人は結構いらっしゃるんですよね。でも人が限られている。だから、ここにアプローチすればいろんな情報があるのが分かるものを整備するだけでもだいぶ変わるのとは思っています。

 インフラについては必要だと思います。インターネットにしろ何にしろ、田舎のほうに整備してほしいと思ってはいます。

 もう一つ、付け加えさせてもらいます。田んぼの話もしましたが、今の先端のインフラだけを考えるのではなくて、今までどのように維持してきたかというところも見直して、必要なものは残していく。どれか1つにすると、やはり災害の時に非常に弱いというのは実感しました。この転移ついては少し工夫する余地があると思っています。

 

菊地:今日のお話だとため池は地域のインフラですよね。それがいろんな形で放棄されたり、手入れが行き届かなくなってしまいました。地震で被害を受けましたが、今日の宇都宮さんのお話の中で、ため池をうまく活用しながら田んぼに水を入れることができる取り組みは、パイプラインみたいな近代的なインフラが軒並みやられた中で、古くからあるインフラが逆に役に立ったという例もあるということだと思います。このことから、選択肢をいろいろ持つことが大事だと学びました。古くなったものが全て駄目ではなく、長く続いたものは何らかの残る理由というのもあると思います。そういうものを活かしながら現代的な技術も使う。ハイブリッドみたいなのを考えたというのが今のお話でしょうか。

 

宇都宮さん:まさにそのとおりだと思います。

 

Bさん:ロマンがありますよね。昔の技術も使うし、今のやつも使うっていうのもロマンチックなことですんでね。

 

菊地:なかなか楽しくないとモチベーションが続かないので、何かそういう発見したりとか、いろいろなものを創造するという話でしょうか。

 

Bさん:ドジョウの養殖は、商業的にやろうと思ったら難しい。ドジョウが増える場所をつくっていきか、自然と人間とトキが共生できる環境が生まれると思います。

 

Cさん:ちょっと楽しくない話です。私は能登の山がずたずた、がたがたになっていると思います。能登には70基の風力発電があります。本来は回っていましたが、今は60基がストップしたままになってるんです、この1年間で。修復しようと山へ上がるにも山道が寸断されてたりしてもう上がれないんだろうなと。よく見ると崖崩れがあちこち起きたりしますよね。

 

宇都宮さん:はい、おっしゃるとおりです。どこに損傷があって、それを直すのにどれぐらいかかりそうかという査定がようやく終わりそうな状況です。これからなのかなというところです。遅れてると思います。風力発電も、止まったままのものが目につくのは事実ですね。

 

Cさん:山道ががたがたで上がれないんで、トラックも上がれない、軽トラも上がれないんで修復できないんですよね。

 

宇都宮さん:その最たるものがごみ処理場です。処分場はどうしても山の中が多いのですが、半年以上はごみの回収がなかったんですよね。道が直らないと運べないから回収できないという話で止まっていた部分もあります。道の問題はまだまだこれからだと思います。

 

Cさん:ため池なんかも、上流のほうで山が崩れたりすると、水がため池に流れてこないっていうケースもいろいろ出てきてるんですね。

 

Dさん:9月の豪雨で流木がたくさん出てるでしょう。ものすごい被害が出ていますが、自然の被害と、それから道のつくり方も乱暴で、そこが水の通り道になったとか。それから、山で間伐して、そのままほったらかしにして、それが川に入ったんじゃないかとか。自然災害と言いますが、そういう山の使い方の問題もあると思います。地元の森林組合の方とか、土砂が出る道についても地域の方はよく知ってると思います。

 特別な豪雨と、山を何か上手に管理してなかったことがミックスになってて、それが区別されずにいろいろ報道がされてると思うんです。宇都宮さん一人ではできないですが、ぜひその辺りも調べていただいて、情報を整理してほしいと思っています。

 

宇都宮さん:その通りだと思います。今のところは区別せずに災害という一言で片付けている部分はあるので、今後きちんと調べていく必要があるでしょう。山の手入れをどうするかっていうことにかかわってくると思いますので、情報を集めたりして調べてみたいと思います。

 

Eさん: 定年退職していますが、金沢で林業の仕事をしていて、山の手入れやりたいなと思っています。おおむね補助金事業になるのですが、木を切る、間伐して切った木をどうするか。そのまま材にできるんなら頑張って出荷しますが、山に残す場合はきれいに切りそろえて置いておく。地面に接地さして、できるだけ早く腐食さして土に返すという努力はすることになってはいます。ただ十分な事業費が賄えないんで、結構雑な仕事をしてたなっていうのがあります。

 能登の場合は特に林業、農業と並んで今後もやっていかざるを得ないんじゃないですかね。林業従事者が少し潤うような努力もしていただけたらいいかななんて思いました。。

 

