開催案内:第13回いしかわ生物多様カフェ・第5回のと里山里海カフェ

 
これまで開催してきたカフェでの中で、人材育成の重要性は何度も話題となりましたが、十分に対話が深まっていたとは言えないかもしれません。
今回は、能登里海教育研究所の浦田慎さんから復興教育に活かされる能登の里海について話題提供していただき、里海を舞台とした復興や人材育成などについて対話をしたいと思います。
 
【話題提供者】浦田 慎さん(能登里海教育研究所 主幹研究員)
【テーマ】復興教育に活かされる能登の里海
【日時】2025年10月17日(金)18:30〜20:30
【場所】石川県立図書館 研修室 ※対面のみです
【対象】どなたでも参加できます(参加費無料)
【定員】40名程度
【主催】金沢大学先端観光科学研究所 菊地直樹研究室
【共催】石川県立図書館・いしかわ環境パートナーシップ県民会議(いしかわ自然学校)
【後援】世界農業遺産活用実行委員会
【協力】石川県立図書館 上野裕介研究室
 

 

 
 
 

第10回 いしかわ生物多様性カフェ(3/27)開催報告

開催日時:2025年3月27日(木)18:30〜20:30

開催場所:石川県立図書館研修室

話題提供者:野村 進也さん(いしかわ自然学校インストラクター・金沢大学連携研究員)

テーマ:身近な里山の生物多様性−生きもの調査体験から

参加者数:29名(一般参加者22名+スタッフ・関係者7名)

 

 

【話題提供】

 

自己紹介

 私は関西生まれの横浜育ちで、2008年から石川県に来ました。ゲンゴロウの研究をしたいといったら能登を紹介されて、それから石川県に住み続けています。ゲンゴロウという名前は知っていても実物を見たことない人がほとんどだと思います。ゲンゴロウは国内に130種類以上、石川県では40種類以上記録されています。シャープゲンゴロウモドキとマルコガタノゲンゴロウ、この2種は全国的にも種の保存法という法律によって無許可での採取、譲渡、飼育が禁止されています。そういうゲンゴロウが実は石川県にいるんです。もともとは、ゲンゴロウのことをやるために石川県に来たのですが、身近な田んぼとか池とかで何か生きものを見せられないかという相談をよく受けるようになりました。そういうことを引き受けているうちに、観察会が自分の重要な活動になっていました。学校であったり、地域の団体であったり、この地域の生きものを見せたりしています。私はゲンゴロウだけしか知らなかったのですが、なし崩し的に、トンボ、カエル、淡水魚、川虫といった水の生きものを何でもやるようになっていきました。こうした生きものは里山の生きものなので、里山の生きものも含めて活動をしています。里山の生きものを通じて生物多様性とはどんなものなのか、人の活動とどうつながりがあるのか、そんなことをお伝えする活動をさせていただいています。

 金沢市でやっているサイガワリバーサイドアクトという毎年犀川でやっている活動です。生きもの観察とかいうより、河川敷を使っていろいろな催しですが、その一環で生きもの観察をしたら、けっこう親子が来てすごく盛り上がってくれました。あとは調査業務もしています。生きもの調査を手伝ってほしいとか、生きものの標本の同定をしてほしいという依頼もくるようになりました。

 里山の生物多様性ですが、里山はもともと人が適度に手を加えることで生物が維持される環境です。希少種が分布する地域の5割以上が里山と言われていたりします。里山って大事なんだよね、という話はありますが、ではどうやって伝えたらいいのか。学校の先生も、生きものや自然のこと、里山のことをテーマにした授業でしたいといっても、よく分からなかったりします。そういう時はご相談いただいて、子ども相手にお話をすることもありますが、自分が一番得意なのは、現場に一緒に出て生きものを集めてみましょう、どんな生きものか観察してみましょうという活動です。外に出る格好してもらって、長靴履いてきてもらい、網を持ってもらって生きものを集めてもらいます。見つかった生きものについて後でまとめて、こんな生きものがいた、ここはどんな環境なのかについて学んでもらいます。

 珠洲市の小学校で、田んぼを使って観察をした時、珠洲でも町中の子どもだと田んぼに入ったことないって子が意外といたんです。せっかくの機会なので田んぼに入って生きものを見てみようかとやると、カエル、たとえばトノサマガエルは割と普通にいる感じですが、実は環境省の基準では準絶滅危惧種です。ほ場整備に弱いって言われています。またドジョウのような魚が出てきます。これも身近な生きものとされていますが、今の田んぼは、こういった生きものにはちょっと厳しい環境が増えています。そうであっても、観察した時に初めてドジョウとかカエルとかいるんだと、みなさん驚くぐらいの生きものが見つかったりします。または、田んぼといえばの生きものの一つのアキアカネ含めた赤とんぼが見つかったりします。「今でも赤とんぼいるんだ」という声も聞かれたりします。

 

生きものがいる環境

 こうした生きものがいっぱいいて「いいね」という話だけではなくて、こういった生きものがいる環境はどんな環境なのかと考えていただきます。赤トンボで一番メジャーなアキアカネは田んぼの生きものとされていますが、具体的に田んぼをどのように使っているのでしょうか。アキアカネの話をすると、秋をイメージする方が多いです。夏とか春終わりごろとかにトンボを見せると、「え、トンボいたの?」とか「これ秋の生きものじゃないの」とか言われたりします。しかもアキアカネという名前ですが、田んぼで夏ごろに成虫になっています。

 アキアカネが田んぼに来るイメージの秋には産卵していますが、卵は田んぼで越冬して、春ごろに田んぼに水が入った時に幼虫がそこで育ちます。その後、初夏にもう成虫になっています。つまり、全然秋とは限らないのです。ただ、その後アキアカネは、暑いのが苦手なので、標高の高いところに移動して夏を過ごした後、秋になって田んぼに下りてきます。これが風物詩的な、アキアカネのイメージを形成していると思います。こんな生活史を持っています。

 このように、田んぼのスケジュールに合わせた生き方をしている生きものが結構います。田んぼはある時期水が入って、ある時期水がなくなる環境です。こうした環境に適応する生きものも多いのです。水の生きものの話をしていると、ずっと水があるといいように思われることがありますが、必ずしもそうではありません。こうした田んぼに来る生きものは、ある時期水が入った時に集中してそこに集まってきて、繁殖終わった後に別のところに移動するサイクルを持っている生きものが結構多かったりします。幼虫が育つ6~7月ぐらいまで水があれば何とかなるという生きものなんですね。アキアカネに限らず、似たサイクルをしている生きものをこの後紹介します。ただ、最近の田んぼは、石川県では6月ごろから中干をして、結構カラカラになっています。水が抜かれると、トンボはそこでなかなか育ち切れなくなることがあります。トンボから田んぼがどういう環境かということが見えたりします。

 さきほど、トノサマガエルは準絶滅危惧という扱いになっているとお話ししました。アマガエル、シュレーゲルアオガエルなどは、指先に吸盤を持っています。窓とかにカエルがぺたぺた張り付いていたり、夜の自販機に登っているのを見たことがあるんじゃないでしょうか。こうしたことができるアマガエルと違って、トノサマガエルは吸盤を持ってないので、コンクリートが打ち込んであると上がれなくなってしまいます。したがって、ほ場整備によってコンクリート化されてしまった田んぼでは減ってしまうんですね。近代化は、田んぼをする方にはどうしても必要だと思いますが、生きものにとってはいろいろな影響があるということが見えてきます。

 モリアオガエルについては、木から卵をぶら下げてオタマジャクシが下にぼとぼと落ちてくるイメージがあると思いますが、意外と田んぼの中で直接卵産んでいることがあります。モリアオガエルの産卵は5月から6月くらい、他のカエルに比べると少し遅いので、その時期に田んぼに水がないことが多かったりします。そういう影響がない場所だとモリアオガエルがに来てくれる可能性があります。

 3月ごろからニホンアマガエル、ヤマアカガエル、今の時期に田んぼへ行くと、つぶつぶ状の卵があると思います。4月から5月ごろの田植えが近い頃には、アマガエル、シュレーゲルアオガエル、トノサマガエルなど、別のカエルがやってきます。6月ごろ大きな田んぼでは中干しで水が落ちるので、その時期までに他のカエルはオタマジャクシの時期を何とかクリアするか、もしくは何とか残った水のところに集まってやり過ごします。ただ、その時期にも実は水が残っていて、モリアオガエル、比較的繁殖時期が遅いツチガエルも田んぼに来ることがあります。カエルから見たら、田んぼだけでもこんなことが言えたりします。

 次に水生昆虫です。オオコオイムシ、ヒメゲンゴロウ、マダラコガシラミズムシ、コウベツブゲンゴロウ、なかなか聞いたことない名前が多いと思いますが、こうした生きものがいっぱい来ます。しかも、こうした水生昆虫にも繁殖のために田んぼに来るものがいます。小さい時に来るんですよね。もちろん成虫もいます。水生昆虫にとって、カエルにとって田んぼはとても重要な場所なわけです。生きものにとって、田んぼと周りの水がちゃんとつながっているかどうか。たとえばメダカだったり、もっと大型のコイですら地域によっては田んぼに入ってきます。水伝いに移動できれば、いろいろな魚が田んぼにやってくる。雨になると水たまりにアメンボが来ているのを見たことある人もいると思いますが、ゲンゴロウは自分で行き来するし、カエルは当然陸地伝いに移動する。トンボの成虫は周りの森とかに来たりします。

 つまり、田んぼの生きものは田んぼだけではなく、他の水場とかなり関係があるということなんですね。田んぼを田んぼだけではなく、一つの水系として周りの環境をワンセットで考えたほうが、いろいろな生きもののつながりが見えてくると思います。

 田んぼをやる方には歓迎されないと思いますが、イナゴの仲間がいます。イナゴは2種類石川県に生息しています。コバネイナゴとハネナガイナゴです。ハネナガイナゴは石川県ではレッドデータに入っています。害虫と思われますが、ハネナガイナゴは少なかったりします。田んぼで捕って食べた方もいるんじゃないでしょうか。私も試してみました。

 東京のレストランから、イナゴを捕って送ってほしいという依頼がありました。最初は石川県で捕っていました。能登はたくさん生息していそうなイメージでしたが、「田んぼ、イナゴなんかそんないっぱいないよ」「あんまりいないよ」って言われて。効率が悪かったんですね。ところが別の仕事で富山に行った時に田んぼ見たら、イナゴがすごい揺れるぐらい、跳び出していました。当時は能登に住んでいたのですが、富山まで行ってでも集めたほうが効率がいいという結論になりました。

 イナゴの集め方は、夜中に耕作放棄地とかでヘッドランプ付けて、手でがーってすくって集めます。最初は網振って捕っていたのですが、どうも体力は使うわ、網はすぐ破損するので効率がよくないって気付きました。むしろ手づかみでやるっていう。しかも夜中ですから、ちょっと怪しいですよね。しかも手がイナゴ臭くなるっていう、めったにない経験しました。ちなみに依頼してきた東京のレストランに、帰省ついでに行ってみようと思って調べたら、ランチで万超えていました。

 さらに、ハネナガイナゴがいますが、石川県で少ないと言われていましたが、意外といたりするのかな。農業試験場の調査で、どうもJAごとの農薬が影響しているということが報告されていましたね。イナゴを捕ってみると、いろいろな田んぼと農薬の関係も見えてくるかもしれないですね。

 ほ場の周辺に水路があれば、やっぱり魚であったり、貝とかがいたりします。ヤリタナゴがいたりホクリクジュズカケハゼという石川県のレッドデータ入っているハゼが意外な水路で簡単に見つかったりすることがあります。さらに、二枚貝の仲間が住んでいることがあります。それぞれつながりがあるんです。タナゴの仲間は二枚貝を産卵場所に利用する。さらに二枚貝の子どもは、ヨシノボリのエラに寄生して生活しているんですね。共生ではなく一方的な利用なんですけど。ヨシノボリがいなかったら、この二枚貝はそこで生息できない、二枚貝がいなかったらそこにタナゴは生息できない、そんなことも言えてきます。水生動物同士でも利用し合っているとか、一方的に利用している。

 したがって、ほ場を含めたこうした水系は、それぞれ独立はしていますが、同時に一つのまとまった環境としても見ることができるのではないでしょうか。田んぼは一時的に水が入る浅い場所、ため池はずっと水が残るけど、池干しという管理でたまに水が抜かれることもあります。川はずっと水が流れている。その周辺のそれぞれの環境に適応した生きものだったりするんですよね。アキアカネみたいなトンボは、幼虫の期間が結構短くて、1~2カ月とかそのぐらいかなと思ったら、逆に川にいるトンボなんかも幼虫の期間何年間もかけてじっくり成長するものもいたりします。そこに合った生きものがいたりするんですよね。

 当然、水が増えたり減ったりします。たとえば「池の水ぜんぶ抜く」という番組があります。池の水を抜いて外来種を捕っています。あれをやると外来種だけではなく、プラスマイナスで長い目で見ると生物多様性にもプラスになるんです。なぜなら、泥を流したりとか、水の濁りがリセットされるからです。むしろ里山って人が適度に木を切ったり田んぼに水を入れたり抜いたりとかする、そうした適度な人為的なかく乱があって、環境の変化がリセットされる。ほっとくとただ単に一方的に遷移が進んで、独り立ちできるような生きものだけが残っていくことになるので、むしろ生物多様性が下がってしまうんですよね。こうした適度な人によるかく乱がむしろあったほうがいいことが見えたりします。こうした水環境も適度に水が抜かれたりしないと、生きものがなかなか住み続けられないと思います。

 次はため池です。ため池は田んぼがあるところなら大抵あります。全国的には香川だったり兵庫の西のほうが多いでしょうか。雨が少なかったり、奥能登での珠洲みたいに里山は発展しているけど、あんまり川に恵まれてない地域だとため池が発達し、田んぼにとって重要であると同時に、生きものにとって重要な環境になったりしています。

 そこでは、私の専門であるゲンゴロウが出てきたりします。ちなみに、ゲンゴロウを見たことある人はあまりいないんですよ。そうすると、現物を知らないので、地元の人から「ゲンゴロウおったぞ」と言われて見せてもらうと全然別物だった。よくそういうことがあります。大きいカエルは全てトノサマガエルとか、赤いトンボは全部赤とんぼとか、大きいトンボは全部オニヤンマとかなるかもしれないですね。

 ただ、ゲンゴロウの他にもいろいろな水生昆虫がいるし、ゲンゴロウの中にもマルガタゲンゴロウとかいろいろな種類がいます。これも絶滅危惧に入っています。トンボでも全然違うものが出てくる。ため池とか湿地とかに抽水植物が茂っていると出てくる。アオヤンマとか割と希少種とされているものが出てきたり。またはオオルリボシヤンマ、やや寒冷なところにトンボが出てきたり、またため池といった水の中に、周りが山とか森との関係がありますが、クロサンショウウオが産卵していったり。クロサンショウウオは、割と止水、池とかにいて、石川からある程度の範囲ではそこそこ普通にいるかな。しかし、冬に産卵していることは知られていないと思います。そこで、能登で観察会やりました。2月の夜中にため池に行ってクロサンショウウオ見ようと。そんな時期に生き物いるの?とみなさんに驚かれました。行ったら実は結構活動して見られた。しかも、クロサンショウウオとい名前なのに白いといわれたりとか。

 実は冬の間も水温は陸上よりは安定するので、意外と水の中の生きものを冬でも観察できたりするんですよね。また、ビオトープ水田では、湿地化した環境があれば世界最小クラスのトンボと言われているハッチョウトンボが見られたりします。1円玉に収まるサイズと言われています。そこまで希少種ではないですが、サラサヤンマという湿地性のヤンマが来たり、エゾトンボっていうマイナーなトンボが来てくれるかもしれない。

 ある小学校の観察会を川で開催する予定だったのですが、川が少し増水して危ないということで、では水たまりでしましょうと言いました。最初がっかりされました。ところが、そこでやると途端に結構いろいろな生きものが見えました。さっきの田んぼの話と同じで、小規模な水域だったり一時的な水域にも、そういった場所に特化した生きものが来たりすることがあるんですね。オオヒメゲンゴロウというマイナーなゲンゴロウが出たりとか、うまくいくとホクリクサンショウウオが見つかったりすることもある。最初はがっかりしていた子どもたちも、あっという間に夢中になってくれました。もくろみどおりでした。ただ単に水がしたたっているだけの環境にも来る生きものがいるんですよね。  

 川でも観察会やってほしいという依頼が結構来ます。川でやるときれいなヘビトンボがいたり、またカゲロウの仲間、ナミヒラタカゲロウの幼虫がいたり、ヒトホシクラカケカワゲラの幼虫がいます。なかなかみなさん名前聞かないですよね。カゲロウははかないものだって言われます。成虫が1日ぐらいしか寿命がない。半日とか数時間のものもいるらしいです。ただ、その分幼虫の期間に時間をかけているタイプなんです。こうしたカゲロウがいっぱい見つかる。こうした水の生きものは魚にとっては重要な餌になったりするんですよね。魚とか水産資源を支えていたりします。

 国交省とか環境省でやっている川の生き物調べという資料があります。見つかった生き物によって水環境はこんな環境ですねと言える指標になっている。観察会をして、サワガニだったりトンボはたくさん水があるところ、ここは澄んだ水なんだなとこういうことが分かったり、逆にザリガニとかエラミミズ、こうした生きものしか見つからなかったら汚れている水なのかなとか、そういったことが分かるかもしれない。

 実際には単純に水がきれい、汚いという人の感覚とは違ったりします。必ずしもきれいな生きものがいればいいかどうか別の話です。たとえば川の上流だったらこうしたきれいな生きものにいてほしいのですが、逆に川の中流、下流なのにこんなきれいな水の生きものがいても、それはそれで不自然。むしろそうでなく、適度に栄養が入っている、決して澄んでいる水ではないけど、そうしたところに来てくれる生きものがいてくれるほうがむしろ健全だと思います。

 環境に変なことが起きているのではないか、ある程度は見ることができるかなと思います。こういうのも見やすい生きものは知る手掛かりにもなったりしますね。さすがに上流なのにザリガニとか汚い水の生きものしかいないなら、ちょっとやっぱりおかしいことになっているんじゃないかなと考えられます。

 そして、水の生きものは魚の餌として水産資源を支えたりしています。アユはコケを食べることが有名ですけど、実は水生昆虫も食べています。石川県ではゴリ料理が有名ですよね。カジカ、当然水生昆虫とか餌になる生きものがいないと住めないです。食文化とかそういったものにもちゃんと影響しているんですよね。

 川でも上流の澄んだところと違って、中流の流れはあるが人里に身近なところでは、コシボソヤンマという流水性のトンボが出たり、コオニヤンマというトンボがいたり。鳴き声がきれいなことで有名なカジカガエルが出たりする。オタマジャクシ、流れのあるところに適応するせいか、口が吸盤になっています。さっきの川虫は平べったくなって爪が鋭くなって石の下に張り付くことができたりとか、適応しているんですよね。

 そういった生きものがいたと思ったら、実は川にもゲンゴロウがいたりします。川に出るゲンゴロウは、池とか田んぼのゲンゴロウとある程度共通していたりはする部分はありますが、流水になった途端にがらっと種類が変わったりします。川でも下流であったり河口付近になると海と行き来しているものがいろいろ。中流、上流ですら、ちゃんと海とつながりがあって行き来している生きものがいたりしますが、海とのつながりも見えてくる。

 能登町の九十九湾、のと海洋ふれあいセンターのところがアカテガニの産卵で有名ですし、観察もできる場所になっています。海沿いの田んぼだったらそういったものが来ることもありますし、イシガレイというカレイの仲間も見つかったことあるんです。海の魚じゃないの?と思ったら、やっぱり行き来していたりするんですよね。ボラだったり、調査でアジ捕れたこともあったかな。やっぱり海と行き来している。

 今の時期、穴水ではアサザ漁が知られています。躍り食いで有名なシロウオがいたり。先日穴水の保育園の生き物観察に行く時に、川に行ってこれ捕ってきました。みんなのおじいちゃん、おばあちゃんはこういうのを捕ったりしているかもしれないんだよみたいなお話をしてきましたし、子どもはなかなかアサザ、シロウオのことは知っているわけではなかったとしても、大人はやっぱりよく知っています。

