シマフクロウを「見せて守る」原稿裏話
調査報告「北海道知床半島のシマフクロウを『見せて守る』ための実践的課題」『保全生態学研究』が早期公開されました。
シマフクロウ研究者の早矢仕有子さん(北海学園大学)から誘われ、シマフクロウを「見せて守る」ためのプロジェクトに参加したのは2013年のこと。コウノトリの経験を買われたのでしょう。一緒に知床を訪れるようになりました。初めてこの目でシマフクロウを見た時、その神々しい姿に力とても感動したことを憶えています。まさに神の鳥だと思いました。
シマフクロウの観光利用に関して、利害も価値も異なるいろいろな関係者がいる。ただ、そうした関係者がなかなか一同に会して意見交換する場がない。場がないから、いろいろな誤解も生じ、断片化し拡散してしまう。2015年9月、シマフクロウの観光利用に関するシンポジウムを開催しました。その様子は以下にまとめています。
早矢仕有子・中川元・菊地直樹・涌坂周一・田澤道広・高橋光彦,2017,「シンポジウム『知床・羅臼町でシマフクロウの観光利用を考える』報告」『知床博物館研究報告』39:49-66
関係者が一堂に会したシンポジウムは一定の役割を果たしたとはいえ、そうした場ではなかなか話せないこともあります。利害関係者に個別に話を聞くこともまた重要だと考え、2017年12月、5人の関係者への聞き取り調査を実施しました。
そのデータの一部は、2018年3月に神戸市で開催された第66回日本生態学会・自由集会「絶滅危惧種保全と観光利用共存のためにできること」(早矢仕さんが提案)で報告。生態学者にとっても興味あるテーマなのか、立ち見が出るほど熱気に包まれていたことを思い出します(おそらく、私以外の報告が注目されていた)。
自由集会が保全生態学研究の特集となることが決まり、報告者の一人として僕も原稿を書くことになりました。どうも僕は、依頼される仕事はあまり深く考えずに引き受けてしまうタイプのようです。なんとかなるだろうという気持ちでした。いよいよ(早矢仕さんの指令に基づき)執筆段階になると、ちょっと悩んでしまいました(遅い!)。
そもそも保全生態学研究という異分野の雑誌に、環境社会学の質的調査の報告がふさわしいのか。しかし、他に手持ちのものはない。聞き取り調査の結果は、何らかの形で公表し、多くの人と共有できるようにしないといけない。問題解決に向けて少しは貢献できるかもしれない。こうした内容が保全生態学研究に掲載されることにも意味がある。なるべく生態学者にわかるように心掛け、あとは編集委員会の判断にお任せするしかない。早矢仕さんなどと相談しながら、なんとか書き終え、投稿しました。
投稿したもののほぼ一年間、何も連絡はなし。忘れられたのかなあと思っていて、そうした思いも忘れた頃に査読結果が届きました。おそらく編集委員会も扱いに苦慮したんだと思います。やっかいな原稿にもかかわらず、とても丁寧に対応していただきました。投稿から公開まで1年10ヶ月もかかりましたが、編集委員会には感謝の気持ちでいっぱいです。
この原稿を執筆する過程で、早矢仕さんや同じくプロジェクトメンバーの高橋満彦さん(富山大学)とも議論し、結果として科研費「絶滅危惧種の『利用と保全』の順応的ガバナンス構築に向けた学際的研究」の採択につながりました。採択により、文字通り、私の首は繋がったのです。