Fさん:金沢でちっちゃな林業、自伐型林業という作業手法で林業をしている一般社団法人RainbowForest金澤の内部理事をしております。

 私は、珠洲にたまたま友達が多かったので、ヘルプの要請がすぐに入ってきて、1月の頭からずっと珠洲にいました。1年間たって落ち着いて、自分の専門分野である林業で今後能登で何かお手伝いができればっていうことで、緑の募金の助成金を獲得できました。3月から6月に23日間の研修を開催いたします。応募がSNSだけで発信したら60件ぐらいシェアいただきまして、結構県外からも応募が来て、もう定員オーバーの状態なんです。しっかりと林業従事者を育てたいっていうことで、10名に限定して開催します。森林組合さんのほうから、現場の人が今は半分ぐらいに減っているということを聞いているんですね。

 金沢では森林組合はすごく満遍なくやってくれていますが、能登はもうほとんどが山ですよね。その中でさらに奥能登となると、2次避難で行かれた方も帰ってくるか分からない状況の中で、地域に残ってる人が自分たちで地域の山をやっていく。そういう人が増えていくのが一番将来的にいいんじゃないかと思っています。私もいろいろお手伝いをさせていただければと思っております。また何か今回一緒にご協力することがあればとずっと思ってました。

 震災前に実際珠洲において、能登全体でも、自伐林家さん、自分の山を自分で施業する人がどのぐらいいたのか。かなりの高齢化で、もうどんどんやめていく人たちがここ数年、5年、10年でかなり増えたと思います。ほんとに今世代交代をしなければいけないなと思っております。自伐型林業は山を持ってないけれども山主さんの気持ちを酌んで地域の山に根付いてやらせてもらうっていうやり方なんですけれども。特に特徴的なのが、環境に極力負荷を与えない小さい道づくりで小型重機だけで少人数でやるっていう環境保全型の持続可能な林業ともいわれているんですね。

 今、激化している気候変動のことも考えると、やはり、いつ、どこで局地的なゲリラ豪雨があるか、ほんとにどこでも起きますよね。それがあった時に予想外なんて言えない時代に入ってきたんですよ。もうどこでも必ず起きる、毎年っていう意識で、やっぱり山っていうのはほんと源であり、大地の基本と言いますか、やっぱり山をしっかりと、そういうことも災害防止、そういったことも含めて山に立つ人は意識をしていかなくちゃいけないんじゃないかっていうことで、私は山守りを増やしていきたいです。

 里海里山といっても、なかなか林業のことはあんまり出てこないんですよね。やっている人も少ないこともありますし、農業のように気軽に始められない、危険性がすごいいっぱいあるし、お金も資機材もすごいかかります。なので、ぜひぜひ一緒に能登の里山を、山から、林業から一緒に協力して盛り上げていけたらと思っております。よろしくお願いします。

 

菊地: 山の話は重要ですね。宇都宮さんのお話にもありましたが、能登には高い山はないですが、小さい山が多く流域もとても小さいです。小さい流域に大雨が降ると、水をためておく場がないので、もう一気に来るわけですね。昨年11月下旬、大学院生と一緒に能登半島を少しだけ回りました。幹線道路はかなり良くなっていましたが、少し小さな道の入ると荒れ放題の道で、ちょっと怖い感じがするほどでした。水害被害の現場を能登町の人に案内してもらいました。ものすごくひどい。小さな川なのですが、流木がたくさん流れ着いていました。山が荒れていることが、被害を大きくした一つ大きな要因だと、現地の人もおっしゃっていました。やはり山をどうするかということは非常に重要なテーマだと思います。担い手がいないことが大きな問題だと思いますが、自伐型林業も人気はありますよね。山に逆何か可能性を感じる方もたくさんいるとも感じます。

 

Gさん:金沢大学さんのバイオマス・グリーンイノベーションセンターというところで木材を化学変換して高付加価値化させる研究開発を専門にしています。将来的には高付加価値化させた木材が地産地消の技術とかに役に立てればいいなと思っています。

 一番最初のディスカッションで、能登の人は金もうけが悪だと思われてるところにちょっと衝撃を受けました。ビジネスに携わる者として、どういった心理から金もうけは悪いと考えられてるのか、教えてください。

 

宇都宮さん:何か一人だけもうけとるっていうのが、意識としては良くないような感じです。

 

Gさん:村の団結感みたいなものを崩してしまうという意味ですか。

 

宇都宮さん:それもありますが、他の周りの人の協力もあってできてるはずなのに、あいつだけもうけとるとか。そういう見え方をすると非常にまずいという感じです。やはり情報も共有して一緒にやってる人に一緒にやって仲間ですよっていう感じでやったほうがあつれきを生まないと思います。

 

Gさん:では、みんなでもうけるっていうことが。

 