 視点を陸上に変えてみると、樹液に来る生きものがいます。雑木林は田んぼとか、ほ場、里山の一部ですから、人が木を切るから光が差して、若い木がまた生えてくる、そうした環境がちゃんと適度に保たれる必要がある。人が何もしなくなると、よく昔の燃料に使っていたという落ち葉をかき集めるのをやめてしまうとキノコも生えなくなるし、新しい草も生えなくなってきますし、木を切らなくなると老木ばかりになってなかなか若返らなくなってします。そんなことも生きものからも見えたりします。カブトムシもやっぱり来ますし、鳥も結構います。シジュウカラだったり、ホオジロの子どもなどです。

 ちなみに、私は津幡にある石川県森林公園を職場にしています。そこの建物のトイレ掃除に行っている女性職員が「きゃー」って声を上げたので見にいったら、クロサンショウウオがトイレに入ったとかありました。

 当然里山とかの環境って、当然草原だったり花に来る昆虫もいます。ちなみにこれ長寿草って結構石川では希少種にされている植物ですけど、そういった場所にはハナムグリの仲間がこうやって花の蜜を吸いに来ることもあります。アブといっても別に人を刺さないですし、受粉媒介してくれているかなと思います。樹液にも来るし花にも来るようなチョウもいたりします。

 こうした観察会をやってみた結果、最初は田舎の子どもでも田んぼに入ってなかったりしたのですが、積極的に自分から「田んぼを横断する」と言って、田んぼの中を歩いてくれる子どもが現れたりします。観察会に一緒に参加してくれた大人も夢中になったり、田んぼとか場所提供してくれている農家の方が「すごい励みになる」と言って、生きものに少し意識してみようかとか、いろんな影響が出たりします。いろいろな生きものがいて面白かったねって言ってもらえるには、しっかりした環境が、いろいろな環境が残って、そこにいろいろな生きものが残ってくれていることが重要だということが見えてくると思います。

 当然、同じ水環境でも赤とんぼこれだけ種類が変わってくる。いろんな田んぼだけじゃ駄目なんですよとか、ため池だったり湿地だったりちょっと高層湿原っていわれている環境だったり、川で流水だったり、そうした環境が変わることで赤とんぼと一言で言っても、いろんな種類が見つかったりする。

 

生物多様性と環境の多様性

 そうしたことから生物多様性、3つのレベルの生物多様性の中でも生態系の多様性、要はそれぞれ独立した環境だけどそれぞれ実は影響し合っていたりする。こうした生態系の多様性も見えてきますし、豊かな生態系とか環境が残ることで種の多様性、いろんな種類が出てくれる。種の多様性も見えてきますし、また遺伝子の多様性。実は地域ごとに微妙に違うんじゃないかっていうこともいつか分かるかもしれない。

 見ていると、同じ種類でも能登と金沢って微妙に住んでいる場所違うような気がするなとか、地域によってどうも利用する環境を微妙に変えているんじゃないかなということが見えてくる時もあります。

 そして、地形的なことも見えてくるかもしれない。石川県の6~7割は里山と言われていますが、能登になると陸地狭いですよね。震災の時、車による移動は大変だったと言われていますが、実は山は意外と低いし海に近い。前知り合いで山梨からよく出張で来られていた方からは、こっちのは山じゃなくて丘だと言われていました。川の源流域が海から数百メートルとか1キロしか離れてない。そんな環境でさえ川の源流域が発達しているのは珍しかったりします。石川県のそういう地形が見えてくると思います。

 たとえば、富山を車で走ったことある方は、知らず知らず意識していると思いますが、石川県に比べて川が広いですよね。石川県は川は大体そんな長くないです。それ他の県の川に行くと途端に広くなったりとか、全然環境が変わってくる。生きものを見ていると全然違うんですね。なかなかデータ化したりとかできてないですが、魚とかゲンゴロウとか、富山にいたほうがむしろ見つけやすかったりする印象はありますし、流水性のトンボ見つけようと思ったら福井とかに行ったほうが石川県より見つかりやすい印象があったりします。いろいろな環境の違いが見えてくるんですよね。

 こうした生きもの観察会を長く続けていくと、嫌な影響も見えてきたりします。定量的なデータではありませんが、とある小学校の同じ場所で観察を続けていたら、どうも生きものの種数が減ってきているということがありました。だんだん里山の管理が大変になって、続けたいけど田んぼは年取ったからやめるわってなって、ため池もどんどんヘドロ化してきちゃったんですよね。どうも生きものの種数もどんどん下がっていっていた、数も減っていた、そんなことがありました。

 

生物多様性の危機

 冒頭の菊地先生のお話でも、生物多様性4つの危機という指摘がありました。そこから里山の生きものが見えることって結構あると思います。たとえば、開発、外来種、地球温暖化であったり里山の縮小だったり。分かりやすいのは人の影響ですよね、開発。ちなみに私の地元の横浜には意外と田んぼやため池があったりしますが、大体汚いです。開発によって環境は失われますし、川もやっぱり。石川県でも川は管理され過ぎています。

 私の住んでいた横浜の地元は北部で自然が多いところでした。公園がセットになって池があります。ウシガエル、ブラックバス、ブルーギル、アメリカザリガニ、ミシシッピアカミミガメと外来種勢ぞろい。なんかすごいアメリカナイズドされた池でした。そうした外来種によって影響を受けてしまう。外来種についても国内外来種という問題もあったりして、北海道のトノサマガエルが入っちゃったとかいろんなことが起きているわけです。

 植物も外来種がすごく入っていて、身近なものでも既に交雑してる、もしくは外来種が広がっていまする。実は外来種は双方向の問題なので、日本からもジャパニーズ・ビートルとか呼ばれちゃって、マメコガネとか、あと身近なクズがアメリカでは確かグリーンモンスターとかそんな呼ばれ方しているのとか、すごく大変なことになっています。

 オオスズメバチがアメリカに最近侵入したことが話題になったとか、いろいろな話があるんですよね。温暖化したら、そこに適応していた生きものが減ると思いますし、雪解け水が減ると、どうも春の時期に水がたまる場所に水が減ったなっていうことも実感したことはあります。田んぼの害虫なんか、冬が雪が減るとむしろ生き残って、害虫として翌年に起こりやすくなったりする可能性あるんですよね。農業とか環境がほとんど変わってしまう影響が大きいと思います。

 今回の里山に関しては、人の働き掛けがむしろ縮小することのほうが危険じゃないかと言われています。私が以前能登で見たことのある田んぼ、現役だった頃の田んぼですが、放棄されてあっという間にただの陸地化してしまう。これでもうカエルの住み場所は一つなくなったわけですよね。

 私はゲンゴロウのことやっていて、みなさんからよく「手つかずの自然に行ったほうが生きものがいっぱいいるんじゃないか」って言われるんです。むしろ逆で、そういったところに行くと、せっかくため池があっても陸地化して跡形もないとか、そういうことが多いんです。むしろ適度に人の手が加わってほしい。ただし、加わるにしても農薬まいた直後に生きものが死んでたりとか、田んぼやる方にとっては仕方ない話かなと思うんですが、やっぱり近代化され過ぎると生きものにとって大変な環境になってしまっています。中干しとかの影響もそうですね。

 ただ石川県、特に能登で起きている問題は過疎高齢化ですよね。農業の担い手がどんどん減って田んぼが荒れてしまう。しかも今回の震災によって、もっととんでもない影響が出ていると思います。地震の後、能登に行く機会ありましたが、比較的町中に近いところの田んぼは残ってくれていましたが、ちょっと奥地でやや離れたところは途端に耕作放棄地がぐんと増えたなんていうのがありました。これで生きものはどんどん減っていく。

 ため池もほっとくとこうやって泥がたまって、最終的に陸地化しちゃうんですよね。こうしたことがどんどん起きています。地図を見ると、ため池のマークあっても、ずっと人が入ってないとこんな状態になっちゃったりする。放置された森とかこういった場所はただただ伸び放題になって若返らなくなっちゃう。こういったことがどんどん起きていくんですよね。私が保全にかかわっているマルコガタノゲンゴロウという希少種の生息地もまだ残ってはいるものの、管理されてないから、水がすごい濁ってきて、だんだん減ってきていることは見えてきています。

 だから、本来は適当に水を抜いて流して、また違う水が入ってきてというサイクルがあってほしい環境だと思います。シャープゲンゴロウモドキの生息地になっている沼も、実はこれ沼地といっても元はため池だった。むしろ放置されて沼地化した時にシャープゲンゴロウモドキが結構来てくれたものの、さらに放置されたことで埋まりかけて、こうなると希少種の住む場所もまたなくなっていくわけですよね。こうしたことがどんどん起きています。

 では、どうしたらいいか。また里山を活用してみましょうとか、そうした場所どんどん水を入れて変えてみましょう。たとえば、マルコガタノゲンゴロウとかそういったゲンゴロウが結構いる池でしたが、水が汚れてしまった時、うちの先輩がアドバイスしたのは、重機で泥かき出しましょう、と。なんか自然破壊しているようにしか見えないですけど、ちゃんとその後再生しました。ゲンゴロウ増えました。

 みなさんにこれやってくださいとか言っても大変、そんな簡単にできるわけではありません。せめてこういう現状を知って、自分たちにできることを少しでもやれたらなとか、私でもできること、こういうことを伝えるだけでも違うと思っています。

 

生きもののことを伝えよう

 こうした里山の生物多様性を知って、少しでもちゃんと周りに伝えてみようと意識してみよう。では、何をしたらいいかといえば、難しいことをしなければいけないわけではなく、身近な観察会が結構あったりします。こういったところに参加してみて、こんな環境が、里山が残ると、こうした生きものがちゃんといるんだって分かったり、学生にビオトープ体験してもらったこともありました。田んぼだった場所を掘り返して水がたまるようにすると、あっという間に生きものも集まるようになってくれたんです。ただそういった場所は変異も早くて、すぐにまた泥が入ってきて埋もれちゃうんですよね。学生をとかも、ここぞとばかりに働いてもらったらやっぱり即再生してくれた。

 観察会をセットにすると、自分たちの活動でこんな生きものが増えるんだ、戻ってくるんだ、と分かると思います。観察会に地元の人にも入ってもらう、子どもらにも来てもらったり、いろんな周りの大人にもいろいろ巻き込んで参加してもらったり、そうしたところを里山歩きの場所にして、みんないろんな生きもののことを知ってもらう。

 その例として、たとえば金沢市の浅野川は女川、犀川は男川と呼んだりしますが、清掃活動している団体があったものの、清掃活動の成果はなかなか見えづらい。たまたま知り合った方から、生きもののことを教えてほしいって言われて観察会やったら、川でこんな生きものがいるんだと実感してもらうことができました。東山でお茶とか踊りとか着物とかの活動やっている方たちが、こういった活動ができる。いろんな例があるんじゃないかなと思います。

 難しいことじゃなく、とにかく生きもののこと知って見て触れる機会を持っていただけたらいいなというのが私から伝えたいことです。ありがとうございました(拍手)。

 

菊地:話もいいですが写真もいいですよね。すごいと思いました。私は大ざっぱで、カエルはカエルとかトンボはトンボという人間なので、野村さんのお話を聞き、きちんと自然を見なきゃいけないなとあらためて思ったところです。

 

 

 

【対話】

 

Aさん:最近よく外来種のことを考えるんです。特に今、大きな黄色いヒメリュウキンカがたくさん咲いていて、ヨモギとかを駆逐しています。私はできることとして庭にあるヒメリュウキンカをあるところは残して、あるところはむしっているんです。ヒメリュウキンカはキンポウゲ科で、一応毒性もあるので素手でやっちゃいけないって書いてあるんです。私は漆の仕事をしているので素手で取っています。私たちの庭とか周りの雑草にちょっと目を向けていただいて、外来種と在来種を考えていただければ。

 ヨモギなんかは昔から日本にあって何十種類もありますが、ヒメリュウキンカとかいろんな在来種じゃないものが、在来種を覆ってしまう。葉っぱがぱーっと丸く大きくなるので、他の種が入れないし、とにかく根茎が付いていて強いんですよね。繁殖力も強くて、ほっとくと絶対増えるんです。そういうものに気を付けて庭の草むしりをしていただければいいかなと思います。

 

野村さん:外来植物、外来種のお話でしたけど、そもそもどれが外来種なのか、みなさん知らないで過ごしている方も多いと思います。身近な植物だと思っていたけど実は外来種だったりします。たとえば珠洲とか奥能登は外来動物少ないのですが、植物は田んぼ周りで平気でがんがん生えていたりするんですよ。そのことを全然知られていないです。名前知らなくても、現物を見たらこれヒメリュウキンカだとすぐ覚えていただけるかもしれないです。

 

Aさん:キンポウゲ科ですが、毒がすごくあります。子どもたちが摘んできたり、それから口にしたりしたらちょっと危ない植物なんですよね。オオイヌノフグリとかヒメオドリコソウはそんな毒性もないんでほっといても大丈夫なんですけど。

 

野村さん:私も植物そんな詳しいわけじゃないのですが、外来種はそもそも問題なのに、みなさんなかなか知る機会がないです。外来種に限らず、そもそも生きものを野外に放つことはしてはいけない。ヒメリュウキンカはおそらく観葉植物か何かによって広がったのかと思います。

 

Aさん:ヨーロッパ、特にイギリスにあるものがこちらに入ってきたんですよね。

 

野村さん:そもそも、野外に生きものを放してあげることがいいことだと思われているケースがすごく多いんです。私の職場でも、おじいちゃんが笑顔で孫の捕ったカブトムシを放しに来たという人もいます。別のとこで捕ってきたものだったりします。ニシキゴイを放したいんだけど、放す場所あるかという問い合わせの電話がかかってくることもあります。このくらい世間とのギャップが大きいんですよね。今は、一度捕ったものは最後まで飼わなきゃ駄目だといわれていますし、放流とかも全然意味もないし、むしろ悪影響だからやめたほうがいいという方向になっていますが、全然知られてないのはすごく残念です。伝えたいのですが、生きもののことに関心持ってない人にいっても、「あ、そうなの」でおしまいだったります。

 

Bさん:初めて参加しました。新潟県新潟市の日本自然環境専門学校から来ました。金沢生まれで今実家に帰ってきています。2年間、生物多様性とか農業について学ぶために新潟で1人暮らしして学んでいます。この会に参加してすごいいいなと思ったのが、農家さんと生物の専門家との間にすごい認識の差がある、生きものに対して認識の差があることをおっしゃっていたことです。

 私も新潟県内で生きもの調査のイベントだったり、アルバイトで環境調査をしたりしています。その業務で石川県の放棄水田の調査もさせていただきました。とても貴重な生きものがいるのにグリホサート使ったり、ネオニコという強い農薬を使ったりする人もいます。用水路もとても大事で、コンクリートのU字溝を使うとトノサマガエルがいなくなるし、実はそこにアカハライモリもいたりします。そういうところも気にせずに整備したり、農薬を使う人が多いなと感じています。最近になってジャンボタニシ入れたとかも聞きます。まだ石川県も新潟県もないと思いますが、ジャンボタニシ入れて取り返しの付かないことになったと話もよく聞きます。

 新潟県の佐渡はとても自然豊かでトキが生息しています。トキを保護するために農家さんも協力して「ふゆみずたんぼ」をしたり、田んぼの横にわざと水たまりを作るんですよ。それは特に稲を栽培するためではありませんが、ふゆみずたんぼを作ることによってトキが冬にもそこで餌を捕れる。農家さんも専門家と協力して生きものを守ってこうといういい取り組みをしているところも見てきました。

 野村さんに質問したいことが一つあります。農家さんと専門家の認識をどうつなげていくか、どうすれば農家さんが生物多様性についてもっと高い意識を持ってくれるのでしょうか。野村さんとして、こういうことしたら良かったなとか、こういうイベントをやったら農家さんの反応もすごく良かったということがあれば、教えてください。

 

Cさん:金沢市内に在住しています。佐渡の農家さんが、農業にはあまり意味のない水たまりを作っていることはすごいことだと思いました。外来種の話も、ヒメリュウキンカもヒメオドリコソウも外来種と知っていましたが、きれいだなと思って写真を撮ったりしています。野村さんの飛んでるトンボの写真すごかったですね。外来種とは知っていますが、外来種も何とかなるんでしょうか。もうどうしようもない、受け入れるしかないのかななんて思ったりもしています。どういう態度を取るべきか、教えていただければと思います。

 

野村さん:とてもハードルの高い質問ですね。現場でやっていてもなかなか答えが出ない、私に限らずみんな苦戦していることだと思います。うまくいくとしたら農家の人たちに一緒に観察会とかに参加してもらって反応を見てもらうことでしょうか。子どもの反応はやっぱりダイレクトに伝わったりしますよね。

 ただ、そこに来てくれるかどうかは別問題です。珠洲の小学校の観察会でも、必ず地元の農家に田んぼを提供していただいています。とても温度差があって、一緒に参加してくれて一緒に喜んでくれるところもあれば、「じゃあ分かった、使って」とか「そういう話があるなら」みたいな、「まあ」みたいな感じでそれ以上関わってくれないところとかもあります、そういうところで来てもらうのは難しいですよね。

 やはり関心のない人に伝えるのはなかなか難しい。「虫、嫌」とかいわれて、もうそれで話がおしまいとか。この先が大事なのにできないとか。地道にやっていくしかないのですが、ただそれには限界があります。対症療法ではなく、根本からやってほしい、そもそも外来種持ち込んじゃいけないという考え方自体がスタンダードになって欲しいということがあります。

 田んぼの周りに水を入れる場所は、佐渡で江と呼んでいるやつですよね。そういう田んぼがたまに残っていたりします。これがあるとトキも残ってくれたりしますので、すごくいいですよね。

 

菊地:江は能登にもありますね。私は生きものの専門家ではありませんが、農家の人たちと生きもの観察をやったことはあります。子どもが田んぼに来るのは、農家の人からすると非常にいいことのように思えます。高齢化が進むなか、生きもの観察すると子どもが来て、その親も来る。そういう人の流れができることについては、喜んでいる人が多いと感じたりします。

 ただ一方で、農家の人のいろんな苦労とか大変さも理解して、お互いが理解しないとこういう問題は難しいかなと思います。農家の人にもいろいろな事情があるし、生きものを考える人の事情も当然ある。お互いがどうやって学んでいくか。

 

Dさん:外来種と文化、金沢の文化を考えたりもします。その典型的な例が、お茶をやっている人たちがお花茶時に、ヒメリュウキンカをよく使っていることです。夏になるとタカサゴユリとか。生けている人たちに「これ外来種じゃないですか」といったとしても「え、何ですか、それは。これは昔から使っているんですよ」といわれます。われわれが外来種といているものは全然受け付けられないです。ヒメリュウキンカ、すてきな名前じゃないですか。タカサゴユリもすてきな名前じゃないですか。何で使って悪いんですかって。ものすごく私も違和感をおぼえますが、やめなさいとはなかなかいえないです。おそらく、お茶花の歴史の中でずっと使われてきたものなので、難しいと私は思います。どういうふうにしてこのハードルを越えたらいいのかなと感じます。

 

野村さん:難しい質問ばっかりで試されているような気がします。一般の方たちにいってもなかなか難しいかなっていうのは正直なところです。これは飛び道具的なやり方と思いますが、もう生け花のトップの人たちに訴えるとか、そういうのじゃないと難しいのかな。そういう人たちが変わったら多分すごく変わってくれると思うんです。あとは、普段からもっと外来生物に関する教育がちゃんと広がってくれないと思います。

 

Aさん:たとえばチューリップも外来種ですよね。ラナンキュラスとか、ほんとに美しい外来種の植物を栽培してまで作ってますが、あれはあれでいいと思うんですよ。

 逆に外来種を全部駆逐してしまったらいけないと思うんです。だからここはヨモギの里、ここはヒメリュウキンカの里みたいに、ちょっとヨモギも残るような配慮が必要だと思うんですね。ヒメリュウキンカはヒメリュウキンカで残すとこがあっていいと思うし、ヨモギはヨモギでヒメリュウキンカが生えちゃったらヨモギは全滅するから、そこだけはヒメリュウキンカ生えさせないとか、そういう頭で在来種を残す場所を作ってほしいと思います。

 

