第三回いしかわ生物多様性カフェ報告

第三回 いしかわ生物多様性カフェ記録

開催日時:2024年1月19日(金)18:30〜20:30

開催場所:石川県立図書館研修室

話題提供者:高橋満彦さん(富山大学)

テーマ:法律は生物多様性を守るのか?

参加者数:43名(一般参加者33名+スタッフ・関係者10名程度)

 

石川県立図書館のスタッフさんに、関連する本を集めていただきました。

 

【話題提供】

高橋さんは、環境法の専門家であるとともに狩猟者でもあり、バードウォッチャーでもあります。現場経験が豊富な環境法の専門家として、国内外の事例を紹介していただきながら、自然に関連する法律を紹介していただきました。

 

まず小魚がダム計画をストップしたアメリカの事例を紹介(のちにダムは完成)。なぜそこまでして野生生物を守るのか?現在、野生生物の大量絶滅が進行していて、大量絶滅の危機に瀕しています。一般的に、絶滅は生息地の破壊、過剰な利用や消費、外来種による影響が要因と考えられます。

沖縄にしか生息しない固有種ヤンバルクイナが絶滅の危機に瀕しているのは、森林破壊が一因ですが、外来種マングースが捕食することも大きな影響を与えています。マングースの駆除事業が進行中です。奄美大島では、アマミノクロウサギという固有種で絶滅危惧種がノネコに捕食されていますが、猫駆除に対しては反対意見が多いです。

 

そもそもなぜ生物が必要なのでしょうか?食料や薬、バイオ資源、生態系が崩れると人にも被害が生じる、文化、見て楽しい、美しいなど、色々な理由が考えられます。私たちは野生生物を食べていますし、野生生物に感謝して利用する文化もあります。一方、イノシシやクマによる被害も生じていて深刻です。野生生物による恵みも災いもありますが、そもそも人間はほかの生物を絶滅させてはいけないんじゃないでしょうか。

 

日本における野生生物関連法の体系。守るものとしては種の保存法や天然記念物。駆除するものとしては、特定外来生物法。鳥獣を保護・管理する鳥獣保護管理法。魚類に対しては漁業法や水産資源保護法。

種の保存法の保護指定は少なすぎるが増やしてはいます。鳥獣保護管理法の目的は、鳥獣の保護と管理、狩猟の取締りを通じて、農林水産業の振興と生物多様性の確保とあります。狩猟鳥獣以外は、原則捕獲禁止で、鳥獣保護区を設定するとあります。狩猟鳥獣は46種類。有害鳥獣等には捕獲許可を出します。特定外来生物法は、生態系、人の健康、農林水産業などへ被害を及ぼす外来生物を「特定外来生物」に指定して、捕獲を含めて防除をします。159種類が指定されています。

 

野生動物を巡る法律は何を定めているのでしょうか?

・保護・保全:とってはダメ、禁猟(漁)期、保護区など

・捕獲する権利の配分・調整:漁業権など

・土地利用のありかた:動物も土地が必要

・動物による害の防止:鳥獣害、外来生物問題

・安全の確保:狩猟安全など

・スポーツの円滑な実施:皆で釣りや狩猟を楽しむ

・文化的要請:動物を巡る地域文化を守る

・動物福祉、動物愛護:残酷な捕獲方法は禁止

 

野生動物に関する法律の課題

・動物種や生態系に関する科学的知見の不足

・希少種保全科学の未発達

・野生動物管理が未熟

・人間社会の変化

・グローバル化

・一次産業の衰退と都市化

・人と動物の関係の変化

 

 

ブレイクタイムでは、周りの人と15分ほど雑談。各テーブルは盛り上がっていたようでした。

いよいよ対話開始。私の学生が作成した記録をもとに、対話の様子をお伝えします。

 

【対話】

Aさん:鳩の餌やりをよく見る。行うのは法的にどうか。

 

高橋さんそもそも動物の餌付けは法律で、一般的に規制されてはない。市町村で条例が制定されている場合はある。例えば、富山市ではカラスにエサをやってはならないという条例がある。去年から、国立公園では餌付けをしてはならないようになった。

ドバトは元々外来生物であるが、伝書バトは戦争中に活躍したという歴史がある。鳩を駆除するとレース鳩協会からクレームがあるといわれるが詳細は不明。以前、広島の平和記念公園に居ついた鳩が大きな問題となった。市町村役場に相談すれば、ドバトを駆除することが可能である。

 

Bさん(大学教員):餌付けは日本ではネガティブに捉えられている。一方海外、例えばイギリスでは、野生動物を庭に呼んで愛でるために餌付けをしている。

 

Cさん(大学生):野良猫への餌やりは、愛でるのはいいけど、ご近所トラブルになる。山奥ならOK。住宅街ではNGだと思う。

 