宇都宮さん:そうですね、みんなでもうけることはありかもしれないです。誰かやりたい人がぱっと手を挙げて、自分だけやってってなると、あんまりいい目では見られないっていうのがありますね。

 

Gさん:そういう観点でいうと、私は里山に住んだことがないのですが、里山に住んでいる方の幸せとか、モチベーションは何なんかなと思っています。今のことを逆説的にいうと、人のつながりがモチベーションになっているのかなとも思いましたが、いかがでしょうか。

 

宇都宮さん:難しいですね。あまり狭い世界になり過ぎるとお互いやっていることが見え過ぎることもあって、あいつはあんなことをしとるとか、すぐ見えてしまうんですよね。なので人のつながりはもちろん大事にしたくてモチベーションにつながることはありますが、それが全てではないというか、かえって逆に非常に足を引っ張られることもあることも事実だと思います。

 

Gさん:里山に住んでる方の幸せって、1つ、2つに言うと何なんでしょう。そこがすごく気になってるところです。

 

宇都宮さん:私もずっと生まれ育ったわけではないので恐らくですけど、私が見てる限りでは、たぶん仲間になっている、みんなと住み続けられるっていうのが1つと、生活にそれでも困らない、最低限はちゃんとあるっていうのがもう1つです。

 

Gさん:自給自足、自分で暮らせる分のものを作れるところがモチベーションになってる?

 

宇都宮さん:たぶんあんまり意識はされてないかもしれないですが、お互い物々交換とかも結構頻繁にされるので、お互い足りないものを渡して、お金は全く発生しない、そういう社会もまだ残っていいます。そういう関係性がやっぱり非常に大事だと思います。

 

Gさん:やっぱり人のつながりっていうことになるわけですね。

 

宇都宮さん:仲間としての人のつながりっていうのは大きいと思います。

 

Aさん:生まれは羽咋市の鹿島路町です。小学校の音楽室にはトキの剥製がありました。町の自慢なんですけど。トキの放鳥についてお尋ねしたいです。

 トキを放鳥しようっていう時に、イベントでは済まない事象だと思っています。素人ながらに考えると、トキが飛んでいっちゃうと糸の切れたたこみたいになっちゃって、もうどうしようもないというか、何か発信機でも付けて何かするのかどうかわかりませんが、手順とか技術的にどんなものでしょうか。

 

宇都宮さん:放すセレモニーはやると思いますが、放した後については、トキは自分の好きなところへ行くと思うんです。ただ、一方で飛んで行って、どこも行くあてがなくなって死んでしまうような環境は避けたほうがいい、避けるべきです。私の事例で紹介したような住みやすい環境づくりをもっともっと力を入れて石川県のほうでやっていって広げていくっていう必要があると思ってます。

 

菊地:セレモニーはだいたいやります。箱から放鳥するやり方です。もう一つは、定着させるために田んぼの中にケージを作って、数カ月飼育して、ここは自分の居場所だと認知させて放鳥する方法もあります。結局、どこに飛んで行くかは分からないです。餌があるとか、ねぐらがあるとか、好みの環境がありますし、鳥なりの行動原理があるので、人間の暮らしと一致させながら進めていくことが重要だと思います。

 少し無責任な言い方かもしれませんが、実際やってみないと行動は読めないところがあります。だから、今日の話のように確認や修正をいかにできるかが重要です。順応的に進めていくことです。時の行動を調査をして、どこを修正したら能登に定着してくれるかを考えていく。

 

Aさん:トキの放鳥みたいな看板が付いてたりして、ムードの盛り上げはいいことだと思いますが、いろいろな情報を公開しながら頑張っていただきたいと思います。

 

Hさん:私も能登の農家の現場現状はまだ把握してません。今トキの話が出ましたが、全て命は環境だと思ってます。今、国はみどりの戦略を打ち出しています。能登の方は何割ぐらいそれを認識して取り組んでいる、だいたいのパーセント、もし知っておいでたら教えてほしい。

 

宇都宮さん:非常に難しい質問ですね。トキに関してもそうですが少ないです。肌感覚だけでいうと、いいところ2割かなっていう感じはしています。

 

Hさん:国のほうで、県のほうでそういった推進をしながら、貴重な取り組みだと大賛成です。ちゃんと保護して増やしていく、そういった貴重な鳥の生態というかね。それに関しては、やはり全て環境が全て結果を表すと思います。国のみどりの戦略2030年、50年までは半分有機農法に切り替えることになっています。全国的に学校給食のほうにというような話も広がりつつある中で、まず地域の人たちがそのことをどれだけ共有して、社会を、思いを広げていくっていう、ここが一番の今社会の課題になってるんじゃないかなと。

 

菊地:非常に大きな問題提起ですが、時間が来てしまいました。ありがとうございました。

 

石川県立図書館さんに関連する本を集めていただきました。

いつもありがとうございます。

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