菊地:鹿児島の奄美大島にアマミノクロウサギという固有種、絶滅危惧種が生息しています。沖縄とか奄美地方には、ハブ対策として人為的にマングースが放たれた歴史があります。そのマングースによって、クロウサギが絶滅の危機に追いやられ、生態系が大きく変わりました。環境省は大変な資金と人員を投入して、つい最近、奄美のマングースを全滅させたと宣言しました。一方、人から聞いた話なので不確かなことではありますが、逆にクロウサギが増え過ぎて違う影響が出て来るという懸念もあります。生態系はいろいろなバランスで成り立っているので、何か退治したら何かいいという話でも単純ではないんじゃないか。もちろん、既存の生態系に大きく影響を与えるものは排除しなきゃいけないのですが、いなくなった場合また違ういろんな影響が出てくると思いますが、どうでしょうか。

 

野村さん:一つ問題解決したら次の問題が起きる。たとえとして大き過ぎる話かもしれませんが、歴史でいえば冷戦が終わって世界平和になるかと思ったら、今度は民族紛争やら宗教対立が起きちゃったとか。結局それを抑えたら違う問題が噴出しちゃうことがあると思います。とにかく問題解決はこれでおしまいではなく、次はこれだっていうのは常に対応し続けるしかないかなと思います。絶対に問題は起こり続けるということは考えておいた方がいいと思います。

 

Aさん:種の保存は大事ですよね。その種がなくなる、地球からなくなるっていうのは悲しいです。

 

菊地:そうですね。ここは越えてはいけないというラインはあるのでしょうが、この問題はそこ以外はかなりグレーゾーンみたいなところがあることでしょうか。だから一つの解決策をやれば全部が解決できるという話では決してないと思うんですよね。

 

野村さん:種の保存という話が出ました。一回いなくなると戻らないことが大問題です。いなくなってもいいということが続いていると、おそらくどこかで取り返しの付かないことが起きるんですよね。

 ゲンゴロウでいけば、東京、神奈川は絶滅扱いになっていますし、地域レベルでは相当絶滅になっています。それはもう戻らない。こっちにもいるからいいというけど、それもいなくなるかもしれない。そもそもそっちにいるゲンゴロウと、かつて東京とかにいたゲンゴロウは別ものかもしれない。今、能登は地震で大変なんで、能登の生活とか文化がなくなるかもしれない時に、生きものの話かなんてとなるかもしれませんが、とにかく時間は戻らないことは少しでも知ってもらう必要があるかなと思います。

 

Eさん:金沢大学生命理工学類の学生です。奄美大島の話をしようと思っていたんですけど。そこで関連して。奄美大島の件は外来生物の根絶までは成功だったので、成功した理由を自分なりに考えています。やはりアマミノクロウサギみたいな象徴種がいたおかげで、行政だけでなくて市民も協力して取り組めた問題だったと思います。石川だと何が象徴種として使えるか分からないですけど、そういった象徴種が生まれると農家さんと専門家の意見の食い違いも減って、みんなで協力して環境関連の問題に取り組めるんじゃないかなと思いました。石川県でもし象徴種を作るとしたらどういった種なのかなと気になりました。

 

野村さん:ハードルの高い質問ばっかりですね。取りあえずいえば、これから放鳥されることになっているトキとかでしょうか。私の立場的にはゲンゴロウといった生きもの大事にしてほしいと言いたいのですが、やはり華のある生きもののほうが影響力強いんですよね。したがって、トキと表向きにはいっておきます。本音では違うものを推したいんですけど。

 トキ以外で、生きもの保全に向けて何か華のある生きものを見つけようと思ってもなかなか都合いいのは思い当たりません。私のほうが聞きたいというのが本音であります。

 トキのように田んぼの多様性と絡みやすいとか、ストーリーをつくりやすい生きものがいいと思います。魚だったら、こんなおいしいんだぞとか、そういう資源としてすごい大事なんだぞといえる。写真きれいに映えるものがよかったり、いろいろインスタ映えですかね。

 ゲンゴロウはそうかっていうと、困ったなって。ゲンゴロウ見せて「ゴキブリみたい」っていわれることよくあります。よく見るとかわいいと推してもらえるとうれしいのですが、逆に変な盛り上がり方してもらっても、それはそれで取り返し付かない気もするので、なかなか推し方は難しいと思います。華のあるストーリーのあるもの、ただし裏でちゃんと違う、本当はこれも大事なんだということを進めていくことが大事かと思います。

 

Aさん:ギフチョウとか。

 

野村さん:ギフチョウも推しつつ、ギフチョウのためには、カタクリのためにはとかちゃんとそういう前座的なストーリーを作るのが大事かなと。私自身もこれがいい、どうしたらいいのかなっていうのは難しいですよね。

 

Fさん:野村さんほんとにご苦労様です。ゲンゴロウの研究をしている野村さんの姿は知っていますが、だんだんゲンゴロウが少なくなってきている。地域、社会、何が原因で少なくなっているのか、率直な感想を聞かせてください。もう一点は、今トキの話が出ていますが、トキの餌は何でしょうか。

 

野村さん:ゲンゴロウに限らないですけど、要は里山の管理が追い着かない、そういった人がいなくなっていることでしょうか。人の手が入って里山が保たれないと生きものが残らないこと自体が知られていないです。では里山をもり立てるにはどうしたらいいか。そもそも人がいないので、絶望的な気分になりますけど。

 少なくとも、それを伝えていかないといけない。それに興味を持ってない人たちにもそれなりには伝わらないといけないという時、そこでちょっとつまずきかねないことはあります。トキ自体は田んぼであんまり餌を選んでないのではないでしょうか。トキにそんなに詳しくないんで。ただ田んぼに来る生きもの、餌としてのポテンシャルある生きものといえば、カエル、魚、多分餌になると思いますよ。イナゴも餌になるかもしれない。

 先ほどの話と同じですが、アユとか水産資源も含めて餌生物が必要だっていう時、何が必要かなと、そもそもどこにどんな影響を与えるか、そういう情報すらなかなかなかったりするんですよね。

 生きもの調査で紛らわしい種類が出た時、これ石川県の分布種でいいのかなとか結構迷うことがあります。そういった情報もやっぱり必要です。ベースの部分を上げていかないといけないと思います。

 

Aさん:クマとかイノシシとか、ニホンカモシカとかが、サルとかも害をもたらすようになりましたよね。里山が駄目になったことと繋がっていると思います。白山にスーパー林道が通ったりとかいろいろなことがあって、害獣がいっぱい出てきました。生態系が崩れたからだと思います。私たちの学生時代まではそんなことなくって、山行かないとクマに会えないという感覚でした。今は里まで出てきますし、夜は歩けないんですよ。そういう観点からも生態系の大切さをもっといってもいいと思います。

 

菊地:害をもたらす生きものが人間に近づいてきている話で、山を利用しなくなったという里山の危機と非常に密接に関係していると思います。

 

野村さん:クマやイノシシとか、さきほどのトキみたいなストーリー作る。華を持たせやすいとかと逆で、これはこれで結構伝えやすいかなと思います。ちょっと危機をあおるような感じになるかもしれませんが。去年は大問題になり、相当報道されて、里山と里の境界がなくなっちゃったとか、防げなくなったというか。そういう意味では伝えやすいのかなと思います。もちろんそれだけでは伝え切れないと思いますが、一つの方法と思います。

 

菊地:クマは人間を襲う可能性もある生きものなので、里山をどうするかという問題について、人びとが真剣に考えるためのきっかけとなる生きものと思います。金沢大学はよくクマが出ますから、怖いです。里山に対して、もう少し人間が入って、ここは人間の領域ですよという形の利用の仕方をしないとなかなか難しいと思います。

 今日は、たくさんの生きものが登場しましたが、その大切さをどのように表現できるのでしょうか。全部が大事ですよといっても、なかなか難しいですよね。私がかかわっているコウノトリの場合、コウノトリは大事なのですが、一方野村さんみたいな方もいて、コウノトリだけではなく、こういう地味な生きものが大事なんですよと考えている人たちもいます。そうはいいつつも、コウノトリは生態系のトップであり、コウノトリが生息できることは、いろいろな生きものが生息できることという理屈は成り立ち、ストーリーを作っています。

 

野村さん:やはり日の当たるところだけではなく、それ以外のところも見てみましょうとか、そういったところは考えていきたいなとか、知ってほしい、伝えられたらなということは考えています。ただ、とても難しい。私だけではなく他の専門家も多分難しいと苦慮すること多いと思います。

 

菊地:もちろん専門家だからといって、必ずしも解決策持っているわけではありません。今回のように、現場の悩みをいろいろとお話ししていただけたら、一緒に考えることはできると思います。

 

Gさん:今回の震災があり、能登の里山、特に奥能登の現状はかなり厳しいものがあると思います。人がどんどん減っていくに当たって、里山もどんどん壊れていくことになっていくと、野村先生がライフワークでやっている生きものは、どんどんいなくなっていくだろうなと思いますが、現状はどんな感じでしょうか。

 

野村さん:まだまだ分からないことも多いです。海は報道されているので、みなさん知っているようにとても隆起しています。既に壊滅的な影響とかは出ているとは言われています。

 里山とか水の生きものに関しては、長く見ないと分からないことではありますが、やはり里山が放棄されて住める場所がどんどん減っていく。ただでさえ先細りし続けていた生きものが、奥能登の過疎高齢化が何十年分ぐらい一気に進むのと同じで、生物多様性のほうも一気にダメージがくるとは思っています。たとえば、ため池とかでも地震と水害の影響でやはり堰堤(えんてい)が壊れていたとか見ましたし、水ためられなくなっているところとか。比較的町に近いところだったらそうでもないけど、ちょっと山里に行く途端、あれ、ここも放棄地になったのっていうぐらいにいきなり耕作放棄地とても増えているんですよね。

 年を重ねるごとに一気にダメージが目に見えるようになってくるのかなと危惧はしています。ただ、まだまだ分からないことも多いので、ひょっとすると蘇生する場所、一部は湿地化して一時的に増える場所もあったりするかもしれません。それよりも減るほうが多いかな。長い目で見ていかないと分からないことだと思いますが、いいことはないと思います。

 

Gさん:情報提供ですけど、私も実家が能登で、週末は向こうに行って農作業とかの手伝いはしています。3月中ごろ、もうそろそろ田植えが始まりますので、農業用水の用水路の掃除を集落総出で行いました。周りを見ると活動しているのが、70代、80代で、最年少が私の53歳。結局若い人が誰もいない。森林とか山のほうも高齢化が進んでいるので誰も入っていかない。なので、野生動物がいっぱい出てくる。現状はそんな感じです。

 70代、80代で動いている人たちは、一人一人いなくなっていく。そうすると田んぼとか結局なくなっていく。今、お米がないとかいわれているじゃないですか。きっとそういうことが続くと思うんです。作っている人たちがどんどんいなくなっていって、近い将来にひどいことになってくと思うんです。

 

Hさん:今、何をすればいいのかという話が多かったと思いますが、それのヒントを得るために歴史をさかのぼって、人びとは一体どういうことをしてきたのかを知りたいと思いました。里山の生物多様性がずっと下がっているというお話がありましたけど、歴史のどこかの段階にピークがあったわけですよね。その時の人びとの活動は生物多様性を上げるために効果的、生物多様性という観点から捉えてプラスの方向が持てたのかが気になっています。その当時の人たちの生態系に対する人為的なかく乱が、たまたま生物多様性の観点から見てすごく良かったという話なのか、生物多様性を上げることが人びとの暮らしを豊かにすることに直結していたからなのか。もしくは人びとが強い生物多様性への意識を持っていたのかとか。そういう背景をもしご存じだったら、知れるとありがたいなと思った次第です。

 

野村さん:少なくとも当時の人たちが生物多様性を意識していたことはないと思います。むしろ生活のために必要だからしていたことが、たまたま生物多様性に直結していった。または必要なものを守るためにはそういう作業が必要だった。たとえばマツタケは、適度に管理をしないと出ないです。したがって、必要だからやっていたのと、生物多様性に必要なものを守るためにやっていたことが結果としてっていうふうな、そこじゃないかなと思います。

 昔も時代によっては木を切り過ぎて山がはげ山になっていた時代もありますので、昔が良かったかどうかもなかなか難しい。そして昔のデータがないのでわからないことが多いです。ただ生物多様性のためにというより、ちゃんと生活していたら生物多様性が保たれるというのが本来の理想なのかなとは思います。なかなか難しいことも多いと思います。

 

菊地:生物多様性という言葉自体が最近の言葉なので、そういう捉え方は基本的にしてなかったはずなんですよね。いろいろな生きものがいるという話はあったかもしれませんが。

 今日は、里山の生きものについてたくさんお話ししていただきましたが、人間の暮らしとどのように関係しているのか、これから関係を作っていくのかという話だと思いました。ストーリーをどう作るかとか、そこに何か必要なのか、山に関わるとか田んぼに関わるとか、そのための理由みたいなものがないと、生きものが大事ですよ、生物多様性が大事ですよといっても、どうしようもない状況があると思います。

 だから、里山の生物多様性は社会の問題だと思います。生きものの問題ですけど社会の問題なのです。どういうふうに私たちが、特に若い人たちが関わっていくかについて、考えなければいけないのかなと思いました。そんな感じで理解してよろしいでしょうか。

 

野村さん:大丈夫だと思います。

 

菊地:ありがとうございました(拍手)

 

 

今回も石川県立図書館の担当者の方に関連図書を集めていただきました。

いつもありがとうございます

日本鳥学会で自由集会開催

日本鳥学会・自由集会「バードウォッチングにおける『利用と保全」の循環」を開催
 
2年前、金沢大学で開催された日本鳥学会の自由集会で発言したことにより、ネットワークが広がり、昨年は報告者、今年は「バードウォッチングにおける『利用と保全』の循環」の企画者になってしまいました。会員でなければ企画者になれないため、環境社会学を専門とする私ですが日本鳥学会に入会。
 
以下、集会の簡単な報告です。
 
松井淳さん(Sicklebill Safari)のパプアニューギニアのお話では、バードウォッチングにより狩猟圧が弱くなったとのこと。二重価格や属人的な意思決定など、色々興味深かったです。松井さん曰く「パプアニューギニアは最後に行ってみたい場所」という人も多いとか。最後でなくていいので行ってみたいなあ。
島田哲郎さん(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)からは、伊豆沼・内沼のツアーの話。底上げを目指したもので、参加者の満足度は極めて高いものの採算性がないことが課題。ツアー内容や費用設定などをどうすればいいのか?
須藤明子さん(株式会社イーグレット・オフィス)からは、伊吹山のイヌワシのカメラマン問題のお話。極めてマナーが悪い人たちが集まり、生態系への影響もみられた中、秘匿から見せる方針に大転換。公開したことにより共感が広がり、行政なども参加した対策により、マナーが悪いカメラマンがいなくなり、イヌワシを解説するツアーを実施するようになったとのこと。この大きな転換もたらした力学はどのようなものか?
高橋満彦さん(富山大学)からは、資源管理の視点から法政策について解説していただきました。撮影・鑑賞は奨励すべき活動であるが、では生態学的課題や社会経済的課題もある中、どのようなものが認められるのか。それはグレーゾーンにある。法律は大事だけど万能ではないんだなあと再認識。
 
各報告の後、対話。時間が押し30分しか時間がありませんでしたが、多くの人からさまざまなお話をいただきました。
関係者のみなさん、参加していただいたみなさん、ありがとうございました。

第4回 のと里山里海カフェ(7/20)開催報告

第4回 のと里山里海カフェ

開催日時:2025年7月20日(日)13:30〜15:40

開催場所:能登町当目 当目地区多目的研修集会センター

テーマ:トキ、コウノトリと共生する地域づくり

参加者数:30名(一般参加者25名+スタッフ・関係者5名)

 

話題提供者である佐竹節夫さんは、兵庫県豊岡市コウノトリ共生課の課長として、そして日本コウノトリの会の代表として、人とコウノトリが共生する地域づくりをすすめてこられました。

佐竹さんさんを招き、「トキ、コウノトリと共生する地域づくり」というタイトルでお話ししていただきました。コウノトリが繁殖し、トキの放鳥を控えるなか、どのような取り組みができるのか。参加者のみなさんとともに話し合ってみました。

 

 

修田勝好さん(NPO法人 当目)

 今日は「のと里山里海カフェ」を奥能登で初めて開催をさせていただくということで、本当にありがたく、うれしく思っております。

 能登町当目地区は、奥能登の山の中ですね。今でこそ珠洲道路と能登空港ができていますが、昔は何かあると宇出津へ行って、そこから汽車で金沢へ出るという地域でした。

 町野川の源流地、山田川の源流地、輪島に抜けている河原田川の源流地でもあります。源流地は、大体山の中、辺ぴな所ですね。1670年代には、この地域の石高が800石という記録が残っています。非常に米作りが盛んな地域だということは、この地図で見ていただければわかります。色付けした所が田んぼです。昭和40年半ばまでは、もっと山奥にまで田んぼがありました。昭和40年半ばの減反政策が始まった時、奨励金も出るということで、条件の悪い所を放棄して、だんだん山奥の田んぼが縮小をしてきました。それでも今現在、これだけ残っています。

 条件は厳しいですが、非常に特徴のある米づくりを行なっていて、今に引き継がれています。

 1つは「陰地(かげち)管理」です。日当たりを良くするために、山の一定の距離だけ、田んぼの人が管理する権利が昔から認められています。山主は、自分の山でありながら、田んぼのそばの地面は、田んぼの人の管理に任せると。場所によって、その長さが決められていました。日当たりのいい所、悪い所で距離が違っている。明治の個人所有が始まるまでは、地域で申し送りをしながら、それ以降は口伝えで、絶対に地域の人たちが守っていくと。他から入ってきて山を購入した人も、そこは手を出せない。当目へ行って山買ったら気を付けないといけないね、といわれています。地番としても、陰地地番が残っています。陰地の管理、それが最近は地域の景観にも非常に寄与していると考えられます。大規模な陰地がまだ残っているのは、珠洲道路の入り口の所です。きれいな所が残っています。

 もう一つは「エゴ」とか「ソエ」というものです。段々の田んぼで、溝を切って、水が常にそこに滞留しているような感じになっています。山水を直接田んぼに入れているので、少しでも温めて米づくりをしたいという思いと、それから地面からにじみ出てくる水を遮断することによって田んぼを乾かして、米の生育を促したりと、いろいろな思いがありますが、最近は、生物多様性という点から非常に注目をされております。

 生きものに詳しい方が調査していますが、希少種は、われわれが知らないだけで、至る所に目に付くような地域です。ハッチョウトンボにしろホクリクサンショウウオにしろ、この地域は、恵まれた環境になっています。

 このような地域で、のと里山里海カフェを開いていただけることは、地元の者としてありがたいと思っております。今日はぜひ、皆さん、ゆっくり地域も理解をしていただきながら、またいろいろな活発なお話をしていただければありがたいなと思います。

 

蔭地

 

 

菊地

 昨年度から「のと里山里海カフェ」を金沢で開催してきました。なぜ里山里海カフェなのか。第一に能登半島地震が起こった中でも、やはり里山里海が能登の復旧・復興基盤ではないかと思うからです。もう一つは対話ですね、いろんな人が話し合いをすることが大事なではないか。この二つを組み合わせているのが、のと里山里海カフェです。今回、奥能登で初めて開催です。修田さんにいろいろお世話になりました。みなさん、お越しいただきましてありがとうございます。

 去年の11月、石川県の農業ボランティアで、たまたま来たのが当目でした。当目のことは、それまで正直知らなかったです。田んぼの泥やゴミをかき出す作業をしたのですが、修田さんが地元の担当で、作業をしながらいろいろお話しを聞いたんですね。作業終了後も先ほどの陰地とか、そういう話をいろいろ聞いて、生物多様性を大事にしている地域だと教えていただきました。1カ月後ぐらいに、中国出身の大学院生たちと再訪問し、案内していただきました。その時、のと里山里海カフェを当目で開催してみませんかというお話をさせていただき、今日の開催となりました。

 先ほどの陰地の写真です。きれいに管理していますよね。蔭地って言われないとほとんど気付かないのですが、あらためて見てみると、きちんと人が管理していることが分かって、この地域が田んぼを大事にしていることがよく分かると思っています。

 今日は、トキ・コウノトリとの共生がテーマです。トキの放鳥地が羽咋市に決定しました。能登にコウノトリが飛来していたり、そしてトキがこれから放鳥されますが、どう共生したらいいのでしょうか、どう地域づくりと結び付けたらいいのか。なかなか分からないこと多いのではないでしょうか。そうであれば一緒に考えましょうと、こういう機会をつくらせていただきました。

