国際シンポジウム「都市景観をグリーンインフラから考える:金沢市における活用と協働」を開催しました
8月31日、国際シンポジウム「都市景観をグリーンインフラから考える:金沢市における活用と協働」(於:しいのき迎賓館)を開催しました。
私が所属する金沢大学地域政策研究センターの主催で、共催は金沢市、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(OUIK)。金沢大学地域政策研究センター、国連大学、石川県立大学の地域経済学、環境社会学、生態学、地理学、建築学などの研究者と金沢市景観政策課によって企画したシンポジウムには、雨が降るなか85名が参加されました。
シンポジウムは3部構成。
セッション1は「グリーンインフラを学ぶ」。
グリーンインフラとはなんでしょうか?
ここでは「多機能性という視点から自然を再評価することによって、持続可能な社会形成を目指した土地利用計画」ととらえておきましょう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの西田貴明さんによる国内外のグリーンインフラ動向や施策を俯瞰する報告。データがたくさん示されていて、とても勉強になりました。まさにグリーンインフラの基礎講座です。
東京農業大学の福岡孝則さんから、グリーンインフラを核にしたLivable Cityの創成という視点から、住みやすい都市をつくるためのグリーンインフラのあり方に関する報告。グリーンインフラとは地域ごとに定義するものであり、緑の機能と質を高め、場所を共有し育てることが大事と指摘。コンパクトに暮らすことが、金沢のグリーンインフラの特徴かもしれないと思いました。Livable Cityの指標や美しい写真で紹介された先進地であるポートランドの事例なども興味深かったです。
ソウル大学の宋泳根さんからは、ソウル市のグリーンインフラに資する取り組みや自身が関わっている取り組みの時系列形式の報告。韓国におけるスピード感や予算投入の規模の大きさなどが、日本とは全然違っていて面白かったです。戦争で古いものが失われたソウルに対して、戦災や大きな災害に遭っていない金沢は、非常に恵まれていると思う一方で、古いものが残っているからこそ、大きく方向を転換することはなかなか難しいのかもしれないと思ったりしました。
セッション2は「金沢の都市景観をグリーンインフラから考える」。金沢在住の研究者を中心にした金沢のグリーンインフラに関する研究や取り組みを報告。
石川県立大学の上野裕介さんからは、防災・減災、環境、経済からみるグリーンインフラ。土地利用変化の分析などを軸に金沢での防災・減災、環境、経済から見るグリーンインフラに関する報告。旧市街地の都市景観が保全・再生される一方で、開発が進む金沢駅西口。この2つの現象はつながっており、とても政策的な課題だと思いました。
国連大学の飯田義彦さんからは、GISによる分析をもとにした金沢のランドスケープと生物文化多様性に関する報告。水、食、工芸といった金沢の暮らしが自然資本に立脚していること、用水の機能の変化、30年間にわたって用水で実践されてきたホタル調査なども印象的でした。金沢の都市景観は、より広域的なランドスケープと関係していることを実感しました。
国連大学のファン・パストール・イヴァールスさんからは、用水を活かした庭園の現状と協働的な維持管理、市内の空き地、空き家のマップを披露。清掃ボランティアも組織しながらの研究は、まさにレジデント型研究のあり方。空き地のデータ化は足で稼ぐとても地味で大変な調査。その研究姿勢から学ぶことがたくさんありそうです。庭園も空き地も所有者だけでは維持管理できないので、これから協働的な管理をどのように創っていくのか。コモンズの創生という課題も見えてきました。
奈良文化財研究所のエマニュエル・マレスさんからは、日本庭園を起点において、周辺部とのグリーンインフラ的なつながりを探求する報告。マレスさんとは、地球研時代に一緒に仕事をしていたのですが、今回初めて報告を聞くことができました。日本庭園の歴史研究からグリーンインフラという現代的な課題がどうつながっていくのか。マレスさんの今後の研究が楽しみです。
最後は、コーディネーターを務めた菊地から、グリーンインフラの順応的ガバナンスについて報告。グリーンインフラの特徴の一つである多機能性は、効率を求めて単機能化した行政施策には、基本的に馴染みにくい。グリーンインフラのもう一つの特徴は多様な主体が関わって管理、創造していく必要がある点にあります。このように、グリーンインフラを推進しようとすると、多機能なものを多様な主体が協働的に管理したり、生したり、創造したりしながら、多元的な価値を創造することが必要となってきます。そこで、将来のあるべき姿を多様な主体が議論し、取組を進めながら出来たことを評価しつつ絶えず見直していく順応的ガバナンスで進めていくことを提案しました。順応的ガバナンスとは「不確実性の中で、複数の価値基準を重視して制度や目標、担い手を柔軟に変化させながら試行錯誤していく協働の仕組み」と考えています。順応的に進めることは、バックキャスト的に進めていくことでもあります。私の報告はラウンドテーブルに向けた論点の整理でもありました。
第3部は「ラウンドテーブル」。
会場の参加者も交えての総合討論。東京工業大学/エコロジカルデモクラシーの土肥真人さんからは、前日のエクスカーションの報告。エクスカーションで見て聞いたことをきちんと形にして共有することの大事さを学びました。国交省の舟久保敏さん、環境省の岡野隆宏さん、金沢市都市整備局長の木谷さんのコメント交えながら議論。討論の中では、金沢を流れる用水には数百年にも及ぶ歴史があり、グリーンインフラに特別新しさを感じないという意見もでましたが、バックキャストの視点から金沢を見るとき、たとえば用水といった既存のインフラの質を自然と文化の融合、農村と都市のつながりという視点から高めていくこと、街中の空き地や空き家をグリーンインフラ的に再生・創生していくことなど、いろいろと方向性は見えてきたように思います。そのためには、土地の所有者を含めた多様な関係者の協働が不可欠です。順応的ガバナンスの創造が、改めて重要な課題だと確認しました。
コーディネーター(菊地)の力不足もあって、必ずしも論点が深まることはなかったかもしれませんが、金沢でグリーンインフラという視点から金沢の都市景観や環境、暮らしを考えていく意義は共有できたように思います。最後に、同志社大学の佐々木雅幸さんから、研究者はもっと自信を持ってグリーンインフラの意義を強調して欲しいとの叱咤激励。
懇親会では、金沢グリーンインフラ研究会(仮称)を立ち上げよう、金沢でグリーンインフラを実践しようという発言が相次ぎました。個人的には、今回のシンポジウムの目的は、共同研究や実践の場をつくるきっかけづくりだと考えていたので、いい流れになったと思っています。
今回のシンポジウムのスタッフのみなさん、登壇者のみなさん、シンポ参加者のみなさん、本当にありがとうございました。
昨年の12月頃から、温めてきた企画。ようやく終えることができて、担当者として今はほっとしていますが、大事なのはこれから。まずはシンポを本か何かにまとめたいと考えています。そして組織横断、分野横断、領域横断の研究会を立ち上げ、グリーンインフラプロジェクトを進めていこうと思います。
これからもよろしくお願いします。