Dさん:餌やりは不幸な結果しかもたらさないと思う。エサが行き渡らない動物もいる。餌付けを行う人は法律で捕まえて罰金をとるなりすればいいと思う。なぜ、強く規制できないのだろうかと思う。

 

Eさん(自然保護関係者):職場で管理している場所に、勝手に誰かが錦鯉を放した。見回りしていると、鯉やリスに餌やりしている人がいた。厳重に注意したが、何度も餌やりに来ている。個人としては餌やりに反対している。餌やりの線引きは最初からしておいた方がいいのではと感じる。

 

Bさん(大学教員):ネガティブな話ばかりなので、ポジティブな話をしようと思う。北海道のタンチョウの生息数が増加している。それは、国などが冬に給餌しているから。必要であれば、戻って餌を食べられるようになっている。線引きとはいったい何だろうか?コウノトリでも餌やりしていますよね。

 

菊地:今はしていない。個体数が少ない希少種に対してはエサをやって守ろうとするが、個体数が多い動物への餌やりは批判される。保護と愛護の違いも難しいところである。

 

高橋さん:餌付けは国家権力を持ってまで抑圧すべきものなのだろうか?疑問である。哺乳類の研究者は餌付けに反対なのに対して、鳥類の研究者は比較的寛容な人が多い。アメリカのショッピングセンターでは餌付け用の商品が売られている。案外、餌やりが一概に有害とは言えないかもしれない。

 

Fさん(大学研究員):野生動物と飼育生物の境界は曖昧と感じた。種の保存法で法律や保護区を制定すると、その境界線が曖昧であるということが明らかになる。人間は動物と触れ合いたいと思っているため、餌やりしたがるのだと思う。動物とのふれあいを、動物の本能である食欲に結び付けることで、交流を図っている。いろいろなところで餌付け体験ができるのはその理由であり、人間と動物との緩やかなかかわりの場になっている。

 

菊地:野生動物と飼育生物の境界は曖昧かもしれない。例えば、ある特定の動物をターゲットにしたビオトープづくりはどうだろうか?餌付けのように直接的ではないが、行動を変容することにはつながる。動物側に選択の幅はあるが。

 

Gさん(留学生):生物絶滅は生態系環境に影響を及ぼすのか。

 

高橋さん:あるショッピングセンターは谷を埋めて作ったが、絶滅危惧種の生息地を破壊することにつながっている。事前に、調査した時はいなかったが、建設が始まってから存在に気が付いたが、建設は続行された。イオージマクイナは戦争で生息地が破壊され絶滅した。

 

Gさん:能登地震の影響で海の生物は絶滅するだろうか。

 

高橋さん:能登地震の影響はまだはわからない。東日本大震災は希少種生育地の消滅もあり、個体群レベルでは、絶滅もあったようだ。また、三宅島の噴火などでは植物が絶滅している。しかし、自然災害による植物絶滅は自然の一部。ただ、人間が人為的にその速度を変えてしまってはいけない。

 

Hさん(学生):生物保護においてどのような法律があったらいいと考えるか。

 

高橋さん:新たな法律の制定よりも、法律の運用の方が大切。法律は東京で制定されるが、東京の人が考えていることと、例えば北海道の人が考えていることは違う。例えば、熊の問題に関して「熊はかわいいよね」という東京の人と、通学路にクマが出そうなところを通る子どもを持つ親との考え方は違う。地域によって大きく異なる。各地域で個別に対応する必要がある。一方で、北陸にはツグミを食べる習慣があったが、ツグミ類は渡り鳥で保護対象になったので、食べてはいけなくなったが、国際的見地からの保護は必要性だ。

 

Iさん(公務員):生物多様性と再生可能エネルギー(風力発電)の対立は両立できるか。 

 

高橋さん:風力発電の風車に鳥がぶつかる問題。バードストライク。風があるところというのは渡り鳥の道になっている。風力発電所は風のあるところに建設するので、必然的に鳥の通り道である。建設の際にはリスクとベネフィットを考えなければならない。電力の企業は長期間にわたって環境アセスメントをする必要がある。

 

Dさん:銃に対する規制が厳しすぎで、獣害に対する防衛ができないのではないのか。

 

高橋さん:銃を規制にするにあたって、猟銃とそれ以外の銃を一括りに厳しくするのは芸がないと思う。国内の法律は、多数派の意見によって決まる。

 

Jさん(大学教員):震災に対して、どのような貢献ができると考えているか。データサイエンティストとしてできることをやりたいと思っている。

 

高橋さん:震災のせいで山に入る人が減り、野生動物が増えるのではないかと予想している。

東日本大震災の後、狩猟者を対象に震災以降の行動変容の調査を行うと、狩猟をやめた人が増えたことが分かり、実際に鳥獣害が増えた。

話は変わるが、避難所と被災地との2拠点居住の人が増える。法律的には住民票が1つしか持てない。

 

 

ページの先頭にもどる