 豊岡市からお越しになった、日本コウノトリの会の佐竹節夫代表から、コウノトリと共生する地域づくりについて話題を提供していただき、当目、あるいは奥能登におけるトキ・コウノトリと共生する地域づくりについて一緒に考えていただければと思います。佐竹さんは兵庫県豊岡市のコウノトリ共生課の初代の課長をされた方です。それ以前から、行政としてコウノトリの野生復帰をすすめられてきました。早期退職してNPOつくって、コウノトリの生息環境の整備に取り組んだり、国内外の市民のネットワークを作ったりされています。行政的なことも分かりますし、NPO活動を通して市民レベルのことも分かる方だと思います。よろしくお願いします。

 

 

佐竹さん

 兵庫県の豊岡市から来ました。元は市役所の役人でしたが、早期退職をしNPO活動を始めました。豊岡の町をどうするか、豊岡のコウノトリを有名にして、豊岡を有名にしてやろうという思いがあったのですが、コウノトリがどんどん外に飛んでいったのでで、これは豊岡にこだわっていたらコウノトリはできないなと思って、日本コウノトリという会をつくりました。私は能登のことは全く分かりませんので、豊岡が今までやってきたことを説明させてもらって、対話ができればなと思っています。

 

 

 

 

【コウノトリ】

 コウノトリはどんな鳥なのか。1つは水辺で暮らす渡り鳥ということです。もう一つは食性。植物は全く食べずに、生きた動物しか食べない。3つ目が大食漢、大飯食らいであることです。丸飲みできるものは何でも食べます。羽を広げたら、2メーターぐらいになる日本では最大級の鳥です。

 渡り鳥ということについてです。東大の先生と中国とロシアの研究グループの調査です。アムール川の支流の流域と、黄河の河口付近と、長江の中流域。秋の終わりに南下して、長江の中流域で越冬して、アムール川に帰っていく。その中で、ちょっと好奇心のある鳥が朝鮮半島まで飛来し、さらにまた東方見聞録をやりたい鳥が日本まで来て、また帰っていったりします。越冬先の環境が良かったら、そこにとどまる性質もあったので、日本にとどまるコウノトリが少しいたと思います。

 今は、中国でコウノトリ保護がとても進んでいますが、私たちが始めた時(1990年代後半)は、世界で2,000羽いるかいないかといわれていました。もう1万羽とっくに越えていています。

 トキは佐渡島に550個体ほどいますが、外にあんまり出てこないですね。コウノトリは、大きく移動します。51という韓国で大歓迎された個体は、佐賀まで行って、2日後には長崎行って、鹿児島行って、岡山に行って豊岡に帰ってきて、こっち行ったりやっているうちに、長門から韓国に渡って熱烈歓迎を受けました。またうろうろしてて、沖ノ島経由で帰ってきて、最終的には島根県雲南市でペアを組んで繁殖しました。1日で400キロ以上は優に動く鳥です。

 私たちのハチゴロウの戸島湿地のペアが生んだ第1世代から第4世代の子どもたちが、どこまで行っているのか。北海道から韓国から沖縄から台湾まで、どんどん散らばっています。渡り鳥ですが、一つのとこにこだわらないのが特徴です。

 次、形態を見てみましょう。特徴が2つあります。1つは真っすぐな大きなくちばしです。先がとがっていますので、よくツルッパシっていわれます。ミミズよりも小さいものでも食べます。もう一つは目玉。私は歌舞伎役者の錦の絵のように、かっこいいと思いますが、これを怖いっていう方もおられます。こんなすてきな目をしていますよね。

 なにを食べているのか。典型的には田んぼでドジョウを食べています。トノサマガエル、バッタ、ノネズミです。シマヘビか、アオダイショウかも分かんないですね。農家にとってありがたいのは外来種であるウシガエルを退治はしてくれますが、残念ながら、ウシガエルのオタマジャクシはあんまり食べないです。ちなみに、コウノトリが一番大好きな食べ物はウナギです。仲のいいペアでも取り合いします。これはスッポン。こんなもん飲めるのかと思ったら、飲んじゃった。これはヒラメですね。ヒラメって海の底にいますよね。くちばしが23から25センチです。それ以上深かったら、獲ることができません。ではなぜヒラメが取れたのでしょうか。韓国の済州島ですが、ヒラメの養殖場から逃げてきたやつを食べたのです。45センチぐらいで1キロほどあるナマズも食べます。今、飼育の中で与えている餌が、1日で大体500グラムです。1キロ食べたら2日間食べなくてもいいと考えますよね。ところが、この個体はどんどん食べる。3キロだの。肉食の鳥は、獲物がいたら追いかけて殺して食べる習性がある。ではメタボになるかといえば、ならない。みんな糞で出てしまう。たくさん餌場が要る、ちょっと手ごわい鳥です。

 次に環境です。ロシアの生息地は地平線の向こうまで広がる大湿原。これだったらたくさん生息すると思えば、コウノトリはいまだに絶滅危惧種になっています。ここで問題です。国土が狭くて山が7割を占める日本に、なぜコウノトリは棲めたのか、棲めていたのになぜ絶滅したのか。今どんなことしているのか、というのが今日のお話です。

 弥生前期の田んぼを発掘したら、コウノトリとサギの足跡が残っていました。コウノトリがいて、人間の足跡があるということは、弥生の前期に中国から稲作が入ってきて、日本全国に田んぼが広がり出したことで、コウノトリは日本での分布域を広げられたと思います。

 田んぼは、米を作るだけの工場ではなくて、同時にいろいろな生きものを結果として生んで育てているアジア特有の湿地です。田んぼがあることが、コウノトリが生息可能であることの理由ではないか。もちろん田んぼだけではなくて、民家の裏山にアカマツの大木があり、そこで巣ごもりをして、田んぼに下りて餌を食べて子育てしていたのです。

 ところが、田んぼが主要な餌場ということは、稲を踏む害鳥として、コウノトリはとても嫌われたんですね。豊岡でコウノトリをもう一度野生に返そうという時にも、総攻撃に遭いました。「あんなものはとんでもねえ」みたいな。経済の高度発展を経験した人たちですから、1粒でも、1俵に10トンを取らないと、一丁前じゃないという時代でしたからね。

 明治時代になって狩猟の制度が変わったのですが、最初は何もなかったので、外国やら西洋人がたくさん来て、ばんばん撃ち出したりしました。明治25年、政府は『狩猟図説』をつくりました。富国強兵策を進めるためには、その鳥獣が農業を振興する上で有効有益か有害かって区別したんです。農業の振興に役立つもの、例えばツバメは野菜の虫を食ってくれるんで益鳥。ヒバリやスズメは、害虫は食べるけども、野菜も食べるから半々。こういう決め方を政府がしました。ツル、コウノトリ、トキは、ことごとく有害だから、何の役にも立たないと。銃で捕獲して、その肉を食べて、羽毛は利用せよと。だから、アホウドリなんか500万羽ぐらいが殺されて、みんな羽毛になって絶滅宣言されたんですね。

 明治の30年ぐらいの間に、日本の多くの生きものが殺されてしまった。この図説を基にして、25年10月に規則を作ったのですが、これでどんどん殺されたんですね。明治41年にようやく狩猟法で初めて希少かどうかも判断基準になりました。トキとコウノトリとヘラサギが保護鳥になりましたが、もう時既に遅しという歴史をたどっています。

 

 

【絶滅から野生復帰へ】

  問題はここからです。このように殺伐となっている日本の中で、では豊岡はどうだったのでしょうか。豊岡では当時、のんきにコウノトリ見物やっているんですよね。茶店をやって、芸者も連れていったなんていう話もありました。日露戦争に勝ったのは、コウノトリが営巣して、ひなを育てることができたからだと、戦地の兵隊に文書を送ったりしています。

 日本中が役に立たんやつは殺せ殺せと言っていた時代に、能登もそうだったのではないかと思ったりします。政府の言っていること、そんなもん知らんわいやっていうのが能登もあって、独自の歴史、文化があったのではないかな。それが生き残っていたために、トキも最後までいたのかも分かりません。さっきの陰地ですね。うちの村でもいまだに誰もやるんですよ。そういう風習とか文化があることが豊かな印ですよね。

 今の豊岡はこんな感じで盆地です。縄文時代に海進期があり、海がどんどん高くなって入ってくる。これの名残みたいなところです。全体が低いです。その田んぼを見てみると、こんな感じなんです。昭和30年代から40年代の初めぐらいの写真です、沼の中に田んぼがあって、田んぼに行くのに田船で行かなあかん。水路と田んぼが面一ですから、冬でも水路の魚が田んぼの中に入ってくる。その代わり、稲刈りも水浸しの中でやっている。こういう環境だから、コウノトリが豊岡で最後まで生息できたと考えられます。

 ただ、水辺の生きものの生息には適していますが、人間にとっては大変だと。人間の、特に農家の我慢の上にコウノトリが生息できていたといってもいいかもしれません。一方にはいいけど、一方に悪いっていうのは、絶対長続きしないですね。第2次世界大戦後、豊岡の田んぼのほぼ全てを乾田にしたんです。水系は分断され、生きものは激減して、コウノトリは非常に住みづらくなった。

 追い打ちをかけたのが農薬です。都会でこの話をしたらね、農薬を振っている農家の人が悪いってなりますが、みなさん、やっぱりそれは腹立つでしょ。何が悪いんやと。一生懸命真面目に農薬の農業をして食糧増産やっていて、こいつらが勝手に保護しているだけやないかってなもんですよ。

 役所は、こういうことを考えずに、この鳥だけを保護しようとしたんです。今、獣医師さんの世界でよくワンヘルスといいますが、その動物の健康は、全体の環境によって影響されると。この考えが当時なかったんですね。1965年からは、捕獲してコウノトリを人間の管理下に隔離しました。しかし、どんどん死んでしまいました。当時の兵庫県の知事は、とても頑張ったんです。コウノトリの安住の地は、日本国中、一体どこにあるのかっと落胆していました。結局71年に野生絶滅したんです。

 転機は、89年に飼育の中で繁殖したことです。旧ソ連から、若い個体をもらったことがきっかけですが、一つやっと風穴が空いたぞと。

 2つ目は、菊地先生が勤められていた兵庫県立コウノトリの郷公園が99年にオープンしたことです。拠点ができて、どうするか。まず考え方です。コウノトリ野生復帰は環境問題だと考えました。人間がその環境を壊したから絶滅したのだから、その環境を取り戻す責任は人間にある。放鳥の前に国際会議とやると、「やっぱり私らが農薬を使っちまったんで、滅ぼしちまった」と話すおばあちゃんが、ぽつぽつといるんですよ。だから、農薬を使って滅ぼした、悪いことをしたみたいな、その意識が、相当野生復帰に力になりました。

 となると、生きものだけにいいとか、人間だけにいいとかではなくて、人と自然が共生する地域社会を復活する、つくっていくということになっていきました。そのために何をするのか。2つあります。1つはコウノトリに徹底的にこだわって野生に返す。コウノトリにこだわる人。しかし、能登でも、繁殖したからといって、コウノトリにこだわる人は、そんなにいないと思います。もう1つは、コウノトリも暮らせる、イモリもゲンゴロウもオニヤンマもアシナガバチもみんなが暮らせるという、そういう地域にもう一度取り戻して持続可能にするというものです。コウノトリを守るということにこだわる人と、コウノトリも生物多様性の一つとして、広く農業を通じてやる人と、両方が必要だなと思っています。

 では壊した環境をどうするのか。田んぼと水路の間にこれだけ段差作ったけど、階段作ったらつながるじゃないか。水田魚道です。水田魚道、豊岡では百何十基あります。壊したものを自然保護、保全するだけではなく、もう一度作り直す、ネイチャーポジティブだと、積極的に関わろう。今ようやくIUCNや世界のほうがいい出しましたね。豊岡はもう何十年が前から作り直そうとやっています。

 稲を踏む害鳥という意識をどうするのか。豊岡では、徹底的に調べました。たまたま野生のコウノトリが飛来し定着していました。朝4時過ぎに集合して、何台かでコウノトリを追いかけて、下りた田んぼをみんなが見て、計数機で数えるんですよ。何歩歩いて何歩踏んだってやる。飛んで行ったら、そこの1台が追いかけていって、残った1台が写真撮って。兵庫県がまとめました。倒れた稲が起き上がってきたのかまで追跡調査までした。

 結局、400歩で1株踏んだが、稲が育つまでにはほとんど害がなかった。密集植えなので苗が少々倒れても、風通しが良くなると農学者が説明してくれたりしました。いくら調べても、役所はうそを付いているか分からんという不審がありますよね。農家に委託するんですよ。「お金払うから、やってくれ」と。稲作への影響は、収量ではまずないです。コウノトリのイメージも変わり始めました。

 その時は、1羽で大騒ぎしましたが、今は巣が25あります。でも、誰も害鳥とはいわないですね。それは、いい面と悪い面がありますが。やはり徹底的に調査すること。しかも、みんなでやることですね。科学的に評価してもらうことが必要だと思います。

 もう一つの課題は、農薬で滅ぼしたのだから、それを使わない農業へとどのように変えていくか。役所も誰も先生がいないし、分かりませんでした。栃木から、民間稲作研究所の稲葉光國さんにきていただきました。すごい人でした。稲葉さんがいっていたのは、無農薬農業といえば、すごい汗かかんなんでしょ、雑草駆除にも。でも省力化ができる。収量も1反8俵いける。高付加価値が付く、と。

 私は、この話にすぐ乗ったんです。何を省力するかといえば、結局、益虫に害虫を食べてもらうことです。例えばカエルにカメムシ食べてもらう。何かにウンカ食べてもらう。そういう食物連鎖の世界を田んぼの中につくるということでした。あとは技術です。この高付加価値はコウノトリが持ってくる。できたのが、コウノトリ育む農法です。

 これは、JAS有機とは少し違います。安全なお米と生きものを一緒に育むというものです。高付加価値は、コウノトリの絶滅から復活の歴史、ストーリーを米に付けることで生まれました。ただ役所がいくら頑張っても、役所だけでは無理だと思います。県と県の農業改良普及員と農協です。大体、役所と農協って仲悪いんですよ。特に環境型の農業しようとしたら、農薬を売ってもうけている農協は、何で農薬を使えへんような農業を支援せんなんのやっていって、よくもめるんです。しかし、最初にコウノトリを野生に戻す返すことを挙げたら、市長もJAも、みんながわーっとその気になって一緒にできています。

 先ほど、クモだのカマキリなどがたくさんいれば、害虫をどんどん食べてくれる。そういう世界をつくっていこうという時のスーパーマンがイトミミズでした。冬に水を張るのは、イトミミズとかユスリカとか、そういう微生物が生息できるためなんです。冬でも微生物動いていますから、それで土の中が、うごめかさせて、糞をたくさんしてもらって、とろとろ層を作ると。とろーっとなって、それを乾かすと硬くなって、下から種子が上がってこない。生きもの共生型の典型の一つです。

代かきして田んぼに水を入れると、カエルがそこに入ってきて産卵します。オタマジャクシになる。田植えから大体1か月後ぐらいに、一度中干しをしますよね。エラ呼吸しているオタマジャクシは干からびて死んじまうんです。「カエルになるまでちょっと待っとっちゃろうや」と。足が生えてから中抜きしよう、中干ししよう、と。これで大体10日から2週間です。うちの田んぼのオタマジャクシのほぼ9割がカエルになったぞと思ったら中干ししましょうねというのをやっています。中干し延期農法といい、補助金も出ています。

 豊岡市は「コウノトリの舞」っていうのを商標登録したんですよ。これが貼ってあったら、経過がたくさん書かれていて、安全を行政が保証しています。だいぶ広くやっています。

 コウノトリを2005年に放鳥しました。私の予想の何倍もたくさん人が来られたので、環境問題にたくさんの人の関心があったのかと思いました。最初、コウノトリ育む農法を始めた時は0.7ヘクタールでした。放鳥をきっかけにして、現在では512ヘクタールまで広がっています。豊岡市の水稲面積の約20%ぐらいです。これ以外に単純な減農薬だとか無農薬も取り組んでいますので、半分近くぐらいは環境配慮型になっていると思っています。無農薬栽培が増えてきていることはうれしいですよね。だけど、みんな高齢化しているから、先行きが怪しい。では、どうやって安定収入にするか。学校給食です。米、地元は食べないとね。豊岡はかなり前から米飯給食でしたが、無農薬米は高いので、減農薬米でした。熱心な農家の人が怒って、「うちらの子孫に、そんな米、食べさせられる」かと。試験的に無農薬米にしています。無農薬米はやはり高いんですよね。コウノトリ米の無農薬は慣行栽培米の2倍近くするんですよ。今、米代がすごい高いのに、さらに倍払うのかってなってしまいます。ふるさと納税だとか寄付だとかを導入して、また農家も手取りが少なくてもいいと。その代わり、コシヒカリじゃなくて、つきあかりっていう品種で作ることにしたんです。農家の手取りもちょっと減少してもいいとなり、全量、無農薬米になっています。これはぜひ能登でやってほしいですね、コウノトリがいる能登で。米飯100%から始めてもいいと思います。

 田んぼは基本ですが、餌場として湿地も作らないといけません。やり方は4つです。1つは、田んぼを行政が買って、新しい湿地に造成する。2つ目は、休耕田や耕作放棄田を、補助金出したりして湿地化する。3つ目は、田んぼの中の一角、さっきのエゴですね。京都府の綾部市でもエゴで助かっています。意図的にもう一度どこかで掘り下げていく。4つ目は、河川敷を広く浅く掘り下げて湿地化にする。1番目の買収例が、私がいる「ハチゴロウの戸島湿地」です。18年連続で繁殖しています。ここのペアの子どもが、珠洲で今、繁殖しています。

 豊岡市はどこまでが海で、どこまでが川か分かんないようなところです。この湿地を造ったことを契機にして、円山川と周辺湿地をラムサール国際条約に登録しました。淡水と汽水のせめぎ合い、エコトーンで一番多様性が多いところです。

 問題は、すぐに草ぼうぼうとなり、自然にはいいのですが、コウノトリの環境ではないので、やはり田んぼ風にする必要があります。田んぼ風にするには草刈らないといけません。草刈るのは、私たちだけではとても無理なので、外からの人に手伝ってもらっています。これは土建会社が作業してくれたものです。人から人につながるようで、未来につながる写真だなと思って好きなんです。

 小学生3年生の体験学習の中で自然体験をしますが、あんまり好きではありません。ここはコウノトリの環境のために働きに来さす、労力です、コウノトリに貢献しろってって。すると、やっぱり真剣になって稲刈り鎌やっているでしょ。刃物で怖いですけど、仲間同士が優しくなったり、根気強うやってくれるんです。

 神戸のほうからわざわざお金を払って草刈りに来てくれる先生もいます。コウノトリのために働いてかいた汗は、隣の城崎温泉に入って、コウノトリ米のおいしいものを食べて、魚食べて帰る。こういうコースがあります。

 やはり巣立ちするひなの様子を見ていたら、一生懸命立ち上がって生きようとしていますので、自然と手を合わすんですよね。私は、生きものを使う教育の一番いいとこなんかなと思います。

 放棄田の湿地化です。全体がゆるやかな傾斜な棚田です。ここに勝手にくい打って、柵をしてやる。もう農業しないから、個人所有なんて言っとられへんと。ここの湿地全体がコウノトリの餌場やないかって、勝手にやっちゃう。でも誰も怒らない。外からウェルカムでいろんな人に入ってもらってやりましょう。能登はすごい災害があったとこですが、山裾からそのまま水を流さずに、山裾で一度水を受ける池を造る。少しずつ下流に流す。そういうことも、ちょっと実験的にやっています。この池は、すごいですよ。最初はアカガエルの卵でしょ、ヒキガエルでしょ、6月からはモリアオガエル。それを狙ってヘビやらいろんなものが来る。

 休耕田のビオトープがあり、大規模な湿地を配置しています。これは補助金出しています、26カ所。問題は、生産性がある田んぼでも維持が難しいのに、こんな経済を生まない湿地を誰が管理していくのかということです。

 川のほうは、浅く広く湿地にして、コウノトリが下りてくるようにする。9キロにわたって大々的にやっています。日本で絶滅したコウノトリをもう一度野に返す、野生復帰するんだ、それを通じて環境問題に取り組むんだっていうことを最初に大きな声出しておく。そうすると国交省も動き出す。一度予算が付いたら、毎年できます。今の復興の時に絶対やるべきですね。県の河川なんですが、井堰(いせき)があって魚が遡上(そじょう)できないでしょ。それを遡上できるようにする。円山川ですごい井堰を造りました。土地改良事務所が造ったのですが、いろいろな魚種に分けて、上る角度とか合わせていく。今の能登であれば、思い切って呼びかけたらできるのではないでしょうか。

 それなのに、豊岡の円山川でもラムサール条約に登録されてから、水害対策として東日本の防潮堤と同じような堤防ができました。近くの人にとっては死活問題ですが、生きものから見たら、どうなの?となります。ちょっと油断すると、こうなっちゃうんですよ。復興も、ちょっと物言うのを小さくすると、こうなっちゃうと思いますので注意しましょう。

 これは豊岡市内の今年の繁殖です。電柱のものもありますが、あとは人工巣塔なんです。今、人工巣塔を立てる活動しております。なぜ人工巣塔かいったら、まず、マツの大きい木がないからです。次に立てたら、事前にコウノトリの受け入れの準備ができるからです。いきなりコウノトリが飛来してきたら大変でしょ。事前に立てて準備する。コウノトリは、一度繁殖したら定着する習性がありますから、それを基にして落ち着いて地域づくりができる。だから、ぜひ人工巣塔、検討してほしいです。

 これが巣塔です。輪っかを電柱にかぶせるだけです。日本コウノトリの会が今まで立ててきた所です。これは、かほく潟辺り。2年前に対馬に立てて、今年はとうとう韓国にも立てに行きました。

 これが今年の繁殖です。珠洲も入っていますが、私たちの計算では68です。能登半島など石川県は、一気に4つなっちゃいました。ほんで、この利根川流域、ほんで、あとは佐賀、こんな感じになっています。兵庫県立コウノトリの郷公園発表で500羽を超えました。た。私は1,000羽が間もなく来ると思います。1,000羽が来ると、天然記念物だからと、近寄ったらいけないということではなくこと、もう違う世界になってくると思います。そこに向かって、いい議論ができればありがたいです。

 

 

 

 

 

対話

 

修田さん:2つあります。まずコウノトリをなぜ取り上げたのでしょうか。他にも取り上げるものがいろいろあるかと思います。それともう一つ、お米の値段1.9倍って言っていましたが、30キロ幾らで売れているんでしょうか。

 

佐竹さん:コウノトリの野生復帰を提唱した頃、コウノトリよりもトキのほうが有名なので、トキをやったらどうかっていう人もいました。私は「トキは絶対失敗する、豊岡には歴史がないから」と話しました。豊岡では、明治の37年からずっとコウノトリをやっています。地域とかを考えることは、嫌いも好きも、酸いも酸っぱいも、みんなでやってきたのです。豊岡の欠点でもあるし長所でもあると思います。これを他の鳥に変えたら、もうほとんど失敗だと思う。農家のおばちゃんが、農薬使っちまって、謝らんな、なんていうせりふは絶対出てこないしね。コウノトリと豊岡だけはぶれないようにやっていこうと。

 お米の値段ですね。5キロで6,700っていったかな。2倍ほどになりますか。

 

修田さん:それを給食用で買い上げをしているんですか、それとも一般の小売店での値段ですか。

 

佐竹さん:末端の販売価格です。JAの買い取りは、もう少し安く設定されていますよ。

 

修田さん:佐渡のトキの話を聞いたら、JAの買い取りがあんまり高くなかったんですよ。

 

佐竹さん:生きもの共生型は、初期はどんどん補助出したり、中干し延期はこれで出したりっていうのはやっていますが、販売価格には全く。JAはJAでやっています。ただ、JAのいろいろな支援は、豊岡市の農林水産課が一緒にやっていますよ。生産者技術部会という生産者が研究会つくって、その事務局を農協が担っていて、いろいろな人に来てもらったり、現場で技術を磨くことは、行政と事務局ワンセットでやっています。農薬を使ったらあかんと言い出した最初は合鴨農法でした。合鴨農法の最初の時、JAの職員が事務局やっていましたから、あんまりけんかがなくて、持ちつ持たれつできています。

 

修田さん:買い取り価格は見てないですか?

 

佐竹さん:私は買い取りはあんまりみていません。だけど、2倍は、やっぱり高過ぎます。一般庶民はなかなか買えない。だから、買い手は富裕層になっちゃうんです。もともと稲作の文化がない沖縄とか、大手が買ったり、そこの買い取り額、相当あります。あとはもう個人取引です。私が提唱したいのは、子どもの学校給食。これ、絶対すべきですよ。パンなんか食べさしとったらあかん。

 

Aさん:私の妻情報だと、珠洲市の中学校だと月1パンで、能登町柳田の7年前のお話ですけど、1週間に1回パン食だと。

 

佐竹さん:1週間に一回をパンにしないといけない理由があるのでしょうか?

 

Aさん:子どもの希望とかもあるかもしれません。小学生が今いるので、聞いてみたいなと思いながら。

 

菊地:給食は、ご飯、パン?

 

Bさん:ご飯。

 

菊地:毎日ご飯?

 

Bさん:たまにパンが出る。

 

菊地:Bさんは白山市からですが、ご飯が多くて、たまにパンが給食に出てくるということです。どっちが好きですか、パンとご飯。

 

Bさん:ご飯。

 

菊地:ご飯、分かりました。

 なぜコウノトリかといえば、共に暮らしてきた歴史があるということでした。

 買い取り価格は、私の調べではJA買い取り価格は大体減農薬1.3倍とか、無農薬だと1.5から1.8倍ぐらいだったと思います。もちろん収量は減っていますが、農薬を買う出費がなくなります。減農薬だと、それほど収量変わりませんが、無農薬だと1割、2割ほど減るということはあります。

 

Cさん:歴史が大きいことは、なるほどなと思ったのですが、逆に、歴史がないとなかなか難しいなとも思いました。やりようとして、どんなことがあるのかなということがまず質問しようと思ったことです。もう一つはもっとシンプルな質問です。コウノトリという鳥自体で、踏み付ける以外に困ったことは、あんまりなかったんですか。例えば私は海の近くに住んでいるので、車の屋根にどんどん糞が落とされるんです。特に魚の時期によっては、いろんな種類の糞が付きます。他に何か困ったことがあったら教えてください。

 

佐竹さん:嫌なほうから先に言うと、やっぱ糞です、それと臭い。人工巣塔を立てる場合、そこも加減して計算します。しかし、電柱は民家のそばなので、そこに巣をかけると、そこで糞をします。糞と臭いとか。それと、鳥ファンの人がカメラ持ってきて、大型の車で農道を踏み付ける。農道が壊れたり、夜見られると気になって仕方がない。執拗に近くに来て見に来られるマニアの人が問題です。

 歴史の話です。私がある地域でトキの委員で呼ばれた時、中国からトキの飼育の指導に来ていた女性がいました。トキの放鳥を将来したいという話になり、彼女が真っ先に質問したのは「ここに住んでいた歴史や経過ありますか」でした。その事実がなかったら、それは駄目だという。だから、生息していた事実と人間が育んできた共生の文化があることが一番だと。先ほど話したように、明治時代に資本主義が導入された時、能登では巻き込まれずに、何かあったんじゃないか。だからトキは生息できたのではないか。そうでないと、あんなきれいな鳥は一発で商売になっちゃいますよ。それを防いだ文化があるんじゃないですかね。それを掘り出すのは、みなさんの仕事ですね。

 

菊地:「私の地域にはコウノトリのような存在はいませんが、どうしたらいいのですか」というお話ですよね。なかなか難しい問題ですが、滋賀県のある地域では、農家の人たちと研究者が一緒になって、何が自分たちにとって大事な生き物かを考えたんですね。その結果、アカガエルの卵塊という物凄く地味なものになったんです。自分たちにとって、それがいることが大事だ、誇りだ、みたいな感じだと思います。

 自分たちで地域を見直して、自分たちの地域にとって大事なものは何か、考える。それはコウノトリかもしれませんし、トキかもしれない。おそらく、アカガエルだと求心力、外からいろんな人が注目してくれることは、なかなか起こりにくいのかなとは思います。地域差があるので一般化することは難しいと思いますが、自分たちの地域で何が大事かということを、いろんな人が一緒になって考えることが非常に重要だと思います。

 

Dさん:私の先祖は能登町の出身です。昔聞いた話では、トキは稲を踏み荒らすから、トキなんて言わずに「ドウ」と言っていたと。ドウが踏み荒らすから、ドウドウドウっていうわけです。なぜトキがここで絶滅したかっていうと、話を聞くと、トキの肉は臭くない。コウノトリとかは。

 

佐竹さん:臭いです。

 

Dさん:トキの肉は臭くない。だから、戦後の食糧難の時代に、人間の食料になったのかなと思っていたりします。一つ聞きたいのは、能登はトキとコウノトリという2つの生き物が生息することになります。共存は可能なんですか。

 

佐竹さん:絶対可能です。同じ仲間ですよ。

 

Dさん:私の先祖が生きていた時は、コウノトリは兄貴で、トキは弟分だというようは話をしていました。今コウノトリが繁殖している所にトキを放鳥するっていうのも、一つ手とすることはどうでしょうか。

 

佐竹さん:けんかするかもしれませんよね。種のけんか、テリトリーの争い。今、佐渡で繁殖が減っているのは、けんかですから。巣の奪い合いです。トキ同士は、広いとこだったら、間隔を自分らで決めますから。だけど、狭い所で、コウノトリのほうが大型だし、たくさん食べるし、乱暴もんですから。種のトラブルのほうが大きいかも分かんないですよね。両方が増えてきて、まあまあこの辺で一緒にやろうやっていって話し合いが済めばいいですけど、最初からはちょっと、どうなりますかね。羽咋ではコウノトリの人工巣塔の下が放鳥予定地ですが。

 

Dさん:眉丈山はもともとトキがよく通ってて、最高5羽いました。

 

佐竹さん:どうなるかは、ちょっと様子見てみないと分からないですよね。案外至近距離でも、テリトリーをつくって仲良く暮らすかもしれません。コウノトリ同士でも、ハチゴロウの戸島湿地でも、250メーター先に巣があるんです。250メーターでうまく両方が子育てしています。だけど、何かの加減でけんかする時はありますよ。

 

Dさん:コウノトリとカラスは、よくけんかするって聞いたことがあります。

 

佐竹さん:カラスが怖いのは小さいヒナや卵を襲うことです。

 

Dさん:トキとコウノトリの関連性、悪くはないんだろうけれども、安心という。

 

佐竹さん:生息環境的には全く同じ田んぼ。トキのほうが小型の生きものを食べますが。動物同士の関係が、どこまで接点をうまくやるかっていうのは、彼らに聞いてみないと、それはちょっと分かんないかも分かんないですね。

 先ほどの、トキは肉がおいしかったっていうのは、本当でしょうか。私は、肉食の鳥はみんな生臭くて、臭くておいしくないと思っています。カモがガンやら植物食べている鳥はおいしい、ニワトリも。コウノトリも、殿さんとか上級官僚が来た時の歓迎式とか、珍味で出した。おいしくはないけど、これ、地元の珍味だという使い方したのかもしれません。大衆の人がおいしいって食べたのかについてはちょっと疑問があります。

 

Eさん:稲を踏むことが嫌われていた原因でしたが、実際に調査をしたら、稲は復活して収量は守られたとおっしゃられました。石川県も、これから稲を踏むのではないかと懸念されます。これから研究機関とか行政も含めて調べる際、何かアドバイスがあればお願いします。

 

佐竹さん:役所が主導して、住民の人にも手伝ってもらって、早朝から日没まで追いかけていくしかないと思います。それをさぼったらデータにならないですから。先ほど話したように、車で追いかけて、田んぼに降りたらカウンター持っていって、何歩踏んだなっていうのはやらないといけないです。

 

Eさん:踏むという文句を言う人と一緒に調査をすればいいんですね。

 

佐竹さん:それが一番いいですよね。ここ何年も、私のところにコウノトリが踏むんだと苦情を言いに来た人はいないんですよ。よく考えてみたら、本当に被害は少ないことは分かったんですよ。大したことないと。でも、それだけでしょうか。みなさんも田んぼ作っていたら、例えば手植えする時に補植するじゃないですか。そこにコウノトリが降りてきて、トキが降りてきて稲を踏んだら、腹が立つと思います。何で腹が立つのかといえば、自分が植えた稲に愛着があるからですね。田植えの後も、1日に何度も水を見に行ったりしますよね。田んぼとか、稲への愛着は、愛情と憎しみと。ところが今は圃場整備で、鳥がここの田んぼに入っている、これはうちの田んぼじゃなかったしな、あいつの田んぼだしなって言っとるうちに、もう逃げちゃいますから。だから、田んぼへの愛着が今の営農組合、株式会社になってきていて、田んぼとか稲への愛着はどうなんだろうということはあります。むしろ憎たらしいと思うほうが、生きものへの関わり深かったのかなとも思います。これは逆説です。

 

Eさん:以前、のと里山里海カフェにトキの先生が来られたことがありました。その時に、杉の林で営巣している話がありました。もともとはアカマツとかに巣をかけていたと思います。

 あともう一つ、14~15年前ですが、当目の近くにモミの木の林があって、そこにサギ類がコロニー作って大騒ぎになったことがあります。ただ、捕れないっていう話もあり、巣を下ろすわけにもいかないし、林を切っちゃったって話もあるんです。コロニーができた時、騒音とか糞の問題とか発生する可能性が無きにしもあらずだなと思っています。コウノトリは巣塔を立てるから、そこで制限はかけれますが、トキの場合は、どこに巣をかけるか分からないので、アイデアがあればお願いします。

 

佐竹さん:私たちが作る人工巣塔の巣台の直径は1.6メートルです。1.6メートルの台座ができる杉なんてないじゃないですか。2メーターの羽ばたきで帰ってくるためには、そして、1.6メーターの巣が載りやすいところは、マツになるんですよね。トキは小さいから、いろんな木の間にありますよね。しかも、コロニー作るでしょ。だから、そういう問題が起きるのかもしれませんね。コウノトリのように散らばってくれたらええんですね。

 

Eさん:けんかの話ですが、カラスの例です。通勤経路が宝達志水から七尾なのですが、途中で田んぼを見ると、田植えの時期で、代かきしますよね。それで、当然カラスとサギが仲良く餌ついばんでましたんで、餌が豊富にあれば、けんかはなくなるんではないかなと。

 

Fさん:羽咋でコウノトリが繁殖しているという話。

 

佐竹さん:繁殖はしてないです。集団でいます。

 

Gさん:集まっているだけなんですよ。今日現在、15羽います。

 

Fさん:気になるのは、羽咋でトキを放すことは決まっていますよね。それから、コウノトリが集まってきたら巣塔を立てたいとか。

 

佐竹さん:羽咋はもう二つ立っています。

 

Fさん:そこの所にもコウノトリが来ているのなら、トキを放すとバッティングしませんか。

 

Gさん:懸念もありますが、何もトラブってないんです。日本コウノトリの会が立てたわけでもないんですよ。羽咋の地域の方が、ここに立てますよと立てられた巣塔です。

 

Fさん:トキを放そうとしているコアのエリアがありますよね。そこの近くなんですか。

 

佐竹さん:近くでしたね。

 

修田さん:米穀店を経営されている社長がいらっしゃっています。販売をされている立場から見て、こういうような環境で取れたお米に対して、どのような付加価値があるのかお聞かせいただきたいです。

 また、地域の希少種については、石川県の委員をされているIさんてが定期的に当目で調査をされていて、ご一緒させてもらっています。どういう生きものが生息しているのか、それがさらに今後、どういう環境をつくっていけば、さらに生息が維持されて、まだ繁殖できるのか。いろいろと希少な生きものが発見されていて、コウノトリと一緒になって、地域として今後、どういうふうに付き合っていけばいいのか。ただ付き合うだけでは、地域としては続かないと思うので、地域づくりにつなげていくために、どういうようなこと考えていけばいいのでしょうか。

 

Hさん:金沢で米穀店をしています。10年以上前になりますが、福井県越前市の武生のコウノトリ米を扱っていました。ある理由で、もう扱えなくはなったのですが、それなりに需要はありました。そういうものが地元にもあれば一番われわれも販売もしやすいです。

 

菊地:どのようなお客さんが買うのでしょうか。

 

Hさん:電話での問い合わせだったり、インターネットだったりしますので、富裕層なのか、農薬とかを気にされる方か、ちょっと不明なとこはあります。需要としては十分あったかなと。絶対数も少ないので、そんなに量は入ってこなかったのですが、そういうものが地元にあればなとは探してはいました。

 

菊地:生き物米は、ちゃんと需要があるんですね。

 

Hさん:あります。

 

菊地:越前のお米を取り扱った理由はなんでしょうか。

 

Hさん:最初は問い合わせがきっかけでした。それから少しずつ扱ってくうちに、少しずつ量が増えてったと。

 

菊地:当目のお米を食べました。とてもおいしかったのでブランド化できると思います。

 

修田さん:慣行米でしたが、さらにまた上位米もあります。

 

菊地:今、米の値段上がっています。その状況からすると当目のお米は安いです。もう少し値段を上げてもいいのではないかと思うのですが。

 

修田さん:こういう時にこそ頑張って値段を上げないで、お客さんの助けになる。将来につながるかなと思いますので、今年も上げる予定はないです。

 

菊地:お米については、ブランド化うまくできれば需要があるということですね。米不足となり、お米の大事さが改めて認識されていますので、どのようにストーリーをつくりブランドにできるか。

 

佐竹さん:豊岡でコウノトリ米を最初に始めた中心人物が言っていたことは、「わしら農家はすごい楽や」と。「役所のおかげで先生が来てくれて、JAが事務局やってくれて、価格も、こういう米作ってますよいって農家がいわんとあかんのやけど、そんなことをいわなくても、行政がみんなコウノトリのストーリーをやってくれる」。「農家はこう頑張ってて、こんなんしてるん」だと。こういう社会を今築いてるということを、役所がコウノトリ、コウノトリといってくれるから、それが価格に反映されて、どんどん高なっていく。能登でも役所が頑張って、いろいろPRしてもらったらいいと思いますけどね。

 

菊地:今日は残念ながら役所の人は、来てないでしょうかね。

 豊岡の場合は、行政主導型でストーリーを作って、もちろんいろいろな人がストーリーを一緒に作ってきたのですが。こうしたことどこの地域でもできるかということは課題としてあると思います。

 

Iさん:ホクリクサンショウウオが当目にいるのですが、そういった水の生きものに興味があって、2年ぐらい前から当目でお世話になっております。当目では、希少なものから比較的普通に見られるもの、いろんな水の生きものがいます。ビオトープは、トキとかコウノトリの餌場になるかもしれません。そういった場所を作ることによって、希少な生きものも増えていく予感がしております。

 その一方、作ったら、どうやって維持をしていくのか。地元の方と考えていかないといけないと思っています。よそから人を呼んで維持管理をしていくやり方があるというお話がありましたが、そういったやり方も一つと思っております。

 コウノトリとかトキも希少な生きものですが、それ以外に水の中で小さな希少な生きものがいっぱいいます。トキとかコウノトリがやって来ることによって、そういった生きものに与えるダメージはどうなのでしょうか。豊岡では、そういった議論は出なかったのでしょうか。

 

佐竹さん:今、出ています。広島県の中国山脈の中にコウノトリが繁殖しています。今日のような集まりに呼ばれて行ったんですよ。ナゴヤダルマガエルを一生懸命保護している人が「とんでもねえ」「来たらカエルを真っ先に食べちゃうじゃねえか」と怒っている。

 僕は、そういう議論が一番好きです。カエルの保護の人は、絶対そうだと思うし。コウノトリなんか来んように、いろいろしたれと。いろいろな生きもののファンの人がいますが、最後は接点ありますから、まあまあこの辺で妥協しようかというか、コウノトリがそこに行かんように、こういう保護しようとなってくると思います。その場で話し合うことをする必要があると思います。そうしないと、どっちの不満も解消しないですから。

 

Iさん:私はトキの放鳥に反対ではありません。今までなかったことなので、少し気になっています。

 

菊地:トキの放鳥やコウノトリの飛来によって生態系が変わる可能性があるというお話ですね。

 

佐竹さん:研究者の方が、どんどん生きもの食べるから多様性が損なわれるという話をしています。私はそんなわけはないだろうと。コウノトリが食べる量はどれぐらいでしょうか。減らないと考えています。

 

修田さん:昆虫標本にすると売れるという話もあります。外からたくさん人が来て、環境いいと来て、そういう人たちが紛れ込んだ場合、どういうふうにしていけばいいのかな。黙ってそっと隠していくのがいいのか、オープンにするがもいいのか、他に方法があるのか。

 

Jさん:石川県立大に所属しています。佐渡でトキの研究にも関わっております。今のお話、すごく重要です。希少種を守る時に、外から人を入れると密漁されることがあります。かといって、秘密にして守ろうとすると、人手も足りないし、そもそも注意も払ってもらえなくなってしまいます。水辺の昆虫だと思うんですけど、守るために、売買しても価値がないようにするんですよ。田んぼで捕まえたよって時に、みんなでペイントして、継続観察しようと。情報を開示しながら守る。

 

菊地:狩猟価値をなくすということですね。ずいぶん手間かかるのではないですか。

 

Jさん:だけど、自分たちだけで守れない時にはそういう必要もあると思います。あと、環境教育として考えてもいい。もっとオープンにしないと駄目なんですよね。自分たちだけで守るということは、ちょっと難しくなっていると思います。

 

菊地:担い手がいない中、同じような悩みを持っている人、地域も多いと思います。オープンにして、いろんな人を巻き込みながら、教育に活用するとか、あるいは狩猟価値をなくす方法ですね。

 

佐竹さん:でも、われわれがやったら、法律とか条例に引っかかるとかないのですか。

 

Jさん:そこも含めて専門家に相談して、申請すれば通りますので。

 

菊地:地元の人からしたら、希少な生き物と共存していくことも負担になるところもあるということですね。オープンにしながら、外の力も借りていく。

 少し話を戻しますが、魚の研究者だったら、魚をコウノトリの餌というなと思っていたり、カエルを好きな人は、餌としてカエルを見られることに違和感を持っていたりします。それぞれの人たちが愛着やプライドを持っています。

 コウノトリだけとかトキだけがという話ではなく、それぞれの生きものが大事だし、それぞれの生きものに思いがある人たちがうまく付き合っていける形になったほうがいいと思います。いろいろな人が来て、地域が元気になるようなアイデアがあればぜひ。

 

Eさん:当目に興味湧きましたとなれば、田んぼの管理とか、イノシシ用の柵も張らないといけないとか、農業的にも守っていかないといけないことがたくさんあります。石川県では農村ボランティアを募集しています。トキが来たので、トキの田んぼを守るためにみんな来てくれというように、正式に募集をかけて、県庁からバスで人を乗せてくることもできます。トキが来たことをきっかけにして、県に相談するなり、集落として気持ちがあれば、そういう時は顔を出します。ぜひとも手を挙げていただければと思います。

 ボランティアも高齢化が進んでいるので、高校生から参加できるシステムができればいいと思っています。

 

菊地:豊岡では企業の社会貢献活動をうまく利用していました。大学でもボランティア募集できます。

 広島県の北広島というところで聞いた話です。子どもに色々な活動をしてもらうのですが、お金を稼ぐ活動をさせるんですね。社会の中で、人が動けばお金も動く。だから単に無償労働で何かやるのではなく、何か活動をしたら地域通貨をもらえて、それを子どもたちが何を使うか考える。お金教育も兼ねて、里山活動をする。子どもの頃から、お金を稼ぐことはどういうことか、それを使うことはどういうことかを考える。農村の生物多様性を守るための小さな経済といっていいのかもしれません。

 

Jさん:地元のみなさんにお伺いします。この地域の魅力、守りたい自然って何でしょうか。それがゴールだと思うんですよね。希少種、珍しいものいます、その価値を見出すか見出さないか。希少種ではなくて、この美しい風景残したいとか、当目の川を、このままの姿でまた孫に伝えたいとかですね。何か大事にしている、思い出になることとか。そういうのをお手伝いするのは私たちの仕事かなと思っています。

 

菊地:私たちよその人が押し付けるのではなくて、地元の人が大事なところ考えていく。

 

Kさん:当目は、あの有名な猿鬼伝説の発祥の地です。

 

修田さん:一人一人違うと思いますよ。

 

菊地:多分違いますよね。話し合いの場をつくってもいいですよね。

 

Jさん:それをみんなでまとめていくと、すごくいい。

 

修田さん:身内だけで集まると、飲んで終わっちゃいます。みなさんのお力を借りて、引っ張り出してもらえれば。

 

菊地:これは次の課題としたいと思います。地域の人たちで大事だと思うもの、みんなで残していきたいものは何か。それをどうようにしたら、外の人が関わりを持ちながらできるかを考えていく場を次につくってみましょうか。

 

修田さん:今日は初めてのことで、私自身も正直、内容がよく理解できていませんでした。今日でイメージが分かりましたので、なるべく地域の人たちが多く関わっていけるように、促していきたいなと思いますので、ぜひまたよろしくお願いします。

 

菊地:よろしくお願いします。それではどうも皆さん、どうもありがとうございました(拍手)。

第12回 いしかわ生物多様性カフェ(8/6)アンケート結果

データを示すだけで特に分析はしていません。

一般参加者数:32名

回答者数:26名

回答率:81.3%

 

今回は初めて参加した人が多い回でした。

 

①年齢(回答数26)

 

10代:7.7%(2名)、20代:7.7%(2名)、30代:7.7%(2名)、40代:19.2%(5名)、50代:30.8%(8名)、60代:19.2%(5名)、70代以上:3.8%(1名)

40代以上人の参加が多い回でした。

 

 

 

 

 

 

②性別(回答数25)

 

 

男性:48.0%(12名)、女性:52.0%(13名)

 

 

 

 

③職業(回答数25)

 

 

会社員:12.0%(3名)、公務員:16.0%(4名)、教員:8.0%(2名)、自営業:8.0%(2名)、主婦/主夫:12.0%(3名)、パート/アルバイト:8.0%(2名)、学生:16.0%(4名)、無職:16.0%(4名)、その他:4.0%(1名)

 

 

 

 

 

 

④カフェのことを知った情報源(複数回答)

 

チラシが7.7%(2名)、菊地直樹のサイト/フェイスブックが15.4%(4名)、県立図書館が7.7%(2名)、いしかわ自然学校が15.4%(4名)、クチコミ7.7%(2名)、金沢大学のアカンサスポータルが15.4%(4名)、ダイレクトメールが23.1%(6名)、その他が0.0%(0名)でした。

 

 

 

 

 

⑤参加回数(回答数26)

 

 

初めてが46.2%(12名)、2〜5回目が15.4%(4名)、6〜10回目が23.1%(6名)、11回以上が15.4%(4名)でした。

 

 

 

 

 

 

⑥満足度(回答数26

 

大変満足:61.5%(16名)、満足:34.6%(9名)、どちらともいえない3.8%(1名)、あまり満足ではない:0.0%(0名)、満足ではない:0.0%(0人)

 

 

 

 

 

 

由回答には以下のような言葉が寄せられました。

 

 

・身近な野生動物の問題について要点が詳しくまとめられており、講義と同じぐらいに学びを得られるような時間だった。

・身近な問題(クマ)なので、話を聞いてみたいと思っていました。

・美しい森林は人が管理している面が多いことに気がつきました。人口減少が一番獣害増につながっている気もします。

・大型動物の個体数の100年の推移の全体像が納得できた。

・野生動物が人里に現れることについて、話されていた色々な原因頭について、色々なデータを基に再整理されて、現状についてとても理解が進んだ。

・大変興味深いテーマだと思います。

 

 

⑦参加して生物多様性と人の暮らしについて、考え方は変わりましたか(回答数26)

 

 

大きく変わった:11.5%(3名)、変わった:57.7%(15名)、どちらともいえない:11.5%(3名)、あまり変わらない:19.2%(5名)、変わらない:0.0%(0名)

 

 

 

 

 

由回答には以下のような言葉が寄せられました。

 

 

・生物主体のお話が多く、人間生活に関わる内容は既知のものが多かったため。

・クマの性格的な個性。人を恐れるクマと恐れないクマ。そして学習能力の高さ(クマハギの血縁伝承とか)。

・深くなった。

・基本的に元々考えていることとそれほど変わらないと感じています。ただ毎回とても勉強になっています。

・元々、里山地区で田んぼをしており、意識しているが、より深まった。

・問題意識の範囲は広がった気がします。

・ニュースや本、人と生きものの生活環境について目を向けるようになり、より考えるようになりました。もっと多くの人にニュースの過剰な報道に左右されない正しい知識を知らしめたいですね。

・今、自分の生活に直接関係はないが、これから考えていく必要があると感じた。直接関わっている方達の大変さを知りました。

・金沢南部四十万地区で竹林整備をしているNPO法人みんなの畑の会に属しています。竹の伐採、竹の資源活用に取り組んでいますが、”緩衝帯づくり””地域の活性化”に大いに役立つ意義があることを、お話を聞いて改めて継続していこうと思いました。結局は、「誰がやる!」という点が重要で、地域でみんなでやれるシステム作りも重要なのだと思う。

・特に人の暮らしの影響について視野が広がった。

・人里に出てくる野生動物が増えたのは「森林破壊」ではなく、放棄地の増加、捕獲減少など都市部への人口集中が主な原因の一つとしてあげられることを学びました。

 

 

 

⑧今後も参加したいと思いますか(回答数26)

 

参加したいと思う88.5%(23名)、思わない:0.0%(0名)、わからない:11.5%(3名)

 

 

 

 

 

 

⑨興味があるテーマ

 

 

・チェルノブイリ原発など海外での生物・環境に関する話題

・気候などの話題

・鳥獣対策についてもう少し学びたいです。あと引き続き国内外来種問題です。

・海洋生物と海洋問題

・妖怪から生物多様性を守る

・様々な分類群の生き物から見た生物多様性

・生物多様性の維持に向けて大学生(若者)ができること/金沢の用水/(地方)の動物園

・里山ビジネス

・ジビエとそのファンクラブみたいな活動があれば紹介してほしいです。供給サイドはご紹介があったが。

・ガバメントハンター。世界各地の獣害対策(クマ、イノシシ、サル、シカ)

・ジビエと環境保全

 

 

⑩全体としての感想として、以下の声が寄せられました。

 

 

・ナラ枯れの原因やクマに対する影響については興味深く学びになった。役所の仕事と猟友会についてガバメントハンターの話題は面白かった。

・獣害対策の難しさ・・・。痛感しました。方法を思いつきません・・・。

・今回もとても学びの多い時間でした。知らないことも多く、とても参考になりました。五箇山での自然調査地によくクマが出没するので、この内容を仲間にも伝えたいと思います。

・様々なデータや他の方のお話をもとに、人間と野生動物の共生について深く知ることができてよかった。

・色々な方のお話がとても勉強になりました。

・とても勉強になりました。

・詳細なデータで裏付けされていて、説得力のある話でした。

・普段はなかなか意見交換できない方々と直接お話ができて、大変有意義な時間を過ごすことができました。ありがとうございました。

・知らなかったことをたくさん知ることができました。

・クマ=駆除だけでなく、種子散布、森をつくるのに必要数いてもらわないととも思います。頭数はどのように決めているのでしょうか?クマが人を恐れなくなったのを、クマの個体数管理だけでなく、人里が危ない所だけ学ばせる教育する(母グマが子グマに学ばせる)方法をみんなで教えられないか?年間400頭捨てられる ジビエ食べる広報や販売店増も考えられないか?

・クマや野生動物が町に進出する原因のニュースと今回、森林面積がほとんど変わらないなど、知らなかった事実。単なるブナの競作のみだけでなく、薪炭林蜂起のナラ枯れやシカの食害でカモシカが減少。人が食べるために捕獲しなかった原因など、興味あるお話がたくさんありました。明治の輸出と大乱獲も知りませんでした。

・実感を伴うことの大切さ。様々な経験・立場の考え、思いを聞かせていただけたことなど、学ばせていただきました。ありがとうございました。

・体系的に説明していただき納得

・大変有意義な時間をありがとうございました。

・白山に行ったときにイノシシ肉を食べたことがあり、最初は野生動物を食べることに少し罪悪感がありましたが、生態系に良いと知って楽になり、良い体験だったと感じました。

 

第11回 いしかわ生物多様性カフェ(5/16)開催報告

第11回 いしかわ生物多様性カフェ記録

 

開催日時:2025年5月16日(金)18:30〜20:30

 

開催場所:石川県立図書館研修室

 

テーマ:みんなで話そう!つくろう! いしかわの自然共生社会

 

参加者数:42名(一般参加者38名+スタッフ・関係者4名)

 

■第11回 いしかわ生物多様性カフェはフリートークの回。

19人の方が、ご自身の活動や考えなどについてお話しされました。

その記録です。

 

菊地:今回のテーマは「みんなで話そう!つくろう!いしかわの自然共生社会」です。特定の話題提供者はいません。一人一人が話題提供者です。もちろん、聞くだけでも結構です。ご自身の話を聞いてもらいたい人は、ぜひ積極的に発言してください。一人3分程度という時間のなかで、自分の考え方、活動をお話ししていただければと思います。

申し込みフォームに事前に話したい内容がある方には書いていただいています。18の内容が書かれています。

事前には書いていないけど、私こんなことやっていますよとか、こんなこと話したいですよとか、人の話を聞いて自分も話してみたいと思えば、遠慮をせずに手を挙げていただければと思います。今日はフリートークなので、よろしくお願いします。

 

 

 

Aさん:金沢市内に在住しております。1年ほど前に定年退職し林業の事業体にいて、時々、昔の仲間と林業の仕事を手伝っています。広葉樹の山を、大きい木は全部切って、人間社会の役に立つパルプ、あるいはバイオマス熱源として搬出し、また広葉樹を植えて、山を更新しよう、若返らせようということに取り組んでおります。民間主導でできるといいのですが難しい。100%公共事業なんです。お役所の方がいたら申し訳ないのですが、新たに植える苗が100%、ナラの木、どんぐりの木なんですね。ここ十何年、そういう状況が続いています。新たな観点で、新たな事業が起こり始めるといいかなと思いました。コナラを使うことによる林産計画とかも当然あるんでしょうけど、将来見越すのは大変難しいと思います。今こそアイデアの出しどころかなと思っています。言いたいことは10%もしゃべれませんが、以上です。ありがとうございます。

 

菊地:ありがとうございます。Aさんは、いつも最近参加されていて、いろんな発言していただいていますが、初めて林業しているとお聞きしました。

 

Bさん:趣味で移動動物園をやっています。標本と生体を含めて、大体30種類ぐらいの動物を車に積んで、展示することを、主に土日にやっています。イベントでやる時は展示型っていうふうに。依頼を頂いて講演会をすることもあります。

 今日は厳選した生き物を持ってきたのですが、レギュレーションオーバーということで車に戻すことになりました。特に今日お見せしたかったのは、今日、朝、タケノコを掘りながら見つけたババヤスデです。ブラックライトでとても光ります。それをほんとのムカデと比較するっていうのをワークショップでやりたかったです。ちょっと残念ですができませんでした。

 普段はクサガメの臭い臭いを嗅いでみようとか、ヘビの捕食シーン、どうやって食べるのかとかをクイズ形式なんかで親しみやすいようにやっています。生物多様性がテーマなので、富山の人間ですが、石川のイベントに参加させていただきました。

 

菊地:ありがとうございます。せっかく用意していただきましたが、ルールがありまして。

 

Bさん:標本ならOKです。次回、標本でお願いします。

 

Cさん:能登の世界農業遺産ですが、その意味をほんとに皆深く考えられているんだろうかと。私も含めて。普通だと思っていまして。一つは里山ですね。能登で生まれ育ちましたが、もう50年前に離れています。里山の更生って何だったのかという問題ですね。

 コナラの山を、継続林を破壊したものがあるんですね。それは何かというと、杉の植林ですよね。コナラとそれからパイロット事業という政策ですね。そのパイロット事業で奥能登の山の頂上付近をブルドーザーでガーッと削ったんですね。表土の流出が起こったんです。私が能登で育った頃に、はっきりと海に変化が表れていました。磯焼けです。大量に土砂が流れ込んだら、まず磯が荒れます。ちょっと潜るとすぐ分かるんですね。重要な連続性のある広葉樹の山が破壊されてしまった。

 このことのメカニズムを考えながら、なぜ農業遺産に指定されているかということを正確にみんなで理解していく。Aさんのお話のとおりなんですが、それをほんとに再現する。そういうモデルケースをやって、そのことをほんとに深く理解する機会を増やさないと。いしかわ生物多様性カフェに何回か出させていただいますが、理解している方、ほとんどいないと感じました。

 一つのモデルサンクチュアリ、一地域だけでもいいので、里山を復活させる。そういう議論できればと思っていますが、私には行動力も力もありませんので、勉強するのが精いっぱいです。ありがとうございます。

 

菊地:ありがとうございます。里山と世界農業遺産の話が出ましたが、みなさん、どうでしょうか。

 

Dさん:県庁の自然環境課のDです。石川県は里山がほんとに大きく広がっています。加賀から能登に、長い変化のある海岸線がある。海岸から白山のてっぺんまでいろんな生態圏があります。非常に生物多様性に富んだ地域だと思います。

 自然環境課はそういった自然を守ることをしています。国立公園とか国定公園といった自然公園の管理をやっています。優れた自然環境や自然景観を守るために、さまざまな行為を規制してもいます。

 生物多様性、生物を守ることもしています。石川県には大体1万5,000種類ぐらいの動植物いるといわれています。その中で絶滅の恐れのある生き物のリスト、「いしかわレッドデータブック」を3回作っております。ただ指定というだけで、何か規制されているわけではないんですね。さらに保護の必要性が高いものは、県の指定野生動植物として指定し、捕獲とか採集とかを禁止しております。

 来年度、トキが能登に帰ってきます。とても力を入れております。ただ、トキを放すことが目的ではなくて、トキをシンボルとして、里山を再生していくことです。トキが住める環境にしていければと考えております。

 貴重な種の保存としてはライチョウ、白山では絶滅してしまったライチョウですが、少し前に確認されたこともあります。また戻ってくる可能性もあるので、いしかわ動物園でライチョウの保護増殖事業をしております。

 最近問題になっているのが外来種です。アライグマ、ミシシッピアカミミ、ミドリガメ、ザリガニの対策も行っております。「外来種を入れない、捨てない、拡げない」というスローガンの元、対策を進めています。

 もう一つ大事なのは、県民に広く、石川県の自然を知ってもらうことが大事だと考えています。自然体験型の環境教育です。平成13年から日本では珍しいネットワーク型ということで、民間から行政がタッグを組みまして「いしかわ自然学校」を行っています。800以上のプログラム、年間3万人以上の方が参加しています。

 個人的にはずっと白山自然保護センターで、高山植物の研究をしていました。自然学校では、希少動物の展示会とかでガイダンス、ボランティアもやっています。

 

Eさん:合同会社山立会のEといいます。自然環境課のDさんには普段大変お世話になっています。みなさんにご紹介したいシンポジウムがあって、参加させていただきました。

 山立会は、白山麓で、菌床なめこ、木滑なめこの生産や野生動物の調査、耕作放棄地で羊を放牧したり、里山食堂、山立会食堂っていうのをさせていただいたりしていますが、今日はシカの話です。

 みなさん、石川県でシカが増えていることをご存じですか。シカが増えてくると農林業被害であるとか、自然環境の被害があるとか、土砂災害も起こりやすくなります。石川県ではシカは、ずっと低い密度だったのですが、最近急激に上がり始めています。もうシカが増えて、被害がこれから出てくるのを止められないなって諦めていました。

 東京農工大学の動物の研究室にいまして、そこの梶先生は日本のシカ研究の第一人者なんです。梶先生に「E君、何をやってるんだ。もっとシカ対策しっかりやりなさい」と言われました。石川県の生物多様性にとって一番大事な動物を一つ挙げるとしたら、シカだと思うんですよ。もちろんクマもやらないといけないし、イノシシもやらないといけない。サルもやらないといけない。それは分かるのですが、一番影響が大きいのはシカだと思います。春、山菜をいろいろ食べてらっしゃると思います。実家が京都なのですが、もうフキが取れないというんですね。それもシカの影響かなと思っていますが、諦めちゃいかんと。菊地先生は生物多様性のネットワークを作っていますが、私はこれからシカのネットワークを石川県につくりたいと思っています。今年の9月27日、石川県立大学で「どうする?どうなる?シカ時代 森と暮らしを守るために」というシンポジウムを開催させていただきます。私はジビエの話をさせていただきます。その後、シカ肉の試食コーナーを設けます。ぜひ諦めないって方に集まっていただきたいと思っています。みなさんお越しいただければと思います。よろしくお願いいたします。

 

菊地:Eさんには11月のカフェで里山での多角的経営というお話をしていただきました。元々はクマの研究者でしたが、石川県に来て会社を経営して、社長として悪戦苦闘しながら楽しくやっていくお話をしていただきました。みなさん、9月27日、行ければ行きましょう。

 

Fさん:初めまして。今回初めて参加です。専門は生物の中で、一番変な生物である人間を扱っている内科医です。みなさんのイメージでは、和食はおそらく健康的だと思っていると思います。ところがこれ、違うんです。最近、自分の血糖値がリアルタイムに分かります。私、先ほど普通の和食食べました。糖尿病ではありませんが、血糖値はいつの間にか206まで上がっています。つまり、皆さんが普通に食べることで206上がっているんです。ただ、すぐ下がりますね。

 昔は和食が良かったんです。なぜか。農耕民族だったので、朝から起きて働いている。でも現代の日本人は汗かいてないので、運動しない限り、和食の概念を変えなきゃいけない。昔の人は、ご飯はほんのちょっとだったんです。ご飯を一日3回食べると、糖尿病なんです。どうすればいいかといえば、一日1杯ご飯にする。一日3杯食べても大丈夫な人は、現代では農家の人とかスポーツジムなんか行っている人、若い人も大丈夫なんですよ。でも、働き始めると駄目。

 ちょっと和食の概念を変える。和食は農業とか関係します。それなら何をすればいいか。実はタンパク質の量を増やせばいいんですね。ただ牛とかを育てると、CO2やメタンガスが出るので環境破壊につながると一般的にいわれています、もしシカがわれわれの食べ物になれば、うまくいくんじゃないかなと思い、発言させていただきました。ありがとうございます。

 

菊地:ジビエはシカ対策でもありますが、健康という意味付けもあるというお話でした。なかなか今まであんまりないような切り口のお話だったと思います。

 

Gさん:石川県立大学の大学院生です。トキ放鳥の話が出ていましたが、田んぼの生き物がいないとトキが生息できないので、珠洲市で田んぼの生き物の調査を去年卒業研究で行いました。今年、修士に進学して、能登各地でしようと考えています。調査できる水田を探しています。知り合いの方がいる方いましたら、ぜひご協力のほう、よろしくお願いします。

 自分たち石川県立大学の緑地環境学研究室では「さとやま応援隊」という名前で活動しています。いろいろなイベントに今後参加していこうと思いますので、よろしくお願いします。ありがとうございます。

 

菊地:トキ放鳥は石川県の大きな政策の一つだと思います。大学院生が地道に調査しながら、能登でのトキの生息可能性を探っています。能登で人脈ある方、ぜひ協力していただければと思います。よろしくお願いします。さとやま応援隊は具体的にどんなことやっているんですか。

 

Gさん:さとやま応援隊では4月27日にCity Nature Challengeという環境教育のイベントを行いました。これは市民の方を対象に、スマホアプリで生きものの勉強をしようというものです。放置竹林の管理を兼ねてタケノコ掘りだったりとか、竹を切って工作して、それを使っていくこととか。石川環境フェアに出典して自分たちの活動を広げていったりしています。

 

菊地: City Nature Challengeとは、アメリカのロサンゼルス自然史博物館が事務局として、世界中で行っているイベントですね。専用のアプリで一斉に生きもの調査をします。スマホで撮影した写真をアップするとAIが判別して、データとして蓄積されていきます。金沢でも石川県立大学の上野さんを中心に4月の後半に行われました。

 

Hさん:金沢大地のHと申します。私たちは石川県内で有機農業、環境保全型農業をしています。農場は金沢郊外の河北潟干拓地と能登には輪島市門前町、能登町当目、穴水、珠洲市にもあります。先ほどのGさんと同じ机に席を置いたのは運命じゃないかなと思います。能登町当目は豪雨水害の影響が大きいところですが、何とか、今年は作付目処が立たないかなと思っていましたが、何とか半分弱ぐらいは作付けができるようになりました。

 去年9月に代表の井村がここで、生物多様性と農業のお話をさせていただきました。河北潟干拓地に人工巣塔を建てまして、国の特別天然記念物のコウノトリが、今年も3年連続でヒナを生みました。3年前は2羽、去年は4羽、今年も2羽、誕生しました。とてもうれしいニュースです。

 今日、2つ資料を用意してきました。一つが自然共生サイトについてです。環境省が進めている30by30という取り組みがあります。陸地と海の30%を健全な生態系として保全しようという目標です。先ほどのコウノトリの巣塔がある地区を中心に河北潟干拓地のほうで、自然共生サイトに申請していますが、おかげさまで今年の9月に認定される見通しが立ちましたので、そのお知らせを今日はみなさんにお伝えしたいなと思って来ました。

 認定されますと、10月に河北潟干拓地の田んぼで、いよいよ生き物モニタリングを始めたいと思います。いろんな方と一緒にやりたいと思っていますので、ぜひご参加いただけたらなと思います。

 ちなみに今日ここに来ている金沢大学名誉教授の中村先生、前回話題提供者でした野村進也さんもゲンゴロウ先生で、モニタリングの一緒にご指導いただけたらと思っています。ぜひご参加ください。ありがとうございます。

 

菊地:私ごとですが、能登町当目にボランティアへ行って、集落の人と話をして、いろいろお付き合いができるようになり、7月20日に「のと里山里海カフェ」を当目で実施することになりました。

 

Iさん:普段は金沢大地で農産加工品などの営業をしております。子どもの頃から生きものに関心があって、学生時代は動物学動物生態学科を専攻していました。人の生活が環境に及ぼすインパクトが大きいからこそ、目の前の生活を少しでも変えていくことでいかようにもできる。生物多様性で持続可能な世界になるんじゃないか、まだまだ変わっていけるのではないのかなと、すごくわくわくしたのを憶えています。

 人の衣食住に密接してかかわっているのが農業の在り方で、それ次第で環境はいかようにも変わっていける。その中で、金沢大地代表の井村辰二郎の取り組みを知り、2011年に金沢に移住してきました。金沢大地の農場があるのは、主に河北潟干拓地です。サギとかシギの数はラムサール条約の登録基準を満たすほどです。生物が多様で豊かな場所ですが、残念なことに1965年ぐらいから化学合成農薬が普及して、生態系が大きく変わりました。その頃、トキが姿を消しました。来年のトキの放鳥、本当にうれしいニュースと思います。井村が1997年から有機農業を5代目の農家としてスタートしていますが、化学合成農薬とか化学肥料を使わない農場に変えています。ドジョウ、ゲンゴロウとかハチ、鳥でしたらコハクチョウとかサギ、あとシギとか希少な鳥類が飛来し、2019年頃からコウノトリの飛来が農場などで確認ができるようになりました。井村が就農して26年目の春で、2023年の春にコウノトリがヒナがかえって、3年連続生まれています。コウノトリは食物連鎖、地域の生態系の頂点なので、生態系が整っていないとヒナは生まれてこないので、私も一社員として携われてほんとにうれしいです。

 コウノトリ1羽は1日に500グラム、ヒナは1キロの餌を食べます。たくさんの生きものが1日で必要です。ヒナが自分で餌を取れるまでの期間は約5カ月間ですが、それを換算すると450キロほどの餌生物が要ります。それを蓄えているのが河北潟干拓地です。すごいいい餌場になっていると実感できて、本当に感動しています。

 こうやって私たちの食べ物を食べてくださったおかげで、26年の時間を経て、こういうふうに変わってきたんだなと思いますし、日々、食生活、衣食住全部ですけども、手に取るものがそれぞれどうやってできたのかなと考えて、環境のことってそんなに遠くはなくって、身近なものをちょっと見つめるだけで変わっていける可能性があるっていうのを、またみんなと一緒に考えていきたいと思います。良かったら、また10月に皆さんと一緒に観察できたらなと思います。

 

菊地:昨年9月、金沢大地社長の井村さんに来ていただき、生物多様性と農業というテーマでお話していただきました。そのとき、おにぎりを提供していただきました。ありがとうございました。いろいろな反対がありながら有機農業を進めてきた中、コウノトリが営巣してくれたことによって、自分の取り組みが評価されたとお話しされていました。

 

Jさん:植物分類とか地理を研究しています。私が一番心配していることは、人材の育成です。植物の分類を仕事としてやれる人は、今県内では10人いないと思いますね。

 石川県にある、現在分布している維管束植物、つまりシダ植物とそれから被子植物合わせて2,562種か2,563種前後あります。2024年度末ぐらいの数値です。1種類ずつ全部調べて、石川県でこれだけの種類があるということなんですね。そのうち大体700種類ぐらいが絶滅危惧種です。だけどそれを判別する人が現場にはいないんですよね。

 生物多様性ということを言っていれば、それで生物の多様性が実際保全できるかっていうと、そうじゃないわけです。具体的に個々の種類について対策が実際にできる能力がある人材をどうしても育成する必要があるんです。ところが、ともかく若い人が全然いないんですよね。金沢大学には昔、動物も植物も分類の研究室がありましたが、今の大学にそういうことできる人が全然いないのです。

 これは由々しき問題です。生物多様性条約があります。国際的な生物多様性をいかにして確保していくかということを決めた条約で、日本も参加しています。条約の目的として何が書いてあるかというと、まず自然を観察し、危ない種類を特定することです。それが一つ。二つ目はそれを監視する。指定された種類を監視するということね。特定したらそれでおしまいではなく、どんどん変わっていくわけです。これは大きな社会的な問題なんですね。しかし、ほとんど行政でも政治でも問題になっていません。私は、非常に気に病んでいます。今後の話題の中に取り込んでほしいと思います。

 

菊地:先ほどの自然共生サイトの話でも、モニタリングをして、その結果を評価していくことの重要性が指摘されました。基礎的な調査が必要ですが人がいない。しかも、そういう基礎的な調査は論文の生産性が低く、研究機関で生き残れない現状があります。若い人がぜひ頑張って、そういうことをやる人になっていただければと思ったりはしますけど。人材育成も考えたほうがいいという問題提起でした。

 

Kさん:生物学科で学んだ時には全然勉強しなくて、何も分からなくて卒業したのですが、今、少し漆の仕事をしています。漆、コーティーングをしています。主婦しながら、食事作りながら、野山の植物を食べれるか食べれないかですぐ見ちゃうんですよね。たとえばスイセンの葉っぱとニラの葉っぱは似てるけれども、スイセンの葉っぱ食べて死んだ人がいるとかね。

 薬草学の先生が、たとえば、この草はこういう薬効があるので、すごくいい薬になるとか。そういうことをちょっと頭に入れたり、そういうことをちょこちょこっと頭に入れて、生活に取り入れると、すごく頭に入るんですよね。だからそういうことで、楽しく子どもたちと生活できるか。そういうことから育成っていうことも考えていけばいいんじゃないかなと思っています。

 それから危険な植物が何かっていうことも大事だと思う。お花屋さんで売っている植物で、結構危険な植物あるんですよね。お花屋さんがそういうことを知ってたり。アサガオっていうか、ラッパ型のおっきな花ですが、麻薬の作用があるんですって。東南アジアではそれを麻薬代わりに使っている人がいることもお聞きしました。ああ、そういう危ない植物も平気で日本人は、きれいだからって、栽培してしまっているんだなっていうことを知りました。周りの植物とかがもっとみんなが身近になれば、そこから自分たちの子どもたちに教えていくっていうこともできるんじゃないか、そして、子どもたちに教えることによって、そういうことに興味を持ってくれた子が、将来そういう方面に関心を持ってきてくれるんじゃないかと私は思います。

 

Lさん:先ほどのJさんが出してくれたように、人材がほんとうに足りないんです。植物に限らず、いろんな生きもののこと、自然のこと、生物多様性を理解しようと思ったら、生物の種類を知っていないと多様性も理解できない。

 問題に対応する時に、やっぱり自分の知っているものでしか対応できない。Aさんが、植えるものがコナラばっかりという話をしましたが、コナラは里山に普通のものだし、無難なのです。何か変わったものとかを植えたら問題になるとか、遺伝子の撹乱になってしまうとか。他の変なとこから、遠いところから持ってきてしまったら問題になるとか、そんなようなこととかいろんなこと考えなきゃいけない。

 今の話で、チョウセンアサガオは結構植えていたりします。「植えたら駄目なんですか」とかいう質問を受けますが、植えたら駄目ってことはないんです。そういう法律があるわけじゃないですから。ただ、要は知識ですよね。これは毒があるとか、あとはとてもきれいだけど、すごく増え過ぎてしまって非常に問題を起こすとか。とにかくやっぱりいろんなことの知識がないと、それを適切に扱うってことができないんですね。

 個々人が知識をすごく吸収することが大事ですし、あと、それを適切に伝えられる、そういった知識を持っている人がちゃんと育つ。どのようにシステムができるのかは、難しいなと思います。自分たちが知らないことがたくさんあるんだ、自分が知っていることだけで対応してしまうことは避けなきゃいけないと思っています。

 

菊地:生きものや生物多様性が大事であっても、知識として継承されない、伝わらないことが起こっているという問題提起でした。

 

Mさん:前回のカフェでお話しさせてもらった者です。元々、水の生きもののゲンゴロウを専門にしていたのですが、気が付いたら水の生きもの、淡水の生きもの、何でも観察会や調査、標本の贈呈をどんどん引き受けるようになりました。

 私は里山の生物多様性という視点から、田んぼとか水場とかで生きもの観察会をしたり、生物を紹介する活動をしています。やっていると、あれもこれも見分けなければいけないことが課題として出てきます。自分で苦労して何とか覚えても、それを伝えるのが難しかったり、そもそも自分一人だけ見分けることができても、できる人育ってくれないと、これまずいのかなと実感しています。

 いざ調べようと思うと、資料が全然そろってなかったりします。図鑑に、全部の生きものが載っているわけでもないですし、地域の特性が全然反映されていないことが多かったりします。結構そういうことで嫌になるかと思います。ほんとうはそういう資料が必要なんです。あってもそれを使うスキルが必要だったりします。自分で調べるのも、覚えるのも大変なのに、さらに伝えるとなると、さらにハードルが上がるなと実感しています。たとえば石川県の生きもの図鑑があると理想的ですが、地域だけ限定した図鑑を作るのは大変です。今の自分の活動で少しでも伝えられたらなとは思っているものの、出口をまだ手探りで探しているところです。

 自分での資料づくりのためとか、生きものを見分けるためにと思って、生きものの写真を撮りためています。個人的には結構な図鑑をつくれそうなレベルまでためてきたかなと実感しています。どこかで活用できないかなと考えてはいます。ホームページを作って出してみるのも面白いのかなとか。YouTubeとかですよね。そういうアドバイス頂けるとすごく助かるなと思っています。

 

菊地:Mさんには前回のカフェでお話ししていただきましたが、写真がとても素晴らしかったです。Mさんの中には、いろいろな知識があるので、それをどのように共有できるのか。地域の財産なんだということも考えていかなきゃいけないのかなと思います。生きものをモニタリングできる人材が不足しているという問題提起があって、色々な視点からお話が広がってきました。

 

Nさん:日本野鳥の会石川のNです。いかに効率的に分かりやすく生物多様性に注目を集めるかということを問題意識として持っています。今回、石川県立大学の上野先生と共著で、石川県の生物多様性の課題を整理した論文を書きました。県のレッドデータブック動物編の全体を簡単に分析し、どういう生態系を保全すべきか、どういう脅威に対処すべきなのかということを簡単にまとめた内容となっております。

 一個人として趣味で野鳥観察をしています。フィールドで感じることはたくさんありますが、これからはいかに一般の方々に分かりやすく伝えていくか、可視化、見える化がとても大事なんじゃないかと思います。今、経済界でも金融界でもネイチャーポジティブというのは重要な経営課題であるとして注目していることは、生物多様性にとって非常に大きな点だと思います。社会経済の中で生物多様性を保全していくためには、可視化が第一ステップと考えているところです。

 

菊地:ネイチャーポジティブというとなかなか分かりにくいかもしれません。自然再興という訳が付いていますが、自然をもっと良くする状態にしていくことが経済を良くしていく、そういう循環を作っていくという考えですね。

 

Oさん:石川県立大のOといいます。幾つかテーマ出てきましたが一つは人材育成の話でしたよね。二つの取り組みを紹介させてください。

一つ目はいしかわ生物多様性ネットワークというNPOをつくったことです。石川県内でいろんな生きものを見ている方がいますが、なかなか繋がっていない現状があります。それを横つなぎにして、ネットワークをつくって、みんなで課題共有して、一緒に考えて解決していこう。そのためのプラットフォームとしてNPOをつくりました。情報を集めて分析をして、何が今足りないのか、何を守るべきなのか、どうしていけばいいのかということを、専門家も入りながら一緒に考えていく。それを次世代につなげていって、石川県の自然環境をもっともっと良くしていこうと。こういう願いを込めてNPOをつくりました。まだ立ち上がったばかりなので、ぜひここにいらっしゃる生物多様性に関心のある方々にも入っていただいて、ご協力いただければと思っています。

 もう一つは、能登についてです。能登半島地震、そして豪雨災害があり、能登半島、今大変なことになっています。インフラ復旧、暮らしをどう取り戻すかということがずっと言われていますが、一方で能登の魅力って何かなって考えた時、やっぱり里山里海であったり、おいしい食であったり、生物多様性、希少な生きものがいっぱいいる環境かなと。ただ、今は表ではなかなか言いにくい。知らないうちに失われていくという危惧を持っています。これをどうやって守っていけばいいのか。声高に生物を守るべきだっていっても、今の時代、受け入れられないと思うんですね。では、どうするか。一つは、自然をうまく使うというグリーンインフラっていう考え方かなと思っています。

 たとえば、土砂災害を防ぐために植林をする。そういう昔ながらの知恵とか工夫を、もう一回発掘して、能登に合うような形で提供していく。それを研究者がやるだけ、アイデア出して、言いっ放しだけじゃなくて、東京のゼネコン、技術者さん、そして地元のいろんな方々、研究者だけじゃない地域の方にも入っていただきながら、企画をつくっています。地域の人たちと一緒に、何が今求められるのかを議論して、しかもそれを実際に現場に入れていく。5年、10年計画ぐらいでやろうとしているところです。

 参加メンバー募集しています。どんな議論が行われるのかを見ていただくだけでも、とても私たち励みになります。やる気のある農家さんを紹介していただく、漁業者さんを紹介していただく、あるいは地域で頑張っている人たちを応援してほしい、そういう思いでも構いません。ぜひ能登の復興、自然環境を守ることに、みなさんと一緒に取り組めたらいいなと思います。

 

菊地:私とOさんは、以前『グリーンインフラによる都市景観の創造−金沢からの「問い」』という本を出版しました。

 グリーンインフラとは、自然をただ守る対象と見るのではなく、社会の基盤として位置づけ、適切に活用していきましょうという考え方です。これからの自然共生社会を目指す基本的な考えであり、特に能登復旧復興において、自然をうまく活用することは重要ではないか。そのような問題提起と呼びかけでした。

 

Pさん:金沢大学の国際学類教員のPです。私のやっている活動は、生物多様性からちょっと離れますが、能登との関係ということで話をさせていただきたいと思います。少し前に、金沢大学で能登の朗読ワークショップをしました。能登で被災された方々からの声を基に台本を作り、その台本を読むことを通じて能登のことを考える、感じることを試みるものです。

 能登で被災された方の話を、語り部的な形ではなくて、被災されていない人たち、学生さん中心ですね、読んで、感じ、考える。災害は起こった時だけではなく、その後の生活でさまざまな不安とか、あるいは希望を持っていらっしゃる方がいます。日本語と英語と両方でやりました。被災された外国人の方々がいます。そうした声を取ってきて、その方々ならではの思いがあります。そういう視点から能登のことを考える、またそこに住んでいる人々のいろんな葛藤とかを知る機会になったと思っています。今後もそういう活動を続けていくことで、朗読を通して能登のことを考える機会にできればいいかなと思っています。ありがとうございます。

 

菊地:私も朗読ワークショップに参加しました。黙読して音読するんですね。音読すると何かが違うと実感しました。文字面を目で追っかけて頭の中に入るのと、自分で声を出して話すのだと、全然違うんだなと。自分の身体が話す、自分事としてなりやすい、ということがよく分かりましたし、英語と日本語だと、同じ内容でも全然違うと感じました。

 一律に被災者といいますが、いろいろゆらぎながら、日々色々と考えていることがよく分かりました。一人一人に寄り添いながら、一緒に考えていく手法だと思います。

 

Qさん:私は過去10年間、ブラジルに住んでおりました。父親は珠洲市民です。こちらに帰ってきて、ブラジルでやってきたことと能登の復旧や復興に何か力になれないかということで、活動を始めています。

 ブラジルで私は何をしていたか。アクロポリス、植林をしながら耕作放棄地で果物を作っていく農法なんです。熱帯雨林の気候なので、カカオ、コーヒー、バナナとかそういったものを、共生しながら育てていく年月のかかる農法なんです。私が師匠と呼んでいる人が、20年、30年前に始めて、耕作放棄地だったところが今もう森に返っています。そこから実際に収穫を得ています。大規模じゃないのですが、環境教育の場として使っている感じなんですね。地域の人だけじゃなくて、人材育成の話とか、若い人が興味を持ってくれたらっていうお話をしています。イベントをすると、若い人しか集まらないんですよ。それがとても意外です。みんなで話し合ったりだとか、音楽だとかダンスだとかそういうのを入れ込んだりだとか、先住民の長老を呼んで、いろんな人たちに話をしていただいたりしています。要するに年上のリーダーの方々と若い人たちのつながりをすごく大切にしています。若い人たちが集まってワーワーしているのではなく、リーダーたちの知恵などをちゃんと伝えていけるようなイベントです。

 あとは能登で実際見て、災害にも役に立つと思ってやっていることは、なるべく自給自足できるように、水も雨水を集めて、水道を使わない方法です。雨水と井戸。あとトイレはドライトイレ。水なくても使えるトイレ、肥やしにするんですけどね。若い人たちが集まるイベントを定期的にできていったら、もっと認知も広まっていくと思っています。まだまだ人脈も経験もないので、ゆっくりできていったらなと思っています。みなさんのご協力とご指導をお願いします。

 

 

 

 

 

 

休憩

 

Rさん:石川県のイノシシですが、能登半島の先端にはイノシシいなかったと言われていますが、今はもう珠洲までイノシシがいます。約20数年でもう広がってしまったということですね。金沢大学名誉教授の先生は、能登半島ではイノシシ、シカは大正末期に滅亡したと言っています。能登半島でのイノシシ狩りの歴史があります。中能登地域は鉄砲でバンバン打っていました。落とし穴とか追い回すような形で、小規模にやっていたんです。これが多分、能登半島からイノシシ追い出した、一つの原因だと思っています。

 能登半島先端の海岸では塩を作っていました。中では炭を焼いていました。鉄材が必要なので、鉄も作っていました。当然、薪は山から持ってきます。牛を使って、海岸と山奥の交流、ネットワークがあったわけです。人の交流もあったし、経済活動もする。塩を作っている、鉄を作っている、炭、まき、漆、焼き物まである。もしかしたら金沢よりも情報通だったかもしれません。これが能登半島先端の産業構造だった。この時代、いっぱいトキが舞っていたわけですね。

 先ほど述べたように、炭焼いていました。加賀藩の政策で、なかなか山の木を切れない。特に松は切るなといわれていました。でも今は、ほんとに松がないんですよ。だからマツタケがありません。マツタケの大先生が残した本があります。その論文の一つからデータマイニングして、グラフを拾ってきました。金閣寺に住んでいたお坊さんが集めてくるマツタケの数を記録していたものを掘り起こして、グラフ化したものです。この時期にマツタケが取れるということが、昔の先生方の歴史を掘り起こして、こういったデータでまとめている。こういう形の遊び方もあるんじゃないかなと思っています。

 話は戻りますが、タタラ、山で炭焼きをしてくるとか、山と海岸の交流があるということは、ある意味多様性を生んでいますよね。能登半島は農業と林業だけじゃなくて、いろんなことをしていたというのが、私の意見です。

 

菊地:みなさんの意見をうまくまとめられているかどうか分かりませんけど、まとめてみます。

 一つは里山の食の話。二つ目は知識とか人材育成でしょうか。三つ目は能登でしょうか。

 みなさん、18人のお話を聞いて、改めて質問したいとか、人の話を聞いて、自分が考えた意見とか、何か思うことがあれば、ぜひお話ししていただきたいと思います。

 

Aさん:判別できる人材の絶望的欠乏という悲しい事実についてです。最近山で仕事をしてて、大きいサギが飛んでいるなと思って、よく見たら、おそらくコウノトリなんですね。金沢市内です。知り合いのFacebook、女性の方なんですが、野鳥がかわいくてしょうがない、最近カメラで撮りまくっている人が「大きな鳥」とかいって、コウノトリの写真をアップしているんですね。僕はスマートフォンで写真を撮るのですが、位置情報付きなので、どこで撮影したかが一目瞭然なんですね。そんな機能を活かせないかな。以前のカフェで話した市民科学ですよね。何という種類の生きもので、どこで撮ったかっていうのをデータとして蓄積してくれるアプリがありまして。画像認識の能力はGoogleフォトよりも低いかなとは思うのですが、そういったものを活用できたらいいと思います。トキの放鳥も始まりますので、アプリ、作られたらどうかなと。

 

菊地:日本コウノトリの会が行っているコウノトリの市民科学という活動があります。全国各地にコウノトリが生息していて、いろいろな人が見ています。ほぼ全てのコウノトリに足輪が付いているので、写真をとれば、どの個体か判別することができます。その情報が毎日サーバーにアップされ膨大なデータが集まっています。そのデータを分析すると、コウノトリの行動のパターンがわかってきたりします。普通の市民、たとえば通勤の途中とか、あるいはコウノトリ好きな人で追っかけている人、そういう人たちがデータを集めていく。

 もちろん、一定の決まり切ったやり方でデータを収集しているわけではないので、ばらつきがなどはありますが、たくさん集まれば一定の傾向は見えるんですね。今後、石川県でも人材不足をどう補うかっていう時に、一般の市民が少しそこに関わってみる、そういうことができる仕組みを作る必要があると思います。Oさん、いかがですか。

 

Oさん:菊地さんが、少し関わってほしいと言っていますが、少しではなくて主体だと思っています。先週、環境省のトキ担当に行って話をいろいろ聞いてきました。放した後にちゃんとトキが生きているかどうかとか、定着して、エサを食べているかとか。順調に増えていっているかどうか、モニタリングしないと駄目なんですね。研究者だけあるいは石川県だけでは全然目が足りないです。

 今のように写真を撮って、ここにいたよっていう記録が残れば、そこを僕らが分析する。主となるのは多分市民だと思います。生きもの調査のアプリのツールもありますし、地図化することもできます。Gさんのドジョウの話がありましたが、誰でも作って、田んぼに沈めるだけでドジョウ増えますので、能登の環境が良くなっているかどうかを、農家のみなさん自身が調べられるようなツールに育ったんじゃないかなと。まさにこういう場で、どんどん協力の輪を広げていければ、もっともっと良くなるんじゃないかなと。すごい意見、ありがとうございました。

 

菊地:科学の市民化。科学側の視点からすると、人がいなくてできない。一方で市民が科学を使いこなしている社会を作ることの重要性をお話されたと思います。

 

Sさん:今能登でコウノトリが繁殖をしている中で、来年の6月にトキが放鳥されます。トキとコウノトリは同じ食性、たとえばドジョウとかカエルとかいうものを食します。果たしてトキとコウノトリが仲良く、相まって生活していけるのかどうかに、一番関心を持っています。

 私が小さい頃に聞いた話です。元々、奥能登出身です。奥能登でトキのことを「ドウ」と言っていました。田んぼの稲を荒らすので、苗の稲を荒らすので「あっち行け」「どうどうどうどう」と言って嫌われとった鳥なんですね。ドウには兄貴がおると聞きました。その時はどんな意味か全然分かんなかったんです。今考えてみると、コウノトリのことじゃないかな。兄貴が、コンコンコンコンコンと進むと、弟分のトキがコチョコチョコチョコチョと進んだというんです。今こうやって思い出して、面白い話を聞いたなと。もし相性が良ければ、能登半島でトキとコウノトリがうまく何とかやっていけるんだろうなと、お互いに分かち合いながら。ドジョウとかカエルがうまくいれば、共生できるんかなというふうには思います。来年の6月以降、楽しみにして。ありがとうございました。

 

Iさん:河北潟に日本コウノトリの会が立ててくださった巣塔に、コウノトリの親子がいます。あまり他の鳥類とバッティングしていることは見当たらない雰囲気ですね、水辺の鳥でも一番上のものがコウノトリなのですが、対コウノトリは見たことありますが、他の鳥への攻撃は、見当たらなかった気がします。

 

Sさん:志賀町の山の中にコウノトリが今生息していて、4年連続でヒナが誕生しています。今年は4羽。コウノトリの営巣地と志賀町がトキの定例地と指定している場所が非常に近いんですよ。あそこに放鳥されたら、トキとコウノトリの関係は一体どうなるんだろう。

 

Oさん:私は佐渡でトキの調査をしていたことがあります。その時に、佐渡にもコウノトリ飛来したんですよ。ロシア産のコウノトリだったんですけど。やはり餌の食べる場所の使い分けがあるんですよね。コウノトリの方がドジョウがたまっているところで一生懸命食べると。トキも来るのですが、体が大きいので、気にしないっていうか無視しているという感じ。もう一つは、コウノトリ同士の攻撃性がすごく強いんです。コウノトリは低密度で群れない。低密度でいるので、トキがその周りにいても、そんなに支障ないかなと。すごく数が増えれば問題が出るかもしれませんが、それは別のうれしい悲鳴ですね。

 

菊地:トキが来年放鳥され、どういうふうに共存したらいいのか。能登の人をはじめ、加賀の人も含めてなかなかよく分からないことがたくさんあると思います。

 

Tさん:石川県立大学1年のTと申します。このカフェ2回目です。僕は大学で環境教育を学んでいて、将来的にも環境教育をやりたいなと思っています。みんな、小さい時は動物とか好きなんです。僕はめっちゃカエル好きなんですけど、カエルが好きだって言ったら、カエルは気持ち悪いっていうふうに教えられたり、泥んこになって帰ってきたら、泥んこ、汚いとか。川で遊ぼうとしたら川は危ないって言って、そうやって遠ざけられて育てられています。最終的にそういうところに行かなくなってしまって、生態系への関心とかも失われていくのかなと思って生きてきました。将来的にはそういうことをやりたいなと思っているので、よろしくお願いします。

 

Uさん:所属している野鳥の会石川としては、自然観察会を年2回開催しています。毎月行っている探鳥会という鳥を見る会とは別で、自然全体を観察する会です。初心者と老若男女どなたでも参加できます。小さいお子さんと親御さん中心で参加していただける会です。鳥だけじゃなくて、花を見たり、植物見たり、動物を捕まえたり、虫捕まえたり、木の実を食べたり、いろんな実験してみたりとか、そういうことをやっています。

 みなさんみたいに専門的なお話じゃなくて恐縮なんですけど、その入り口になるところ、興味を持ってもらうために、何かできないかと思って活動しています。結構人気なので、もし良ければ、ホームページをご覧になってください。よろしかったら今月終わりにありますので、ご参加ください。

 

Bさん:子どもたちに教育したいっていう話だったんですね。失礼ながら何歳でいらっしゃるんですか。

 

Tさん:18です。

 

Bさん:18歳。私は47歳なんですよ。ファミリーコンピューターが出てきた世代なんですね。ニンテンドー3DSとかSwitchとかWiiとかそういう世代じゃないですか。今の子どもって、やっぱり外で遊ばないですよね。少子高齢化なので、子どもがすごい少ないじゃないですか。僕らの頃って、いわゆる団塊ジュニアって言われる世代なので、子どもがいっぱいいたんですよ。遊び方も、ガキ大将まではいかないけども、それに類するような人がいたりとか。だから今、とっても遠ざけられてるっていうのも仕方ないことなんだろうなっていうのが一つあるんですよ。

 僕、生き物を子どもに触らせたりとかします。子どもらね、最速で手洗いに行って、手洗ってくるんですよ。僕らの頃よりも衛生観念もすごく高まっているんですね。だから、もう18歳の君と47歳の僕はもう全然異質なものだと思うんですよね。でも、ファミリーコンピューターが出てきた世代の僕は、多分、それより上の人よりも君ら寄りではある。何が言いたいかというと、自然と遊べたんですけども、こういう付き合い方があるんだよっていうのを、伝えていかないといけないんだろうなと思います。狙い目は、子どもに体験させてあげたい感じの親御さんの子どもなんかは、すごくいい感じにマッチするんですよね。だからターゲットを絞って、そういうものを提供するっていうことが大事になるんじゃないかなと思ってやっております。

 

菊地:無菌社会、菌をなるべくなくそうみたいな社会ですね。そういう中で、いろんな遊び方を伝えるということを意図的にやらないとなかなか難しくなっているというような状況なのかなと思ったりします。

 

Vさん:石川県立大学の1年のVです。石川県でシカが増えていることについてです。愛知出身で、滋賀と岐阜の間の伊吹山によく行っていました。シカが増えていてシカの食害で木の根っことかがなくなってしまって、土砂災害が起きてしまいました。対策は、土砂災害があってから山を閉じて、猟師さんとか市の方で協力して、シカを捕まえて減らすってことだったんですね。私自身も、狩猟免許自体は持っていますが、周りに持っている人がほとんどいなくて。若い人たちがもう狩猟をやらなくなっているので、それを増やすのが一つ手なのかと。

 それと避妊ワクチンが他の大学で開発されているとこもあって、それがもっと普及するように後押しすれば、少し良くなるんじゃないかなと思います。ありがとうございました。

 

Eさん:おそらく専門家の先生などは、こういうふうにやらないといけないという答えは持ってらっしゃるんですけど、お金がかかるんですよね。お金、県に出してほしいし、国も出してほしい。その対策が必要なんだっていう市民の声、県民の声がないと、いろいろな課題がある中で、すぐにお金は回してもらえないかなと思います。そういう問題意識を持っている人、一緒に取り組んでいる人、若い子たちだったら狩猟免許を実際持ってくれるみたいなものを増やしていく取り組み。もちろん1人ではできないので、そのネットワークづくりっていうのをやっていく。いよいよやっぱり捕獲は一番大事な対策だと思っているので、捕獲にかける予算っていうのを、項目を付けていただけるように、頑張ろうと思っています。ぜひ、やっていきましょう。ありがとうございます。

 

菊地:特に結論はありませんが、何となく傾向はあったように思います。里山とか食、知識とか人材育成の話は大きな話題になりましたし、能登のこともさまざまな観点から話題になりました。

 こうしたことへの対応のような話が最後のほう30分ぐらいでした。市民科学という方法もあるんじゃないかとか、もう少し意図的に若い人と大人と交流とか、遊び方を伝えるようなものとか、あるいは市民の声をもっと大きくしていくことが大事ではないかといったことが話し合われたと思います。それぞれの人が今日の話を聞いて、何かを感じて、何か自分で取り組むきっかけになればと思いますし、これを機に人と人のつながりができたら、私としては非常にうれしいです。

 それではどうも、今日、皆さん、ありがとうございました(拍手)。

 

今回も石川県立図書館の担当者の方に関連図書を集めていただきました。

いつもありがとうございます。

 

 

第4回 のと里山里海カフェ(7/20)アンケート結果

2025年7月20日開催の第四回 のと里山里海カフェの参加者アンケートの結果です

データを示すだけで特に分析はしていません。

参加者数:30名

回答者数:11名

回答率:36.7%

 

 

①年齢(回答数11)

 

10代:9.1%(1名)、20代:9.1%(1名)、30代:9.1%(1名)、40代:18.2%(2名)、50代:54.5%(6名)、60代:0.0%(0名)、70代以上:0.0%(0名)

 

 

 

 

 

②性別(回答数11)

 

 

男性:45.5%(5名)、女性:43.5%(6名)

 

 

 

 

③職業(回答数11)

 

 

会社員:27.3%(3名)、公務員:36.4%(4名)、教員:0.0%(0名)、自営業:18.2%(2名)、主婦/主夫:0.0%(0名)、パート/アルバイト:9.1%(1名)、学生:9.1%(1名)、無職:0.0%(0名)、その他:0.0%(0名)

 

 

 

 

 

④カフェのことを知った情報源(回答数11 複数回答)

 

チラシが9.1%(1名)、菊地直樹のサイト/フェイスブックが27.3%(3名)、県立図書館が0.0%(0名)、いしかわ自然学校が0.0%(0名)、クチコミ27.3%(3名)、金沢大学のアカンサスポータルが9.1%(1名)、その他が27.3%(3名)でした。

 

 

 

 

⑤参加回数(回答数10)

 

一回目:60.0%(6名)、二回目:20.0%(2名)、三回目:10.0%(1名)、四回目:10.0%(1名)

 

 

 

 

⑥満足度(回答数11)

 

大変満足:36.4%(4名)、満足:63.6%(7名)、どちらともいえない:0.0%(0名)、あまり満足ではない:0.0%(0名)、満足ではない:0.0%(0人)

 

 

 

 

 

由回答には以下のような言葉が寄せられました。

 

・能登での開催で、実際に能登に住む人、能登出身者のお声を聞けたので。

・日本コウノトリの会の方にお会いして、コウノトリのお話を詳しく聞けたので。

・能登で開催していただけたことが大変有意義だった。

・様々な立場の意見に出会える良い場所だった。

・コウノトリとトキだけでなく、人、自然、動植物が一層関わり、活性化することが大切だと感じた。

・コウノトリが稲を踏んでも平気ということがわかりました

・コウノトリ保護を豊岡でスタートした経緯、戦略などを知ることができました。ありがとうございました。

 

 

⑦参加して能登の里山里海について、考え方は変わりましたか(回答数11)

 

 

大きく変わった:18.2%(2名)、変わった:54.5%(6名)、どちらともいえない:18.2%(2名)、あまり変わらない:9.1%(1名)、変わらない:0.0%(0名)

 

 

 

 

 

由回答には以下のような言葉が寄せられました。

 

・自分の住む地域にどんな生態系があるのか、希少生物はいるのか?知ることから始めたいです。

 

 

⑧今後も参加したいと思いますか(回答数11)

 

参加したいと思う:90.9%(10名)、思わない:0.0%(0名)、わからない:9.1%(1名)

 

 

 

 

 

 

⑨興味があるテーマ

 

・希少生物・植物の保全

・外来種への対応取り組み、希少種、在来種の保全とは

・トキについて

・トキ

・水域・流域防災、多自然河川づくり

・能登ヒバの歴史、産業、みらい

 

 

⑩全体としての感想として、以下の声が寄せられました。

 

・コウノトリのことがよく分かった。びっくりしたことがたくさんありました。

・コウノトリの保護活動について詳しくない知ることができました。ありがとうございました。娘も楽しかったようです。

・トキの放鳥を控える中で地域や行政の取組を知ることができ大変勉強になりました。

 

第4回 のと里山里海カフェを開催します(7/20)

第4回目となる今回は能登町当目で開催します。
トキ、コウノトリとの共生を通して地域の未来を考えます。
能登在住ではない方の参加や意見もとても大事だと思います。
連休の中日ではありますが、ご参加をご検討いただけると幸いです。
 
【話題提供者】佐竹 節夫さん(日本コウノトリの会 代表)
【テーマ】トキ、コウノトリと共生する地域づくり
【日時】2025年7月20日(日)13:30〜15:30
【場所】能登町当目 当目地区多目的研修集会センター ※対面のみです
【対象】どなたでも参加できます(参加費無料)
【定員】20名程度
【主催】金沢大学先端観光科学研究所 菊地直樹研究室
【後援】世界農業遺産活用実行委員会
事前申込をお願いします。
 
 
 
 

アドバイザーになりました

能登GIAHS生物多様性ワーキンググループのアドバイザーに就任しました
のと里山里海カフェなどの取り組みと連携できればと思っています。

コメンテーターを務めました

第71回環境社会学会(於:立正大学品川キャンパス)の震災・原発事故特別委員会企画「災後の『住まう』を考える−津波被災地域の現在から」のコメンテータを務めました。
災害の研究をしているわけではありませんが、宮城県を事例にした二本の報告をお聞きした上で、能登半島地震に関わっている観点からコメントさせていただきました。
経済合理性とは異なる「住まう」の正当性?、住まう、住民の問い直し、などです。
東日本大震災からの復旧・復興プロセスから色々学べました。企画していただいた方々に感謝です。

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